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第二十六話:雪女と吸血鬼

第二十六話

 なんちゃって正義の味方が俺の隣にいても、都合良く悪の組織が湧いて出てくるわけもない。

 まぁ、悪の組織と正義の味方がセット販売というわけでもない。正義の味方は悪者がいなければボランティアや寄付と言った行動をとれる。

 そもそも、組織という存在ならNKKがあるし、これ以上組織が出てきても俺が混乱するだけだ。

「……悪の組織がいたら俺はゴミを拾っていなかったんじゃなかろうか」

「お兄さん手が止まってる!」

「すみません」

 NKKの調査を手伝っているので、俺もスガーこと小千谷柊のゴミ清掃ボランティアに協力していたりする。

 ゴミを拾いたい人には勝手に拾わせておけばいいさというちょっとだれた感じの考え方だけれども、お世話になっている人間を助けたい気持ちなのだ。

 べ、別に西羽津の為にゴミ拾いをしているんじゃないんだからね? 柊の為にゴミを拾っているだけなんだからね……こういっておけば大抵の人がわかってくれる。

 ま、正義の味方の格好でゴミを拾うのも何ともシュールな気がする。

「あ、スガーだ」

「本当だー」

 これも役得だろう。河川敷のゴミ清掃を正義の味方と出来るとはなぁ……道を通る人達はスガーを見て歓声を挙げ、何人かが写真を撮っていった。

「柊も大変だな」

「え?」

「ゴミを拾いながら子どもの相手をしてるじゃないか」

「楽しいからね」

 こいつは保母さんが向いているかもしれない。

「……スガーの姿で保母さんか」

 影響力ありそうだな。

 ゴミ清掃のボランティアを終えても夏の夕暮れはまだ先だ。

「あつー……お兄さん、どこかで涼んで行こうよ」

 スガーから柊に戻る瞬間を子どもに見られては適わないと律儀に飛び去ってから姿を見せる。

 子どもの夢を守るのも正義の味方のお約束か。

「お兄さん?」

「あ、悪い。ぼさーっとしててさ」

「暑さでやられてるんじゃないの?」

「雪女よりは暑さに耐えられると思うぜ」

 柊の顔は真っ赤だ。普段が真っ白なだけあってギャップが凄い。

「大丈夫か?」

「……もう我慢の限界」

 そういって柊が倒れてしまった。

「ひ、柊!?」

「ちょっと熱いかも……」

 熱い中、ずっとゴミ拾いのボランティアをしていたのだ。

 氷の鎧を纏っていたとしても力を使いすぎたら疲労するのだろう……よくわからないが。

 柊を抱えて、急いで涼める場所を考える。

「ないな」

 少し遠くなるが、俺のアパートへと柊を連れ込んだ。

「あ、お兄ちゃんお帰……」

「話は後だ。クーラーつけてくれ」

「つけてるよ?」

「じゃあ、温度を下げられるだけ下げてくれ。おそらく熱中症だ」

 真っ白な柊の顔を(元から真っ白な顔だが)見て次に胸元を開ける。

「え、その子誰?」

「悪い。それとも痕だ。氷水を準備してくれ」

「わかったよ」

 両脇と股下に氷水を入れたペットボトルやビニール袋を突っ込む。

 パンツやブラに色気を感じるわけもない。そういうのは健康な時だけでいい。

「……ふぅ」

「うわー、すごい手際の良さ。凄いね」

「見よう見まねってやつさ」

「それで、この子誰?」

「柊っていうんだ」

 先ほどよりは静かな寝息をたてている柊。その近辺を雪が舞い始めた。そして、すぐさまそれらは柊の周りを包み、氷の棺桶が出来あがった。

「雪女?」

「一時期は雪男の疑いがあった」

「は?」

 首をかしげるアリスに俺は首をすくめて返した。

「ま、危険性がある奴じゃない。どっちかというと正義の味方だ」

「正義の味方……もしかして最近噂のスガーレジェンド?」

「何だ、知ってるのか」

 まさか噂になっているとは知らなかった。

「羽津地方新聞に載ってるよ。ほら」

 指差す先には確かにスガーレジェンドが写っていた。

「ふーん、この子がね。てっきり男が入っているのかと思ってた」

「まぁ、確かにここまでごつくなるからそうだよな」

「……何でそんな事が出来るんだろう。体の隅々まで調べてみたい」

 ここ最近は大人しくしていた知的探究心とやらがアリスの中でむくむくと起きあがってきたようだ。

「駄目だ」

「えー」

「柊にちょっかいを出したら俺が許さない」

「……何さ、人間のくせに……吸血鬼に勝てるわけないじゃん」

 ぶーたれるアリスに俺は頷くしかない。

「ああ、そうだな。力じゃ吸血鬼には敵わないし、頭でもアリスに負けているだろう。でもよ、家事の能力は俺の方が上だぜ? ゴミ溜めで暮らしたい、晩御飯が食べたくないって言うのなら……好きにしろよ」

「うーん……」

 しばらく考えた後に首を振った。

「どうせこの子は雪女だしね。お兄ちゃんの作る晩御飯が無くなるのなら別にいいや」

 どうやら俺の料理の腕は評価されているようだ。

「解剖は駄目でも話を聞くぐらいはいいでしょ?」

「柊が話すって言うならな」

 同じ学年だし、意外と仲良くできるかもしれない。

「ん、んー……」

 ようやく柊が目を覚ますと氷の棺が霧散した。そして一気に体温が低くなり、アリスと俺は肩を抱いて震えている。

「お、起きたか」

「ふあー……うん。あれ? 何でお兄さんが僕の家にいるの?」

 首をかしげた柊に俺は親指で自分の胸を指した。

「違う。ここは俺の家だ」

 そして、俺を押しのけてアリスがため息をつく。吐く息は白かった。

「お兄ちゃんの家じゃなくて、わたしの住居だよ」

「あれ、この人がアリスさん?」

「ああ、そうだよ」

「妹さん……だよね?」

 疑惑の視線が俺へと向けられた。

「そうだよー、妹だよー。超似てるだろー?」

「似てないよ?」

「血が繋がってないの。似てないのは当然だから」

「夢川アリス? ってこの人の事?」

 柊が首をかしげるとアリスは俺を馬鹿にしたような目で見てくる。

「アリス・D・ロード。夢川なんて変な名字じゃない」

「え? そうなの? いよいよ妹じゃないよ」

 それもそうだなぁ。

 ちゃんと名字は統一すべきだったな。冬治・D・ロードかぁ……何者だよ。

 思案する俺のわき腹を突いた。もうこれは我慢ならないらしい。

「本当に妹?」

「……何よ。人の家の事に首を突っ込まないでよ」

 ここで早々にアリスの機嫌が悪くなった。

「え、あ……ごめんね、お兄さん」

「気にするな」

 どうせアリスとは妹という関係でもないのだ。いわば、家主?

「ちょっと、私に対しての謝罪は無いの?」

 アリスが俺と柊の間に割って入る。

「あ、ごめん。吸血鬼のアリスちゃん」

「吸血鬼のアリスちゃん? あなた吸血鬼を舐め腐ってんの? 雪女のくせに?」

 普段は白いアリスの顔も何故だか怒りに燃えていた。理由はさっぱり分からない。

「あ、そっか。ごめんね。僕、吸血鬼の常識を忘れてたよ」

「吸血鬼の常識……」

 はて、そんなものなんてあるのか。

「アリスおばあちゃんだよね。ごめんなさい。敬語使ったほうがいいですよね。見た目、若くてももう六百年ぐらい生きてるんでしょう?」

 労わる口調へと変貌した柊にアリスの中で何かが壊れたらしい。

「わたしはまだ十六だっ」

「何だ、じゃあアリスちゃんでいいよね」

「くー……もうっ」

 じろっと睨んでアリスは部屋へ引っ込んでしまった。

「……仲良くしてくれよ」

「え? 僕は仲良くするつもりだけど?」

「まぁ、そうだな。何と言うか……水と油か。吸血鬼と雪女が合わないって問題じゃないな。アリスと柊が合わないのか。


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