第三十話:思い出せない想い出
第三十話
七月中旬になると人外調査よりもやるべき事がある。
「柊……もうそろそろ期末テストだぜ」
「お兄さんっ。そんな事より夏祭りだよ」
ほら、人によって優先順位なんて違うんだ。
「あほぅ、ちゃんとテストをやるんだ」
「えー、中間頑張ったから僕はパスだなー」
「このアホっ娘め。羽津女学園は期末テストを一つでも落としたら夏休み補習なんだぞ?」
「え、嘘……」
知らなかったのかどうかはわからない。でも、期末テストまでもう時間が無かったりする。
ちなみに進学希望の三年生は夏休み中お勉強確定だ。ま、それが受験生の宿命だよな……あー、でも、俺の場合はNKKが絡んでいるので息のかかっている大学に進学し、そのままNKK行きが決定しているとか何だとか昨日連絡があった。
「というか、来週から始まるじゃないか」
「助けてお兄さんっ」
泣きつかれたとしてもなぁ……ま、一年生の内容なら何とかなるか?
一年の復習をすると考えればいいだろう。
後輩に頼られるのも悪くない。それに、柊には普段からお世話になっている……と、思うので、俺は柊の勉強を見ることにしたのであった。
場所は柊の家となり、俺たちはそこへと向かう事になる。
「そういえば柊の家は見た事が無いな」
「うん、連れてきたことは無いからね……何だか見覚えない?」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん、何でもない」
案内された場所は山の方だった。
夏だと言うのに、家に近づけば近づくほど温度が下がっていく。
これ以上寒くなったらやばいんじゃないか……遭難しかけている気分になりながら数分歩くとようやく日本家屋が見えてくる。
「あれか」
「うん」
辺りに人がいるわけもない。振り返れば中々いい眺めだ……寒いけどさ。
「柊様、お帰りなさい」
「……は?」
「ただいまー真美さん」
若いお手伝いさんのようだ。メイドスタイルではなく、黒いシャツにズボン、腰までのエプロン……ギャルソンエプロン? を着用している。
真美さんと呼ばれた人は俺を二度見した。
「……もしかして冬治君ですか」
「はぁ、えーと、そうですけど、何処かで会いましたっけ?」
「私です。薗田真美です。懐かしいですね……小学三年生の時にお会いしましたよ」
そう言われても俺はぴんとこなかった。
「あのね、真美さん。お兄さんはその後に何かあって記憶が無いんだって」
「うーん、小学三年の頃だったかどうかはわからないけれど、事故にあってその前後が消えているみたいなんです」
「そうなんですか、残念です」
本当に残念だ。
こんな綺麗な人の小さい頃ならさぞかし、可愛かっただろう。
なんだか危ない趣向の人みたいな考え方だな。
「あの頃の記憶が無いのにこうしてめぐり合えたと言うのは運命を感じますね、柊様」
乙女チックなことを言う人だな。
「うん、本当だよね」
「もしかしてあの時の約束を守りに来たのかもとちょっと期待したのですが……記憶が無いのなら仕方がありません」
「え? あの時の約束?」
「ええ、はい。実はですね……」
「真美さんストーップ」
ここで柊ストップが入った。
「まだ話はしてないんだよっ」
「柊様にしては珍しいですね……ああ、そういえば行きたくもない学園にいれられたーと言っていた割にかなり元気だったのは冬治君と出会ったからですか」
むふふと笑って柊を見る。
見られた方の柊は焦ったように手を振っていた。
「き、気付いてたの?」
「柊様の事ならお見通しですよ? 何年一緒にいると思っているんですか」
豊かな胸を逸らした。揺れたのをつい凝視してしまい、気付かれないうちに視線を外した。
「立ち話もなんですから中へどうぞ。ああ、冬治君が来られたのなら旦那さまと奥様にも話さなくてはなりませんね」
そういって走って行ってしまった。
「……何だか凄い事になりそうだな」
「だ、大丈夫だよ。それより勉強教えてくれるんでしょ? 早く行こうよ」
手を引かれ、俺は寒気渦巻く屋敷の中へと案内されるのだった。
屋敷の広い廊下を歩いて、一つの部屋までやってくる。
「ここか?」
「そうだよー」
中へと案内されて驚いた。
広い。
「お嬢様だったのな」
「そういうわけじゃないんだけどね」
苦笑する柊は確かに、お嬢様という器じゃないと思う。でも、屋敷はでかいのだ。これはお嬢様以外考えられない。
「屋敷は広いし、敷地も相当あるだろ……お嬢様じゃないか」
「だから、違うってば。この家は雪女たちの拠点になっているんだよ。普通に生活している雪女もいるけれど、やっぱり暑さが苦手だって人達用に準備されているのがこの屋敷。下宿先とでも言えば理解してもらえるかな」
「なるほどね」
部屋の中を改めてみると確かにお嬢様にしては小さいほうだと思われる。
知り合いにいるけれど、行き帰りが徒歩じゃないもんな。
「じゃ、お勉強しようか」
「ああ」
ノートと教科書を取り出し、テスト範囲の書かれた紙を柊が出したところで咳ばらいが聞こえてきた。
「あー、柊、いるかね?」
「あ、お父さんだ。うん、いるよー」
「開けていいか?」
「大丈夫だよ? 普段は乱暴に開けるのに今日は一体どうしたの?」
え、柊のお父さんはこの時間帯いるのかよ……と、思ったけれど雪女(いやまてお父さんだから雪男だわ)関係の仕事でこの屋敷? を経営しているのなら居てもおかしくないのか。
それよか、年頃の娘の部屋で二人きりなのだ。睨まれてもおかしくないだろう。
「じゃあ、入らせてもらうぞ」
イエティでも出てくるかと戦々恐々としながら待っていると、水色の着物に青の帯をした男性が現れた。
威厳に満ち溢れた厳格そうな父親だった。
こ、これは凄く気まずくなる予感がする。
「夢川冬治君だったね。いやぁ、久しぶりだ」
「え?」
右手を差し出されたのでつい、握手すると冷たかった。
「ああ、そうか。記憶をなくしているんだったね。でも、雰囲気は変わって居ない。あの頃と同じだなぁ」
「あの頃?」
「やっぱり記憶を失っているんだなぁ……約束通り柊をもらってくれるんだろう?」
「ちょ、ちょっとお父さんっ。お兄さんは記憶を無くしているし、覚えていたとしてもそんな約束守ってくれるかどうかすらわからないよっ。そもそも、何の事だかわかってないって」
娘に噛みつかれて父親はたじろいだ。
「そ、そうか悪かった」
「あ、いえいえ……あの、やっぱり小さい頃の俺と面識あるんですか?」
「ああ、あるよ。あるとも。君は私達家族の命の恩人だからね。それに、こうやって柊とも仲良くやってくれている」
軽く肩を叩いておじさんは笑って去っていく。
「ふぅ……」
おっかなかったなぁ。
「やっぱり、俺は柊に会ってるんだな」
「覚えてないんだからしょうがないよ」
柊は笑って教科書を開くのだった。
記念すべき第三十話です。これもみなさんのおかげですかね。さて、今回は……特に考えていませんでした。さて、あとがきで何と言おうか。ああ、んじゃあ次回作の話でもしますかね。三年の二学期中盤、NKKと縁が切れた冬治のもとに襲いかかる謎の黒い物体……何者かに襲われ、瀕死の状態になってしまった冬治は身体を改造され、改造人間として生まれ変わる。次作、気になるあの子と改造人間……こうご期待。こんな感じでいかがでしょう? まぁ、改めて考え直しますがね。あくまで予行ですのでおそらく改造人間ではないでしょうね。




