第二十話:駅前に不審な男が出没
第二十話
駅前を調査することになった。
駅前周辺で有名なお店ランキング―……とかじゃない。
「休日に駅前の神社跡地を調査か。なかなかないよな」
怪しい計測器(木製の箱にメーターが埋め込まれている)を片手にうろつく俺。
そんな俺を見る事もないカップルや人待ちの人達。
中には俺の事を指差して笑っている連中もいる。黒子の面でも被れば……いや、余計目立つか。
「本当だったらアリスと変わってほしいんだがねぇ」
駅前の調査に集中したいと思う。
この駅前では数年に一度、行方不明者が出るそうだ。
それが駅前と関係しているとアリスは断言した。
「本当はね、行方不明じゃなくて透明になっているから行方不明になったと思うだけ……わたしはそう思う」
「ああ、そうなの? へぇー凄いね」
アリスのその言葉を俺は鼻で笑い、蹴られたのは昨日の事だ。
だって、たとえ行方不明になったとしても、消えた側の人間は何かしらの手段で家族や知り合いに此処にいると言うのを伝えるもんじゃないのか?
ま、俺がこうやって駅前を調査するのもアリスが戻ってくるまでだ。
「集中だ、集中。駅前には素晴らしい何かがあるんだろ。神様とかそこら辺を考えて小さな痕跡だって見逃さないぜ」
頬を叩いて浮気調査をする探偵会社の調査員よろしく、神社跡地と書かれたプレートのあたりをうろちょろしてみる。たったそれだけで周囲の喧騒が無くなった気がした。
西羽津神社……富木って家の人が代々管理していたところらしい。神社というより民間伝承に乗るような妖怪だか何だかを祀っていたそうな。
つまるところ、土着信仰ってやつか。
山そのものを神としたもの、海そのものを神とあがめた……とはまた違う趣向でこの土地で最初の建造物が建てられた場所を神社としたそうだ。図書館やNKKの資料を使って少しばかり調べたりもした。
隠密調査に長けていたのか、その家に住む者たちは村の人の噂や弱み、悪事を知り得ていたらしい。もちろん、村長も兼ねていたそうなので悪事をした者は裁かれたそうな。
ある人が何故そんな事が出来るのかと尋ねたら我々は自分を否定し、神となるのだと言ったそうだ。これだけじゃ何を言っているのかさっぱりわからんがね。
その話が広まった後、神社みたいな所に宝具があると噂が流れた。なんでも、それを使えば血筋ではない人間も姿を消す事が出来るそうだ。
まぁ、当然と言うか……その時代の人達は神の所業を真似る事、神の住まう場所に立ち入ることは良しとしなかったんで噂は噂のままだ。
噂が噂のままじゃなくなったのはそれから五年後ぐらい経ったある日のこと。
村のやんちゃ小僧が興味を持って社に侵入した。これを証言したのは石見、現在で言うところの島根県の西部からやってきた旅人の子どもだそうで、社に入りこんだ男の子を追ったらしい。
理由としては社には近づかないようにと釘を指されていたので小僧を止めにいったそうな。
他に興味深い証言は『男の子が牛のようになって消えた』と言うところだろうか。
この後、俺が想像していたような男の子が鬼になって村人を襲った……なんて展開はなく、話はこれで終了してしまう。
しっかりと証言が残された割にはあっさりしすぎた終わり方に違和感をもったので、その後が気になった。しかし、話を探してもわかった事もあまりない。
一年後に宝具が元の場所へ戻されていたこと、今でいう駅前付近で数十年に一度行方不明者が出る。最後に行方不明者が出たのは昭和ってこと。
気になる宝具の形であるが、これまた今一つわからない。
一説によるとガラス、もしくは牛の面。
前者は多分、姿を消せるからだろうなぁ。後者は男の子の証言から推測したのではないかと思う。
現在の西羽津神社には普通に銅像とか鏡が飾ってあるだけだとアリスが言っていた。そもそも、信仰しているものが違うので神社跡地とは言っても今の神社と関係はあまりないそうだ。
「ふー」
神社跡地のプレートの隣に腰掛けてため息をつく。
結局、一日ぐるぐる駅前を周っていただけだった。
アリスからも連絡が無かったし、まだ帰っちゃ駄目かな。
「そろそろタイムセールスだよな」
お肉が安くなるって噂を聞いたんだよな。
後十分程度ここで調査をしてから、そちらへ向かうとしよう。
「というわけで、残り全部休憩」
眼を閉じ、深呼吸をする。
「ふー……やれやれ」
駅前という喧騒の最中に要ると思ったのだが、想像していたより静かだ。というより、びっくりするほど人の声がしない。
「ん?」
不思議に思って目を開ける。
思ったより人の数が減っていた。
「おかしなもんだな。この時間ならここを通ったりするひとが多いのに」
休日となればそれもなおさらだ。遠出していた人達が戻ってくるので買い物に行く主婦たちと合わさるのだ。
「ん?」
辺りを見渡してこれまたおかしなことに気がついた。
何と言うか、此処にいる人達がおかしいのだ。
おかしいのは多分、服装のせいだろう。もんぺをきている人や、着物……それも、江戸時代のものじゃないかという服を着ている人もいた。
服装は違えど、歳は若いと思われる。
みんながみんな、目を閉じ、静かに深呼吸をしていた。
「……」
その一人を見てぎょっとなった。
図書館で見た行方不明の人の顔だ。写真で見たものと一切変化していなかった。
「あの……」
「……」
行方不明になったと思われる少年に近づいて話しかけてみても、反応は無い。
「もしもし?」
肩をたたく。冷たかった。
「……死んでるのか?」
立ったままで死ねるのか?
口元に手を持って行くが、息はしているらしい。
瞑想ってやつかな。
俺も真似てみようかなぁ、そう思った矢先、電話がなった。
「アリスか……ったく、ようやく連絡してきてくれたのかよ」
ちょうどいいや、この現象を調べてもらおう。
「もしもし?」
「あ、お兄ちゃん? もう、どこ行ってんの。遊びに行かないでちゃんと調査してよって言ったでしょっ! 午前中からいなくなるなんてふざけ過ぎじゃない?」
「……午前中?」
「そうだよっ。計測機械を取ってきたらすぐに合流するって言ってたじゃんっ」
「待てよ。今、夕方だろ?」
少し馬鹿な質問をした気もする。
「はぁ? そうだけど? ぼけてやり過ごそうたって駄目だからね」
「俺は今西羽津神社跡地の説明プレートの前に居る」
「わたしもいるんだけど?」
アリスの声音が変わった。
「……あっちに行った?」
「あっち?」
「うん、神の世界」
「ここが神の世界だって?」
辺りを見渡してため息しか出ない。
「思ったよりしょぼいな。何だか化け物とか出そうなイメージがあるよ」
「多分、まだこっちと繋がっているからこれまでと同じに見えるんだと思う」
えーと、元の世界と繋がっているねぇ。
「この携帯がおそらく懸け橋だよ」
「携帯電話で繋がる異世界か。最近の携帯電話はすげぇな」
最近の携帯電話は外国でも使えるそうだからなぁ。しかし、異世界か。俺のガラケー、すげぇよ。
「馬鹿言っている場合じゃないって。多分、携帯電話のバッテリーが無くなったらお兄ちゃんもそっちの住民になるはず」
「住民?」
「うん、化け物なり、神様なりそれになると思う」
ここに神様なんていないぞ。
いるのは行方不明になった人達が瞑想しているだけだ。
「……ということは俺も瞑想しちまうのか」
この神の世界とやらで永遠を生きる存在になるのかね。
「アリスさんや。どうやってここから抜け出せばいいんだね?」
「調べてみる」
「なるべく早く頼むよ」
「わかってるっ」
乱暴に言い放たれて電話が切られた。
「……バッテリー、あと八十パーか」
まだ時間がありそうだな。
皆さんのおかげで第二十話を迎えることができました。うわーぱちぱち。さて、中にはまた駅前かよと思う方もいらっしゃるでしょう。プロローグも駅に関係する話だった気もしますがね、それはそれ、これはこれです。一年前ぐらいに地下まで広がる大学図書館なんかで妖怪の事なんかを調べてましてええ、それが発端だったんじゃないかなと。吸血鬼は妖怪じゃない気もしますが江戸時代に登場していれば垢舐めぐらいの地位につくことができたでしょう。それでは残り約半分、よろしければお付き合いください。




