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第三十八話:白い想い出話

第三十八話

 何と言う事は無い昔の話。

 ひいじいちゃんの葬式に西羽津市にやってきていた。

 葬式と、家の片付けもあって近くの親戚の家に滞在することになったんだが……俺は当然片づけの頭数に入れられていなかった。

 暇な時間を潰すため、遊ぼうにも友達がいない子どもにしてみれば異国の地。目的もなく、お金も持っていないので遊び場は山になったのだ。

 夏休み入ってすぐ、例年に比べ猛暑だったのでその日も暑かった。ただ、子どもの頃だったから、そんなに暑くはなかったと思う。涼む目的で山へと歩いて行ったのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。

 カブトムシを探すつもりだったか、蝉を捕まえようとでもしていたのかよく覚えちゃいない。それでもただ、黙々と山を登っていた。

 とっくに民家どころか、人っ子一人居ない山道を歩いていた俺の目に変な物が入ってきた。

 白い着物を着た三人の人間が倒れていたのだ。その時、俺はサスペンスドラマを思い出した。

 辺りにこの三人を殺した犯人がいるのではないかと見渡し、刑事の真似ごとまでしていたと思う。

 その確認は雑で、右と左を一度ずつ見ていないと判断しただけ。

「大丈夫?」

 まず声をかけたのは男性からだ。

「こ、氷を……持っていませんか」

「氷?」

 そんなものあるわけがない。

「無いのなら、冷たい場所へ……」

「わかったー」

 俺は動けない男性を引きずって近くの川に落とした。

 スイカを冷やすのと同じ原理でいいと思ったんだ。冷静に考えてみれば成人男性を子どもが引っ張っていけるはずもないんだがな。

 男性を落とし、次に女性を引きずって落とした。引きずって行けたのは異様に軽かったからだと思う。

 最後に、男の子か女の子かよくわからない子を川に放り込もうと足を握ったところで気がついた。

 寒いのだ。

 シャツ一枚の俺がぶるっちまうような異様な寒さがその場一帯を包みこんでいた。

 真夏だと言うのに、霜が木々についていた。

「……ん」

 自分が抱えていたおそらく男の子が目を覚ました事を確認し、先ほどの男性達がどうなったのか確認しに行った。

 川は完全に凍りついており、不思議なほど綺麗に輝いている。

 木漏れ日を浴びて光る氷は幻想的で、舞い散る氷の粒子のようなものは見ないとわからないだろう。

 氷が割れて、そこから男性が出てきた。

 恐そうな顔をしていたが、俺を見つけると優しい顔つきになった。

「ありがとう。坊やのおかげで助かったよ」

「あ、いえ……」

 川の向こう側で女性も目を覚ましたようだ。

 この時、俺は柊の事を男だと思っていた。というか、終始男だと思っていたんだよなぁ。

 こうして、小千谷家の命の恩人と言われた俺はほいほい知らない人達について行ったのだ。

 連れて行かれた先はまだ建設途中の屋敷だった。その隣には仮設の住宅があった。

 ちょっとした広場があったので俺はそこで柊と一緒に遊んだ。

 お腹が空いたことを伝えるとそのまま仮設住宅の方へと俺を案内してくれた。

 其処へ招かれた俺はかき氷を食べさせてもらったんだが……馬鹿みたいに寒くなった。

「寒い」

「じゃあ温めてあげる」

 そういって柊が俺にひっついたのだ。

 小学生と言う事もあってか、男にひっつかれる事を別にどうとも思っちゃいなかった。

「くちゅん」

 ひっつかれて更に寒くなったので俺は帰らせてもらう事にしたのだ。

「また来る?」

「うん」

 それから数日、俺は仮設住宅に住んでいた真美さんという人とも一緒に遊び、仲良くなったわけだ。

「そうだ、京都へ行こう」

 なんて親が言いだしたので俺は京都について行くことになった。

 その事を告げると柊は悲しそうな顔になった。

「大きくなったらまた仲良くしてくれる? ずっと一緒にいてくれる?」

「ああ、いるよ」

「うん、約束だよ」

 ありきたりな約束だった。

 まぁ、俺は柊の事を男だと思っていたので友達になるとばかり思っていたのだ。

 今なら、それがどういう意味なのか……この家にやって来てからの柊の言動や父親である小千谷積良さんがとった態度からみてそう言う事なんだろうなぁと考えるしかない。

 京都に行った俺は事故に遭い記憶を失うんだが……そのあたりは未だに戻っちゃいないな。


――――――


「お兄さん?」

 かき氷を持ったままぼーっとした俺を柊が覗きこんだ。

 あの時の柊と被ってみて俺は苦笑してしまう。

「今見たらちゃんと女の子なのにな」

「思い出した?」

「ああ、思い出したよ。その後、京都に行って事故に遭ったみたいなんだ。事故はともかく、柊達が倒れていたのは思い出せた」

「それが狙いでかき氷を食べさせたんだよっ」

 それはともかく、寒い。

「それじゃあさ、あの時の約束も……覚えてるよね?」

 期待と不安が入り混じった視線を俺は受け止め、頷いた。

「まぁな」

「じゃあ……」

「でもな、あれはあの時の柊とした約束だよ。真美さんが言っていた通り、一度忘れちまったんだ。覚えていても無効だと思う」

 俺の言葉に柊はきょとんとした。

「それ、我がままじゃない?」

「そもそも、俺は柊の事を男だと思っていたしな。あの時一緒に居たい……その約束も友達として一緒に居るんだと思ってた」

「……あのさ、それって駄目って事かなお兄さん」

 白けた雰囲気が漂う中、俺ははっきりと頷いた。

「ああ、あの約束はその頃の俺がしたもんだ。今の俺がしたものじゃないよ」

「なにそれ? 借金取りに対しての新手のいいわけ?」

「そうだな、そう思ってくれてもいい。今の俺はNKKに所属しているんだよ。何と言うか、その……だな、柊が何かに巻き込まれたら嫌だし。NKKと話をつけてお前を迎えに行きたいんだよ」

 俺が好きかってやるのは非常にまずいはずだ。そもそも調査の途中だ。

「待った」

 柊からの返事を待っていたら御座敷の扉が開いた。

 そこには柊のお父さんとお母さんと思われる人が立っていたのだ。

 真美さんも後ろに控えている。

「冬治君。お迎えじゃなくて、婿に来てくれ」

「え」

「俺の息子になってくれ」

 お父さんからの告白だった。

 背筋がぞっとしたりする。

「あ、いやー、でもですね。実は今俺……NKKってところの組織に入ってまして」

「大丈夫だっ。雪女の長にこっちから話をしてもらう。なぁに、あっちに比べればまだ雪女の近くに居たほうが安全だ」

 どこか柊に通じるような雰囲気を出す人だな。

「あーもうっ。みんな出てってよっ。お兄さんとの貴重な時間なんだからっ。何だか告白されたような感じになってたのに台無しっ」

 父親と騒いでいる柊を見ていると真美さんと一緒に女性が現れる。

 柊によく似ている人だった。

「こんにちは。お久しぶりね」

「はい。十年ぶりですね。あの、あの時一体何故あの場所に倒れていたんですか?」

「ここら一体を納めていた巫女さんが力を暴発させて煽りを受けた……詳しい事は私たちにもわかりませんがそのように聞いています」

 人間の俺には今一つ理解のできない話だ。

「柊の事は冬治さんに任せます。真美、もし冬治さんがこの家にやってきたらちゃんとお仕えするのよ」

「はい! 任せてください奥様」

「とりあえずあの二人を止めましょうかね」

 ぎゃーぎゃー騒ぐ父娘を眺めながら、俺たち三人はため息をつくのであった。

 いつかこの家に来たらこの光景を毎日拝むことになるんだろうな。


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