表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/46

第十七話:かすかな友情

第十七話

 気付けば六月も終わりに近い。

 俺が椿たんを保護して(助けてやったと言ったら叩かれた)からほぼ毎日、放課後一緒に過ごすようになった。

「おそって来ないな」

「……うるさいぞ」

「すまん」

 商店街や住宅街をぶらぶらしていたのも数日程度。残りは図書館や市立図書館、学園の会議室とか自習のできる場所で受験勉強を行っている。

 最初は羽津の巫女がすぐに襲ってくると思っていたので期待していた。しかし、こうも襲ってこないとは思いもしなかったぜ。

 鬼の不良グループと一緒に行動する羽目になるのかと思っていたら、意外な事に俺を見ると頭を下げて引っ込んでしまった。どうも誤解されている気がする。

「夢川これ」

「ん、わからないところか……どれどれ」

 数週間行動を共にしていてわかった事は椿たんが意外と勉強をする人物だと言う事だろう。

 てっきり、『勉強? 名前書いておきゃいいんだろう』という考えの持ち主かと思ったからな。これにはびっくりである。

 ただまぁ、やはり勉強は苦手なようで練習問題を解いては結構な感じでバツがついている。見かねた俺は教科書の練習問題から解いたほうがいいとアドバイスしてみた。

「お前さんが解いているのは応用問題の、結構難しい奴だ。それに、その問題集自体が難しめに作ってある」

「……」

 当然、俺の話は聞かないみたいな感じだったけれど、しつこく言って、俺の使っている簡単だけれど問題数が多い問題集を渡したら点数が少しだけ良くなった。

 いい点数を採ったことで気分が良くなったのか、俺の言う事も少しは聞いてくれるようになったのだ。

 今では黙っていれば一緒に居られる仲になった。結構な前進だな。

「おい」

「ん?」

「この問題集終わったぞ」

「そうか」

「次はどれをすればいいんだ」

 椿たんの言葉に少々、驚きながら真面目に考える。

 何に驚いているかって会話がちゃんと成立している事、足とか手が飛んでこない事かな。彼女なりのスキンシップみたいだけど、牛鬼だけあってか一撃が痛いのだ。

「そうだなー……基礎応用が少しできてきたって事だ。椿たんの進路は大学進学だよな?」

「そうだ」

「どこの大学だ?」

「聞いてどうする」

 すぐさま片眉を上げて不機嫌になる。

 ため息をつきたくなるのを抑えて、俺は平静を装って口を出すしかない。

「その大学レベルの問題集を教えようかと思ってな。椿たんは物覚えがいいから基礎応用もしっかりできてる。だから、次は其処の大学の過去問に手をつけたほうがいいと言おうとしたんだ」

 それでも言いたくないのなら……と、言うわけにもいかない。少しでもこちらがつき放すような態度を取ったら彼女はそれっきりなのだ。

「それなら羽津大学の過去問を解けばいいのか」

「なんだ、羽津大学なのか……」

何故だか俺を睨んでいた。そんな表情をされても困る。

 羽津大学に通う事については触れないほうがいいのだろう。そう思いながら俺は再び平静を装って笑いかけた。

「近くの大学だからな、順調に勉強していれば大丈夫とは思うが……これから問題集でも買いに行くか?」

「……わかった」

 勉強道具を片づけ、二人で市の図書館を後にする。


 ちりーん。


 鈴の音が鳴り響いた。

「待て」

「え?」

 腕を掴まれ、思わず椿たんを見る。

「巫女だ」

「マジ?」

 椿たんの視線を追っていく。すると、そこにはこちらを見ておどおどした羽津女学園の生徒が立っていた。巫女姿ではない。

「あの子が?」

「ああ」

 椿たんを少しでも疑えば蹴られるかもしれない。

 本人に聞いてみたほうがいいだろう。

「おーい、そこの人っ」

「っ!」

 俺に声をかけ、走り寄ろうとすると走り去ってしまった。

「逃げちゃったな。ま、しょうがない。椿たん、早く行こうぜ」

「わかった」

 頷いたくせに、動かない。

「椿たん?」

「夢川」

 いきなり俺の両肩を掴む。その目は珍しく、興奮しているようだった。

「どうしたんだ?」

「あいつに仕返しするの、協力してくれ」

「え? 仕返しって……」

「巫女だ」

「あ、ああ……」

 つい、びっくりして頷いてしまったけれど、いいんだろうか。

「よし、約束だぞ? いいな? あたしは準備がある。またな」

 そういって椿たんもまた、走って帰ってしまった。

 一人ポツンと残され、少しだけ寂しくなってしまった。

「仕返しねぇ」

 窓から飛び出ると言う乱暴な手法で退出した椿たんの背中を眺めていると誰かの気配がした。

「ん?」

「あのー」

 五メートルほど離れた場所に先ほどの女子生徒が立っていた。

「ああ、さっきの人か」

 一歩近づくと短い悲鳴をあげられた。

「え、えーと?」

「男の人、苦手なんです」

「あ、ご、ごめんね」

「……あの、椿ちゃんのお友達ですか?」

「まぁ、一応」

 おずおずと尋ねられて俺は頷くしかない。もし椿たんが居たら俺に蹴りを入れて友達じゃない勝手に付きまとっているだけだろというだろうけどな。

「よかった……」

 ほっと胸をなでおろす彼女が椿たんをぼこぼこにした相手とは思えなかった。

 大人しそうで、好戦的には思えない。彼女を吹き飛ばすほどの力なんて持っていなさそうだ。

「私、富木菜奈です」

「はぁ」

「ええと、NKK所属人外調査対外派遣員の夢川冬治さんですよね? NKKの方からお話を聞いています」

 やっぱり、というか西羽津の巫女さんはこっち側の人間? なんだな。

 それより俺の肩書き凄い事になってないか? 本当はNKK研究部門所属清掃班(理事長はNKK研究部門特別清掃複合班班長夢川冬治ってのはどうかなと言っていたが)なんだけどさ。

 正しい方向で自己紹介したほうがいいかと思ったら時間切れとなった。

「椿ちゃんは危険じゃないんです」

 突然そんな事を言われた。どうみても彼女の事を知っている口ぶりだ。同時に、無闇に傷つけるような人でもなさそうだ。

「危険じゃないのは知っていますよ。それに、まるでその言い方だと椿が人外みたいな言い方じゃないですか……俺が知って居なかったらまずいでしょ」

「見てますから」

 淡く笑った顔は可愛かった。もうちょい近くで見たいけれど、これ以上近づいたらまた逃げられそうだ。

「私は椿ちゃんに嫌われています。あの子の友達でいてください」

「え?」

「では失礼します」

 そう行って走っていってしまった。

「ふーむ……」

 どうせ椿たんが一方的に襲いかかってるんだろうなぁ……何と無く、想像つくかも。

 あの子に仕返しするのはちょっと悪い気もするけれど、やりすぎた事をするようなら注意したほうがいいだろう。

 今度こそ一人になった俺はその場を後にするのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ