第十六話:調査場所の変更
第十六話
家では小さな吸血鬼に顎で使われる。
「お兄ちゃんリモコンとって」
「お兄ちゃん新聞とって」
「お兄ちゃん肩揉んで」
こんな具合だ。
そして、学園では透明人間の間山椎子という人物に好きなようにされている。
「冬治君やきそばパン」
「冬治君この宿題やっておいて」
「冬治君辞書貸して」
俺の気が休まる場所は家にも学園にもないのだ。
一番静かな時間は夕飯を作って居る時だ。
「ふー……いてっ」
まぁ、ぼさーっと包丁使っていれば怪我もするわけで。
指を切ってもぼーっと血が出ている箇所を眺めてしまう。
「どうしたの?」
「あ? ああ、ちょっと指を切っただけだ」
「ふーん」
どうでもよさそうに言った割には俺の方へと近づいてきた。そして、怪我した指を自身の口へ入れる。
「んっ……ん……」
血を吸う仕草は可愛くて、頭を撫でそうになる。
しかし、必要以上のお触りはアリスのご機嫌を損ねるもので夕飯準備時間にやることではない。
「ぷはっ……」
吸うだけ吸って、アリスは再びテレビを見に戻った。
「思ったより、まずくなかった」
「え?」
「お兄ちゃんの血」
それは褒め言葉なのだろうか。
吸血鬼に血を褒められるのもあまり嬉しくないけれど……これ以上他の誰かに吸血行為がばれるのもまずいので俺の血を飲んでほしいとお願いしているのだ。
「お腹すいたっ。早くご飯っ」
「はいはい」
これ以上考えている場合でもないな。
舐めてくれたおかげで完治するとは本当に見事な応急処置だ。痛くなくなった手で俺は夕飯に取りかかったのだった。
夕食を食べ終え、俺はアリスの待つテーブルへと着いた。
「さて、お兄ちゃん調査は捗ってる?」
一週間に一度の定例会というやつだ。
「捗っているよ。透明人間がいた」
「……透明人間か」
アリスは下くちびるに親指を当てていた。
「危険性は低いだろ?」
スル―していいと思う。
やたら絡んでくるのはうざいと思うが、こちらもアリスの吸血写真という弱みを握られているので邪険に扱うのは難しい。
「うん、いいかな。身体能力自体は人間とさして変わりないし」
「そうだよな」
「他の人外もこっちで調査は終わっちゃったよ」
「えーと、マジか?」
「役に立たない人間のお兄ちゃんとは違ってね。吸血鬼だから早いんだよ」
相変わらず上から目線のちびっこだ。
「そっか、そりゃよかったな。でも、それならここにいる必要は無いだろ?」
もともとは人外の調査でここに来たのだ。アリスが調査を終えたと言うのならここにとどまる意味は無いと思えた。
「そうでもないよ。駅前に神社跡地があるんだよ」
「それがどうかしたのか?」
駅前に神社跡地なんてあったのだろうか。
頭の中で駅前の地形を再現していった結果、噴水とモニュメントぐらいしか思い当らなかった。
「そこを調査するのが明日からのわたしからの命令」
「命令ねぇ」
「上司だから」
吸血鬼が神社を調査って何だか変な感じがするなぁ。
日本の吸血鬼だから神社の跡地ぐらい調査するかな……そう思っていたけど、アリスはばりばりの外国人っぽい見た目で、名前だ。
「神社跡地を調査するのはわかった。アリスの事で一つ聞いていいか?」
「何?」
「アリスって日本の吸血鬼なのか?」
俺の質問に対して、彼女は小馬鹿にしたように笑うのだった。
「そんなわけないじゃん。わたしは日本以外の吸血鬼だよ」
「国は?」
「……知らない」
詳細を聞こうとしたら不機嫌そうになった。
今日はこのぐらいにしておいた方がいいだろう。何せ、相手は吸血鬼である前にお子様なのだ。




