第二十二話:人外調査は迷走中
第二十二話
羽津女学園へ人外調査にやって来て……柊が人外の調査を手伝ってくれると言った。しかし、用心棒という扱いのため、何か起こった時しか全く頼りにならないのではないか……そう思ったのはどうしたらいいか聞いた時のことである。
「籠とつっかえ棒を準備して餌を仕掛けておけば大丈夫だと思う」
冗談じゃなく、実に真面目くさった表情だった。
そんな事をぼけーっと考えていると声が聞こえてきた。
「お兄さん」
「来たのか」
「うん」
天気のいい日は屋上に限るねぇ。
のほほんとしている俺に近づいてきた柊は何だか自慢げだった。
「ほら、これ見て」
「ん?」
ポーズを取ると腰に氷のベルトが現れる。
「変身っ」
一瞬にして吹雪を纏い、四方から飛んできた氷の鎧が柊を包む。変身時間およそ二秒……俺の目の前にスガーレジェンドが現れた。
「熱い心を氷で覆う。羽津を守る氷の騎士……スガーレジェンド参上っ」
完全にポーズを決めていた。
最初見たときよりも実に様になっている。人外調査なんて、雪女の調査なんてとっくに終わっているし、これ以上見ていても仕方のない要素だけれど……やっぱり、変身はかっこいい。
「何度見ても飽きないフォルムだよなぁ」
「だよねぇ。僕もつい見とれちゃったよ」
一瞬で変身を解いて俺の隣へと座る。何の変哲もない女の子だ。
「最近は照れも無くなって誰の前でも大丈夫だよ」
「そういうところも必要だな」
「うん、これもお兄さんのおかげだよ。僕、部活に所属していないから放課後暇でね、この姿でボランティアすると喜ばれるんだ」
正義の味方がボランティアか。悪くない光景だな。
それから一緒にご飯を食べ終えて、俺たちは立ち上がる。
「じゃ、人外の調査をしようか」
やる気なのは嬉しいけれど、一抹の不安もある。
柊の手に握られている籠と棒がこれから何をしようと言うのか……静かに語っていた。
「柊、それは使用しちゃ駄目だ」
「え? そうなの? 調査するのに規定、あるんだね」
「ああ、あるぞ。籠は魔を払う道具だし、柊の持っているその棒は榊の枝だと思うからな。誘い込むための道具がそれなら人外も縁起が悪いと近づかないと思うぜ」
「あ、そっか」
雪女がばっちり掴んでいるところを見るとあれかね、心がけがれてないのなら普通に大丈夫って事なのかね。
適当な知識をひけらかして見せると柊は俺に籠と木の棒を渡してきた。
「じゃあ、これあげるね? 御守りみたいなもんでしょ」
「あ、ありがとう……」
これ以上触れるのはやめておきたい。
「じゃあ、どうやって探すの? 地道に探す?」
「そうだな……また新しく見つけるのも大変なんだよなぁ」
人外の調査をしようったって不注意な連中を見つける程度しか思いつかない。
それに、この羽津女学園に椿たん、信田さん、柊以外に人外がいなければ調査は難しくなるだろう。元からないものを見つけ出すなんて不可能だ。
「二年生のクラスはどうなの? 調べた?」
「うーん、そっちはちょっとな。知り合いがいないし」
「じゃあ、富木さんに聞きに行く?」
「富木さん?」
知らない名前が……というわけでもないな。何処かで聞いた事がある名前だ。
「もしかして西羽津の巫女さんか?」
「うん」
「……会いに行って大丈夫なのかよ。襲われるんじゃないのか」
確か人外を除去する人だったはずだ。
「大丈夫だよ。男の人が苦手なだけの普通の人だから。それに、お兄さん達が言っている人外でも別に何もしていなければ襲われたりしないよ。正義の味方的な?」
そうだよな。むしろ柊の方は変身ヒロインやってるからなぁ。
柊は携帯電話を出すと富木さんとやらに連絡を入れているらしい。
「あ、もしもし? これから屋上に来られる?」
電話を終えて五分後、西羽津の巫女がやってきた……巫女服姿ではなくて、学園の制服姿で。
ちょっと残念な気持ちになる。威厳とか大切にしてほしい。吸血鬼が黒に裏地が赤のマントをしていたり、お風呂上がりはバスローブ、寝るときは棺桶とか……イメージって大切だと思うんだよね。
「初めまして。俺は……」
近づいて握手を求めようとしたら腕を引かれた。
「お兄さん」
「何だ?」
「言い忘れていたけれど五メートルは離れてね」
「え、何か危険なのか?」
目の前の少女を見るとびくっと身体を震わせた。
「男の人が駄目なんだよ」
「そ、そうか。すまなかった」
「えーと、私に何か用かな?」
「うん、こっちのお兄さん……あ、僕の自慢のお兄さんなんだけどね、本当のお兄さんってわけでもないんだけど、血が繋がってないお兄さんでもないんだ。小さい頃の命の恩人で……とってもかっこいいんだよ?」
柊は自慢そうに俺を紹介しているが、実にわかり辛い説明だ。
というか、説明になってないぜ。
富木さんは首をかしげて柊を見ている。
「あれ? よくわかんなかった?」
柊も首をかしげた。
「えっと、柊ちゃんが夢川君の事を好きだと言うのは伝わってきたよ」
「うん、そうだよ。ちょっとエッチだけどかっこいいお兄さんなんだ」
おい、ちょっとエッチってなんだ。
富木さんは化け物を見るような目で俺を見た。
「いや、誤解だ」
「そ、そうなの?」
初対面の人の印象にエッチと残されるのは避けたい。特に女性ならなおさらで、男性恐怖症なら絶対に避けたい。
「えー、酷いなぁ。お兄さんはかっこいいよ」
「エッチの所が誤解なんだよっ」
俺が言うと富木さんは胸をなでおろしていた。ちょっと距離が出来たけれど、それもまた五メートル程度まで近づかれる。
「……お兄さんもしかしてドスケベ?」
「ひいっ」
「違う。富木さんが引いてるだろ」
「僕はお兄さんのエッチ度なんて気にしないよ」
気にするよ。主に俺と富木さんがよ。
「実はおにいさんがね、えーっと、人間以外の存在? ってやつを調べているんだって」
おいおい、簡単に情報を教えていいのかよ……とは思ったが、相手は西羽津の巫女だ。NKKとはおそらく協力関係にある相手だと思う。
でも、後でばれたらアリスに蹴られるかもしれないな。
「うん、知ってるよ。NKKの人外調査員でしょ?」
「え? そうだったの?」
柊が驚いた顔でこっちを見ていた。
「ま、まぁな」
「名前は夢川冬治君。アリスちゃんと一緒に住んでいるんだよね?」
「アリスちゃん?」
柊が首をかしげて俺を見た。
「犬?」
犬、かぁ……犬耳付けてもらって首輪を……それしたら俺が完全に変態じゃん。実際にやったらあばらが折れるまで蹴られそうだぜ。挙句、牢屋行き決定だろうよ。
どっちかというと今の状態は俺の方が犬だよなぁ。アリスが金払っているし、俺は特に調査出来てないし……駄目犬って言われそうだ。
「お兄さん、何だか険しい表情しているけど?」
「気にしないでくれ。アリスは犬じゃないぞ」
「じゃあ、猫?」
猫かぁ、悪くないかも。
黙った俺の代わりに富木さんが苦笑しながら答えてくれる。
「ううん、日本吸血鬼協会所属の吸血鬼さんだよ」
「吸血鬼ぃ?」
素っ頓狂な声をあげて俺の手を掴んだ。
「騙されてるよ、お兄ちゃん! そいつ、和製吸血鬼のくせに片仮名だもん。日本在住なら須江子とか卑弥呼とかの名前にすべきだよ」
「誰だよ」
「え? 卑弥呼も知らないの?」
「ちげぇよ。須江子だよ」
「さぁ? 適当に言った名前だから」
何で須江子なんて珍しい名前がぽんと出てくるんだよ。
「二人とも仲がいいんだね?」
若干呆れた顔の富木さんが俺たちを見ている。
「うん」
柊は俺の腕を掴んで自信満々に答える。
「えーと、富木さん。この学園で人以外の存在っているかな?」
「うーん……柊ちゃんの事は知ってるよね?」
「ああ。スガーレジェンド……じゃなかった、雪女だよな」
俺がそう言うと富木さんはぽかんとしていた。
「え、柊ちゃんが……あの、スガーレジェンドなの?」
何だか話が変な方向へ進んでいる気がする。
「う、うん。お兄さんの考えでね、こうやって……」
ポーズをとると氷の結晶がベルトを作る。
「変身っ」
そう言うと吹雪が舞って氷の鎧が柊を包んだ。
「熱い心を氷で纏った羽津の騎士、スガーレジェンド参上っ」
「おおー」
感無量だとばかりに柊の事を見ていた。
神聖でいて誰もその存在を汚すことはできない西羽津の巫女……全ての災厄から西羽津を守り、圧倒的な力のせいで人間性を壊してしまった……なんて、言われていたりする。
その存在がスガーの事を子どものような視線で見つめていた。
「あ、あの、サイン頂戴っ」
「え、サイン?」
素の声がスガーから聞こえてきてため息が出る。
「うん。親戚の子がこの前遊んでもらったとかでサインを欲しがってたんだ」
「うーん、サインかぁ……ちょっと練習させてね。お兄さんメモ帳とペン持ってる?」
「ああ」
調査用の小さいノートのページを破いて渡すとそれに何度か練習した。
「SとLを組み合わせた奴にしよっと」
どうやら最終的に形を整える事が出来たようで富木さんが取りだした色紙(一体どこからとりだしたのやら)にサインをする。
「これだけなら偽物だって言われるんじゃないの?」
「あ、そうだね。うーん、じゃあ、一緒に写真撮ってくれると嬉しいんだけど……」
手渡されたスマホを片手に俺は柊と富木さんのツーショットを撮った。
「ありがとう」
「いやいや、このぐらいお安い御用だよ」
先ほどまでの距離もどこへやら……富木さんは俺からスマホを受け取ると嬉しそうにお礼を言うのであった。
「あ、もうこんな時間だ……私、今日日直だから先に戻るね」
「うん。じゃあね、富木ちゃん」
「またね」
そういって富木さんは行ってしまった。
「……あれ? 俺の用事終わってなくね?」
「お兄さんも写真一緒に撮る?」
びしっとポーズを決める柊を見てそれもいいかなと考える。
「あ、でも俺は柊と撮りたいな?」
「え? 僕は柊だよ?」
「そうじゃなくて、変身してない状態だよ。そっちの方がいい」
「うん、わかった」
変身を解いて俺の隣に立つ。
「俺が撮るからな。もうちょっと近づいてくれ」
「こう?」
俺に密着したところでシャッターとなったボタンを押す。
「撮れたぞ」
「おおー」
二人ではしゃいでいると予鈴が鳴り、今日は解散となった。
本当、俺は何をしているんだ……。




