第三話:プレミアムなフォックス
第三話
廊下から帰る途中、一人の少女が立っていた。
高貴なオーラが垂れ流されてる……といったら失礼だな。
高貴なオーラがにじみ出ていた。
「貴方」
「はい?」
腕章を見るとどうやら三年生のようだ。
糸目だけど、顔が細いと言うわけでもない。髪の毛は今時珍しいポニーテールだ。
「自分が特別だと思っていません?」
「は?」
俺の顔は間違いなく、間抜けな表情をしている事だろう。
誰だっていきなりこんな事を聞かれれば混乱すると思う。
「たった一人の男子生徒……それはすなわち、特別な存在。そうでしょう?」
「……そうは、思ってませんよ」
もしかしたら隠れて男の子が入っているかもしれません。
だって、男子トイレでパッドを落としていた子がいましたし……とは言えなかった。
「まぁ、少しは謙虚なのね?」
「謙虚というか、何と言うか……ところで貴方は?」
「名前を訊ねるときはまず、自分から。鉄則でしょう?」
別に名前が聞きたくて聞いたわけではない。ところで貴方は何でこんなところにいるんですか? 授業、始まってますよねと言おうとしたのだ。
ちゃんと言わないと人間って伝わらないよなぁ。
「聞いてるの?」
少しいらだった感じだったので俺は謝ることにした。
「すみません。俺の名前は……」
「信田葛ノ葉よ。こちらから話しかけましたからね」
「……」
俺のうんざり顔を見て満足そうな顔になる。
機先を制するのが好きなのだろう。
「あ、そうなんですか」
「そうよ。覚えておきなさい」
覚えていたとしても、残り全然ないぞ。何せ、三年生はもう卒業だ。
「えーっと、俺はもう行ってもいいですか?」
「名乗らないつもり?」
「そうでした。俺は夢川冬治です」
「……ふーん」
あまり興味なさそうな顔をしている。
まぁ、面倒な人には近づかないほうがいいだろう。約十八年間生きてきた俺の感想だ。
「じゃあ、失礼します」
「御待ちなさい」
またもや呼びとめられる。今度は何だ。
「狸と、狐……どっちが好きかしら?」
糸目が開かれた。はっとさせるような力をもっていて、俺は少し息を飲む。
「どちらでもないです」
「強いて言うのなら?」
「……狐、でしょうか」
「よろしい。つまり貴方は……狐は特別な存在だと……そう、言いたいのですね?」
「そう言う事でいいです」
「満足しました。私はこれで失礼します」
そういって信田葛ノ葉と名乗った三年生は去っていった。
「信田……葛ノ葉、ねぇ」
俺の知っている葛ノ葉の伝説はあんな態度のでかいやつが出る話じゃない気がするんだが……。
ま、何にせよ調査対象が増えたって事かな。