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第十八話:西羽津を守る氷の騎士

第十八話

 商店街までやってきて安い野菜を買う必要は無い。

「とは言っても、一応アリスの金だからなぁ」

 俺の金ではなく、アリスの金で生活している。俺も一応収入があるにはある。学生というよりもNKKの調査員だしな。

 しかし、アリスは俺に借りが出来ると思い込んでおり、金を払う代わりに火事全てを俺に押し付けているのだ。押しつけているのは出来ないからであり、アリスのお金という事もあって節約を目指している。

 勿論、俺に月三万ぐらい渡してそのまま知らんぷりのアリスが知っているはずもない。

「最近少し料理の腕が上がった? 当然だよね、ただで料理の勉強をしているようなものだもん。わたしに感謝してよ、お兄ちゃん」

 アリスの言葉はいつだってきつい。

 お互い、別の住居に住みながら学園に通う事も出来るのだが……同じ時期に転校してきたことを少しでも怪しまれたらまずいので一緒に生活しているだけなのだ。

 学生はおまけである。

 そんな事をぼけーっと考えながら歩いていると、乱暴な足音が近づいてきた。

「泥棒―っ」

「え?」

 そろそろ商店街の出口……というところでおばちゃんが走りながら一人の男を追っている。

「ちっ、どけっ」

「おっと……」

 肩にぶつかりそうになった男はそのまま逃走。

 とっさに反応できなかったのは仕方がないとして、俺も泥棒を追いかけていた。

 自慢じゃないが、足には自信があったものの……想像以上に男の足が速い。もう少しで大通り、このままだと人ごみにまぎれて逃げられてしまうかもしれない。

「アリスに連絡するか……どうせ来てくれないだろうが」

 正義の味方というわけでもない。アリスはあくまで羽津女学園の調査に来ているだけの吸血鬼だ。まして、人間を手助けしてくれる存在じゃないしなぁ。

「とおっ」

 なかば諦めかけていたその時、上から氷塊みたいなものがふってきた。

「な、何だ?」

 男の前に立ちふさがったのは太陽の光を浴びて輝く氷塊だ。

 しかし、その氷塊は立ち上がって泥棒を見ていた。

「あれは、スガー……スガーレジェンド!?」

 俺の響きに道行く人達が立ち止まった。

 今のうちに警察へ連絡をしておこう。近くにいた暇そうなサラリーマンの携帯電話を拝借して電話をかけた。

「熱い心を氷で纏う西羽津の騎士……スガーレジェンド参上っ」

 前口上を言って、ポーズを決めた。場が静かになった。

「くそっ」

 泥棒男は冷静で、すぐさま細い路地へと逃げようとする。

「泥棒さん僕から逃げられると思ってるの?」

 対して、前口上を無視されたスガーの方はご機嫌斜めになっていた。

 追いかけず、スガーはそのまま右手を動かした。

「登場したばっかりだけれど、終わりだよっ」

 吹雪があっという間に泥棒を追い抜いていった。

「何っ」

 そして、吹雪は泥棒の目の前で瞬間的に質量をもちはじめ、氷の壁を形成する。。

「まだまだっ……これでおしまいっ」

 そして純度の高い氷の壁に囲まれて泥棒は動けなくなった。

 何度も蹴りを入れたりするものの、氷に傷はつくがそれっきりだ。

 体温を奪うのか、すぐさま泥棒は身体を震えさせる。

 スガーの方は大見え切ったあと、いたって冷静な声で足を止める人々に言うのであった。

「すみませーん、どなたか警察に連絡をお願いします」

「ああ、俺が連絡してる」

 スガーの前へとやってきてわらう。

「あ、お兄さん……じゃ、なかった。ありがとう、正義の心を持つ少年」

 変身すると俺より身長が高くなるんだな。どことなく、態度も偉そうだ。

 しかし、正義の味方なら仕方がないだろう。それに、俺がこのまま追いかけていたら逃げ切られていただろうし、捕まえる事が出来たのはスガーのおかげだ。

「あの、ありがとうございます」

 鞄を盗られた女性がスガーに頭を下げている。

「気にしないで下さい。僕は彼の指示で動いただけです」

 そういって俺の方を見た。

「え? そうなの?」

「あ、いえ、俺は……お、おい」

 え? 何かまずい事言ったかな? 無表情なスガーの表面はわかり辛いが、困った顔をしているのは間違いない。

「やべ、警察も来た……スガー、ずらかるぞ」

「う、うん。お兄さん乗って」

「おう」

 スガーの背中に飛び乗り、俺たち二人はその場から逃げだすのであった。

 誰もいない公園までやってきて人心地をつく。

「ふー、危なかったな」

「え? そう? 警察も来たんだし、無事に解決だと思うよ?」

 氷塊を弾き飛ばした柊が笑っていた。きっちり辺りを見渡して人がいない事を確認するあたりちゃんとしているなぁ。

「ああ、そうだな。全部柊のおかげだ」

「ありがとう。でも、お兄さんのおかげで格好良く正義の味方になれちゃった」

 俺は首をすくめてため息をつく。

 やれやれ、他の雪女が見たらびっくりするだろうよ。

「あのままあの場所にいれば、お兄さんはちょっとした有名人になってたんじゃないの?」

「目立つのは嫌いなんだよ」

 目立って前にいた学園の連中や家族にばれたらまずい。俺、そもそも行方不明扱いだからな。

「そうなの?」

「ああ、駄目だ」

「そうだよね。雪女とか調査している人が目立っちゃまずいよね。配慮が足りなかったよ」

「気にするな。それより、柊は目立たなくてよかったのか?」

 解決できたのはどう考えても、柊のおかげだ。

 あそこにいれば警察からお礼も言われただろうし、助けたおばちゃんから見返りを求める事も出来ただろうに。

 俺の考えをよそに、柊は俺へと近づいてきた。

「僕はただお兄さんに用事があっただけだよ」

「用事?」

「うん。お兄さんって人間以外の存在を探して調査しているんだよね?」

 以前軽く説明した事に対して興味を持ったらしい。

「ああ、調査してるぜ」

「僕も手伝おうかと思ってさ」

「俺の手伝い?」

「うん。僕はお兄さんに恩があるから絶対に襲わないけれど……ここの地域って鬼とかいるらしいよ? お兄さんが正体を掴んで追い詰めたら怪我させられるかもしれないからね。言わば、用心棒だよ、用心棒」

 用心棒ねぇ……。

「用心棒してくれるのは嬉しいけどさ、お金とか払えないぜ?」

「いいよ。お兄さんには恩があるから」

「恩? 俺、なにかしてやったっけ?」

 どっちかというと迷惑とか我がままとかを聞いてもらっている立場のような気もする。さっきも助けられたようなもんだし。

 しかし、柊の方は違うようで苦笑していた。

「僕にとっては忘れられない事だよ……お兄さんにとってはその程度の事なのかもしれないけどね」

 俺が忘れている事に対して少なからず不満があるようだ。

「それでどうかな? この地域の事ならお兄さんより詳しいよ。手助けできる事もあると思うんだ」

 俺の管轄は学園だけで、地域じゃないんだよなぁ。

 まぁ、それを踏まえて説明すればこれほど頼りになる奴もいないかな。

「わかった。悪いけどお願い出来るか?」

「勿論だよ」

 そして次の日、地域の新聞には『西羽津にスガーレジェンド現る!?』という見出しが大きく載っているのだった。


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