第三十三話:今の二人の関係性
第三十三話
石見パパとアリスが話をしている間、俺と椿たんは彼女の部屋にいることになった。
案内された椿たんの部屋は俺の想像していた物と違っていた。
「ほえー」
「変な声出してどうした? そんなに驚く事か」
「ああ……想像と違うとやっぱり驚くもんだぜ」
部屋は散らかり放題だと思っていたんだがな。実際は清潔感のある和室で、いい匂いまでする。
女子の部屋はいい匂いがするもんだと中学の頃友達が言っていたけれど……まさか椿たんがそうだとは思いもしなかった。
あまり匂いを嗅いで居ても変な奴だ言われるな。
「変な奴だな」
「おい、早速言うな……こほん」
一度咳をして俺は椿たんの部屋を改めて見渡した。
「必要最低限の物しかないのな」
「ごみごみしているのは嫌いなんだよ」
あるのは布団、箪笥、机、ゴミ箱ぐらいだ。
「そういえばお前、あたしに何か聞きたい事があるって言ってなかったか」
「ああ、そういえばあった」
結構面白い話を石見パパから聞いていたから忘れてたぜ。
「じゃ、全部答えてもらうから」
「答えられるような質問ならな」
「ああ、それでいいよ。えーと、まずは何で西羽津の巫女に固執していたかだな。お隣さんだとは思わなかったよ」
そう言うと苦々しい顔になった。
「嫌いなんだよ、あいつ。優等生だし、いい子ちゃんだし。あたしが他の連中にちょっかい出していると勘違いしてすぐに襲ってくるしな」
幼馴染って仲良しが多いかと思ったらそうでもないんだなー。
おそらく、あの子はあの子で椿たんのことを心配しているのだろう。
「でも男が嫌いだとは知らなかった。ま、あいつとは殆ど話さないからな。この話はこれで終わりだ。親父と違ってあたしは小難しい話は出来ない」
「そっか。じゃあ、次だな。鬼の不良さんグループだ。あれはいったい何なんだ?」
「中一の頃に肩ぶつかって、殴られたんだよ。それで、仕返ししたらいきなりあんたは俺らのヘッドだとか何とか言いだした。それ以降、ずっと付きまとわれてたんだよ。あいつらがいると何でかすぐに巫女が飛んでくるんだよ」
おそらく牛鬼だと知って西羽津の巫女さん辺りが監視役として付けたのではないだろうかと妄想してみる。
これなら変な連中が椿たんにくっつかないし、好き好んで近づくアホもいなくなる。
「何か思いついたのか?」
「え? ああ、何でもない。椿たんはそんないい友達を持ってるんだって考えてただけだ」
この考えを椿たんに言ったら面倒な事になるだろう。
「じゃ、最後な」
「ああ」
「最近ちゃんと勉強しているかね?」
「……」
静かになった。
「じゃ、椿たん勉強するか」
「……そうだな」
机について俺はそのわきに立つ。
指摘したらやってると嘯いて喧嘩になってしまうだろうからな。
「冬治」
「何だ?」
「そんなに見られると集中できない」
恥ずかしそうに上目遣いでこちらを見てくる椿たん。
意外と可愛い表情できるじゃねぇか。
「そりゃ悪かった」
テーブルが無いから床でするしかないな。
英単語の暗記をしつつ、改めて部屋の中を見る。
落ちつける場所だ。
そしてそれから約一時間、俺たち二人は勉強したのだった。
「お兄ちゃん、帰るよ」
「わかった」
アリスが石見パパを伴って部屋へやってきた。
「じゃあな、椿たん。また学園で」
「ああ」
帰り道、アリスはため息をついていた。
「どうしたよ」
「んー、肝心な事になるとあの親父、知らないとか言うんだよ」
「そんなもんだろ」
「ねぇ、お兄ちゃんの彼女に聞けないの?」
「彼女じゃないし……それに、椿たんは何も知らないよ」
「本当にぃ?」
「ああ、あいつは本当に何も知らないよ」
ぶーたれた表情を俺に見せて、アリスは歩き出した。
「昔の村長の家系を調べてみたらどうだ」
「うーん、そっちは全滅。手がかりすらない」
「じゃあ、駅前神社跡地を調べるのはどうだ」
アリスならこれからでも調べに行きそうなものだ。今回に限っては難しい顔をするだけで行きたい雰囲気も見せない。
「神の世界とやらに飛ばされた時を考えるとね」
「人間以外なら大丈夫なんだろ?」
「吸血鬼が対応しているわけでもなさそうじゃん。NKKには教えないと約束したし、個人の限界かな」
「何だ、約束守るつもりなのか」
「……身の程はわきまえてる。人間が吸血鬼に勝つのは難しい。牛鬼に吸血鬼が勝つのは不可能だから」
首をすくめてアリスは再びため息をついた。
「それに……」
「ん?」
俺に渡されたのは古い記事だった。
「実際に調べようとした少年が以前行方不明になっているからね」
それには行方不明になったと言う少年の記事が載っていた。
「西羽津の巫女に助けてもらうってのはどうだ?」
「あのね、何で閉じ込める側の奴が助けてくれるのよ。その気があるのなら行方不明者はとっくに助かってるでしょ」
「……そうだよなぁ」
「ったく、今回は諦めるけどいつか解明してやるわ」
燃えるアリスの隣で俺は椿たんの事を考えていたりした。
もし、俺が消えてしまったとしたら……彼女は俺を助けてくれるだろうか。
意外といい気味だーなんて言ってそうだ。




