第二十一話:仕込み
第二十一話
次の日、やけにご機嫌そうな椿たんを見て担任はひきつった笑みを浮かべ、隣の信田さんは俺を小突いてきた。
「これはどういう事ですか?」
「え?」
「石見さんはご機嫌だということです」
仲が悪いのか、椿たんと信田さんは話そうとしない……片や牛鬼、片や狐ということでお互いを警戒しあっているわけじゃない。おそらく性格が合わないのだろうなぁ。
「夢川さんそれはどういう意味ですか?」
「ああ、何でも、酷い目にあわせた相手に仕返しする方法を考えついたんでしょう」
「ふーん。復讐なんて無駄に終わりそうですけどね。そう言ったものを考えていると足を踏み外しますよ」
「足を踏み外す?」
それってどういう意味なんですか。俺の言葉はチャイムの音で消されてしまった。
その日の放課後、俺の腕を引っ張る椿たんについていき校舎裏までやってくる。
「ここでまさかの告白タイム?」
「あほか」
俺の顔面に椿たんの拳がめり込んだ。突っ込みを入れてくれるようになった……何と言う進歩だろうか。
人間の頭が吹き飛ぶぐらいの威力で殴れるだろうに、こういうところはちゃんと加減してくれるところが彼女のいいところである。
「じゃあ、SKT?」
「はぁ?」
スーパーカツアゲタイムだろうか。
「ぐだぐだ言っていると力の加減、出来なくなるぞ」
こうやってそろそろ許容範囲限界ですと教えてくれるようになったのも親しくなれたからだと思うんだ。
「そんで、本当の理由は?」
「西羽津の巫女をぎゃふんと言わせる作戦だよ。この前は痛い目にあったからな……このままじゃ虫が収まらねぇ。あんにゃろ毎回毎回遠慮すらしないで……」
普段は何事にも興味を持たない感じの彼女が燃えていた。
あの西羽津の巫女が椿たんの知り合いなら目の前で憤慨する人物をどうにかするわけもないだろう……椿たんのほうはどうするかわからないが。
「信田さんじゃないけどさ、復讐は非生産的だろ」
「……何だよ、お前は誰の味方だよ」
ちょっとでも非協力的な態度を見せるとすぐこれだ。
起こっているように見えて実際は傷ついていると言う珍しい感じの子である。
「俺は椿たんの味方だよ。椿たんの味方だからこそ、心配して言ってるんだぜ?」
「はぁ? あたしが心配だって?」
素っ頓狂な声を出した椿たんをみて笑いそうになるのをこらえる。
「ああ、俺達友達だろ?」
俺的には自分から友達だと言う奴に限って碌な奴がいない。
「それはお前が一方的に思っているだけで……」
「やだなぁ、傷つくなぁ」
熱っぽい視線を見ていると眼を逸らされた。
「やめろ、そんな変な目つきで見るな」
「そりゃ失礼」
やれやれ、しょうがないな。変に暴走しないよう俺がちゃんと椿たんを見ておかなくちゃいけない。
椿たんを怪我させた相手でもあるからな。
「それで、作戦とやらを教えてくれよ」
「あいつはたしか、男が嫌いだった」
「なるほどね」
やはり、椿たんも西羽津の巫女とただ敵対関係にあると言うわけではないようだ。
「だから、夢川を囮に使う」
「囮?」
「そうだ。お前があいつに突っ込んだところを背後から襲う」
別にそれは俺が囮ではなくてもいいと思う。
「どうだ? いい考えだろ?」
穴だらけのずぼらすぎる計画だ。
ま、椿たんが満足そうに言っているし、ここは大人しく頷いて協力しておいた方がよさそうだな。
「それで俺は囮だけしてりゃいいのか」
「あとはあたしが何とかする」
返り討ちに遭う可能性を考慮して当日は救急箱持参だな。
そんな時、不意に椿たんが後ろを振り返った。
「誰だっ、出てこいっ」
あの鬼の不良たちだろうかと思っていたら出てきたのは昨年のクラスメートたちだった。
「何だお前ら?」
鬼を殺すような視線で全員を睨み始めた。一人が手を挙げて、申し訳なさそうに言った。
「あ、あのー、実はただの好奇心で……石見さんが夢川君を校舎裏に連れて行ったって話があったからね」
「告白の最中に邪魔しちゃったかな?」
とくに大きな声で話していたわけでもないので、内容までは聞きとれなかったようだな。まさか巫女を襲う計画を立てていたなんて知られるとまずいだろう。
「告白? はぁ? お前ら何を……」
「そーぅなぁんだよー」
適当にお茶を濁しておけばいいのに、律儀に否定しようとする椿たんの前に出る。
「まだ彼氏彼女よりかはお友達からよろしくお願いしますって言っちゃったんだよね」
「お、おい夢川?」
「案ずるな。ここはわしに任せておけ」
そして親指をぐっと立てる。
「はぁ? お前なんだそれ」
椿たんの言葉を無視して俺は周りの生徒達を驚かすように言う。
「ま、椿たんがこういう性格って言うのはみんな知ってるだろ? 早く逃げないと照れ隠しにさくっと襲われちまうぜ?」
それもそうだと蜘蛛の子を散らすように元クラスメートたちがすぐさま居なくなったのだった。
「どうよ俺の人を散らすスキル」
「……何か決定的な間違いを無視したままにしてないか?」
「でも巫女さんを襲う計画がばれるよりはいいんじゃね? 相手に気取られるのも嫌なんだろ?」
「それはそうだがな……」
「それに俺と一緒に居てもおかしいとは誰も思わなくなる」
完全に椿たんは考えるのをやめたようで静かになった。
「ともかく、今度の休日だ。絶対に忘れるなよ? 時間は九時、駅前だ」
「はいはい」
それまでに改めて西羽津の巫女について調べておこう。
家に帰り、玄関をいつものように開ける。
「ただいやー」
「ちょっとお兄ちゃん?」
「おや、これはアリスさんじゃありませんか。お出迎えしていただけるなんて光栄です」
ふざけた俺の胸倉を掴み、恐い顔を近づける。
「牛鬼なんて危険な奴を放置しているつもりなの?」
「……誰の事を言っているのでしょう」
「石見椿だよっ」
あらら、完全にばれちゃっているのね。
俺がため息をついている間にそのままリビングへと連れて行かれてしまう。
リビングのテーブルの上には様々な資料が散らかされていた。どれもこれも古いもので蜘蛛の体に鬼の顔がくっついていた妖怪が描かれていた。中には人を喰らっている物まである。
「牛鬼は人外の中でも超危険な存在よ?」
「……でも椿たん、じゃねぇや。石見自体は別に危険ってわけじゃないぞ」
「へぇ、危険じゃないのね」
そういって他の資料とは違って新しい紙を突きだされる。
「入学早々、三年生六名を病院送りにする。三カ月後、鬼の不良グループを病院送りにする。それから一カ月後、報復に来たその親を病院送りにさせ軽度の記憶障害を引き起こす」
他にも色々と問題を起こしている。
アリスのこれでわかったでしょうという顔が俺の視界へと入ってくる。
「椿たんは病院の回し者だったんだな。これなら病院が繁盛するだろ」
「どうかな? それで、お兄ちゃんはこれを見てもなお、あの牛鬼の肩を持つって言うの?」
「詳細の資料は無いのか」
「……あるけど」
手渡された資料を覗き込むと全て一発殴られてから反撃を行っている。
「正当防衛だろ」
「正当防衛? 過剰だと思うけど」
俺もそう思うけどね。
一度火がついたら中々止められないタイプなんじゃないのか。
「西羽津の巫女が動いているんだろ? それならわざわざNKKが動く必要もないと思うぜ」
「お兄ちゃんが判断する事じゃないよ」
それはその通りなんだけどな。
「……そうだな。じゃあ、少し期間をくれないか?」
「え?」
「その間、椿たんが何も問題を起こさなかったら不問でいいだろ。それに、あいつはもう今年で卒業するんだ。たとえ問題を起こしても卒業させた方が下級生に迷惑かけないと思うぜ」
俺の言葉に口を真一門にして、難しい表情を浮かべている。認めたくないんだなぁ。
「大丈夫だよ。何か問題を起こしたらすぐにアリスへ連絡するから」
「本当?」
「ああ。暴れたらアリスを呼んでこてんぱんにしてもらおう。自分より強い奴が出てくれば椿たんのやつも大人しくなるはずだ」
「……多分、無理。牛鬼に勝てる奴なんていないよ」
「そうなのか」
「うん」
いつもは自信満々のアリスが消極的な意見を出すなんてな、椿たんを怒らせたら俺がどうにかするしかないみたいだ。
「あれ、でも西羽津の巫女がいるだろ?」
「確かにそうだけどあくまでこの地域限定だからね……牛鬼がもし西羽津の巫女を連れ出すような事を考えていたらちょっとまずいかも」
アリスの考えは残念ながら椿たんには当てはまらないな。一生懸命考えて俺を巫女にぶつけようって事ぐらいしか考えつけてないんだ。
ま、鳴るようになるだろうと楽観的に考えるしかないな。




