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第四十話:同居人で妹ポジで恋人で

第四十話

 俺の所属している日本吸血鬼協会……通称はNKKである。その理事長である大仁さんが何やら色々と裏から手を回してくれたおかげで学園の事は心配しなくてよくなった。

「……望めば元の生活に戻してくれると言ってくれたんだよなぁ」

 NKKと関係のない、ただの日常に戻ってはどうかとも言ってくれた。ただの人間では色々と大変だろうから、戻りたいのなら今がその機会だ……そう、あの人は言ってくれた。

 ま、今の俺が日常に戻るなんて選択肢は選べない。

 世話の焼ける吸血鬼がいるからな。

 さて、NKKの研究室に戻ってきた俺に待っていたのは掃除だ。まぁ、それはいいとしよう。俺の本業だしな。それでも、俺はため息をついてしまう。

「アリス……」

「なぁに?」

「いい加減離れなさい」

「はーい」

 一週間もすればいつもの我がまま娘に戻って『人間なんてわたしの相手にふさわしくないよね。あれは気の迷いだよ』と言いだすだろうと踏んでいたのに日を追うごとに俺に甘え始めていた。

 確かに、これまでも我がままという体裁で甘えていたのだが、それよりさらに一歩踏み込んだ態度で示すような感じで甘え始めた。

「お兄ちゃん」

「何だ?」

 シャワー室へ消えたアリスがタオル一枚巻いて出てきた。

 その程度で今更焦る俺ではない。

「もうっ、アリスちゃんっ。男がいるのにみっともないっ。風邪をひくわよっ」

「普段はちゃんと服着てるもん。由乃ちゃんの方を叱ったほうがいいんじゃないの?」

 由乃とはアリスの以前の相棒だった吸血鬼の女の子だ。私服が着物なのだが……ふとももまで見える超ミニに、立派な谷間を形成するほど胸をがん開きの恥を知れと言いたくなる着物を着ている。

「あの子はよその子よ」

「えー」

「そもそも居ないじゃないの」

「そうだけどさー……一緒にお風呂に入ろう?」

「だから、男の子を誘うようなことは言っちゃ駄目よっ」

「お兄ちゃんの意見としてはどうなの?」

「……シャワー室は二人で入れないだろ。狭いし」

 研究室という事でシャワーはついている。料理は専用の部屋があってそっちで作るしかないが……充分生活できたりする。

「むぅ、そうだよね」

「何より仕事中だ」

「………わたしと仕事、どっちが大切なの?」

 こういうやり取り、好きなんだろうか。

「アリスだ。立派な吸血鬼を彼女に持ってるんだ。仕事をしないとNKKを追い出されるかもしくはアリスと同じ場所で働けなくなるかもしれない。仕事中も一緒に居られるなんて最高だろ」

 アリスが好きなのかどうか……自分でもわからない。今わかることはアリスの事を守ってあげたいと言う気持ちだ。

「……それ、本当?」

「ああ、本当だ。ほら、おとなしく浴びて来なさい」

「はーい」

 掃除できていない箇所が無いかどうか研究室を見渡すと二つ並んだ机の片方がやけに散らかっているように見えた。

 一つはこの部屋のもう一人の主、由乃という女の子の物だ。そしてもう一つがアリスの物。

「……写真が増えたなぁ」

 以前は何もなかった。

 参考資料とか、その程度しか置いていなかった机に今では写真が沢山貼られている。

 この一週間でこれだけ写真を撮るとはな……。

「お兄ちゃんっ、パンツとってー」

 写真を眺めながら机の上の整理をしていたらそんな声が飛んでくる。

「あいよ」

 もっと恥じらいを持ってだな……というお小言は抜きにして隅に追いやられている段ボールからドロワーズを渡す。

「ほら」

「……これじゃないもん」

「はぁ? いつもそれ履いてただろ」

「もうこんなの履かないっ」

 え、ノーパンはよくないだろう。

 俺のその顔を悟ったのか、身体にタオルをくっつけて別の段ボールから布切れを取り出した。

「これっ」

「……」

 黒い下着だった。

 やけにセクシーな見た目でもあるな。

 やれやれ、どういう心境の変化かね。

 父親が娘の成長を嬉しくもあり、悲しくもある時のそれと似たような感じがした……いや、娘じゃないんだけどさ。

「これでお兄ちゃんを悩殺するの」

 右手で拳銃を作り、俺の心臓を撃ったようだ。

「……そうか、頑張ってくれ」

「うんっ」

 眠たくなったら寝てしまうおねむのアリスちゃんがどうやって俺を悩殺するのか知りたいね。

 パンツを履かせて服を着せる。最後に白衣を羽織ると研究者っぽく見えるようになった。西羽津に居た頃はこんな恰好をしていなかったので懐かしい。ま、ここ数日真衣に見ているんだけど。

「俺も白衣着たら研究者っぽく見えるかね」

「助手じゃないかなぁ」

「あ、そうかも」

 どっちかというと今は掃除のおばちゃんだわ。

「夢川さんちょっと手伝ってくださーい」

「あいよー」

 アリス専属の助手と言うわけでもないので、他の場所も当然手伝いを要求されるのだ。

「……ぶー」

「アリス。離してくれないと仕事に行けないんだが?」

「浮気しないでよ」

「するかよ」

 微笑ましそうに俺達の事を見ている吸血鬼に首をすくめるしかない。

「アリスさんは今、幸せ?」

「不幸。あなたがお兄ちゃんを取ったから」

「ごめんね」

「ふんっ」

 それでもまぁ、お仕事が大事というのは理解しているようで俺から離れるのであった。

「帰ってきたら我がまま言うからね」

「はいよー」

 最近じゃよくあるやり取りだ。

 彼女のわがままを聞くのも俺の務めである。浮気をしようものなら……どうなるか想像もつかないね。

 資料室の司書さんが誘惑してくるが、アリスを泣かせるのはまだ早いだろう。

 彼女を泣かせるのは結婚式だと決めて俺は働いているのだ。


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