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第十五話:放課後調査

第十五話

 放課後の時間は有意義に使いましょう。なぜならぼくたちは受験生ですからです、まる。

「これからどこに行くのですか?」

 ノートを片手に俺の行動記録をつけたがる信田さん。

 尾行されるよりか隣にいたほうがお互いにとってメリットになるだろう。俺の場合は彼女が変な事をして目立たないように、そして信田さんの場合は俺の事をよりよく調査出来るという具合だ。

 ウィンウィンの関係だと思われる……まぁ、俺の場合は被害を出さないようにするためだけどさ。

「聞いているのですか?」

「……信田さんは家に帰るまでの間、どこかに行ったりしますか?」

「しません。車での送迎があるのをしりません?」

 以前より丁寧な口調になったのは少しだけ俺と親しくなったからだろうか。それでもどこか棘があるような物言いだ。

「なるほど」

 そういえばお嬢様だもんね。

 どのくらいのお嬢様かわからないけれど、とりあえず執事がいて、車の送迎を行えるぐらいのお嬢様なのだ。

「いつも車の送迎なんですか?」

「そうね、基本的にはそうだけれどたまに歩いて帰りたくなった時は歩いて帰るわ」

「へぇ、どんな時に歩くんです?」

 しばらく考えて、苦々しげな口調で言うのだった。

「嫌な事があった時」

「たとえば……」

 どういった事ですかと聞こうとして、睨まれた。

「貴方、やりますね」

「え?」

「気付けばわたしのほうが尋問されていました」

 尋問だなんて何だか人聞きの悪い……。

「わたしの事はいいのです。貴方の事を調査していますからね」

「それはまぁ、そうです」

「じゃあ、調査を再開します」

 約束通り一人で調査をしてくれるのはありがたい。まぁ、半分は意固地だろうけどさ……投げやりな調査なんじゃないかと思っていたけれど、その態度は実に真摯だった。

「帰り道に寄る店などがあります?」

「ええ、夕飯の買い物とかを」

「夕飯の買い物? ああ、貴方が買ってきて家の誰かが作るのね」

 そのぐらい心得ているわと胸を張る。

「いえ、俺が作ってます」

「え、貴方が?」

 信じられないと言う顔をされて少し凹んだ。

「お手伝い……は、いないのよね。母親はいるのでしょう?」

「いえ」

「……共働きというものかしら?」

 母親をどうするかはすでにアリスと口裏を合わせている。

「母はまぁ、行方不明です。父も同じで、親戚の人からお金は出してもらっているんですよ。妹のアリスと一緒に生活しています。家事も分担していて、俺が料理担当です」

 父も母が行方不明ではなく、俺の方が行方不明だ。絶対にばれるだろうと思っていたのに、全然ばれていないところがまた凄いね。

 お金はNKKから出ているし、食費はアリスが払っている。俺のやって居ることは家事全般……もちろん、それにはアリスの世話まで含まれていたりするが。

「そ、そうなの……苦労しているのね。じゃあ、別の事を調査します」

 一気にまくしたてて喋ったことで怪しまれないかと思ったものの、どうやら木を使ってもらえたらしい。

「料理の腕は?」

「まぁ、そこそこ……食べられる程度は作れますよ」

 アリスが不満を垂らすので、美味しいと言ってもらえるように努力はしている。急成長するってわけでもないからこつこつ毎日練習しているんだよ。

「家族構成はわかったし、家の事情も……いえ、わかってないけれど……」

 突っ込んで聞いていいのかどうか悩んでいた。

 こっちは遠慮なく調べている手前、少々申し訳なくなってくる。

「あのー、信田さん」

「何? 今は忙しいのです?」

 そりゃそうだろうな。

「ののの屋に行きませんか?」

「ののの屋ですか?」

「はい。クレープ屋さんです。奢りますよ」

 これ以上調査されて俺の方がぼろを出すかもしれない。一旦、俺の方でも改めて準備をした方がいいだろう。

 今日はののの屋に行ってお開きにしよう。

「晩御飯の前に何かを食べるのは……」

「あ、大丈夫です。ちゃんとテイクアウトできますからご飯を食べた後でも構いませんよ。ただ、やっぱりお店の雰囲気を楽しみながら食べたほうがいいと思います」

 行くことに関しては拒否しているようではないのでさっさと連れて行く。

「此処です」

「そう……えっと、こういうところにはあまり来ないから……」

「はい。俺が注文するんでどれがいいか教えてくださいね」

 二人で店内に入り、俺はブルーベリー、信田さんはストロベリーを頼んだ。

 一応、信田さんのはテイクアウトにしたが俺は店内で食べることにした。アリスが目ざといからな、早く片付けておかなくては家に帰った時匂いでばれてしまう。

「……」

「うん、うまい」

 じーっとこっちを見てくる信田さんに遠慮なく食べる。



ぐーっ。



 そんな音が前から聞こえてきた。

「こ、これは違っ……」

「少しだけ食べたらどうですか?」

「……そ、そうね。ほんのちょっとだけ食べようかしら」

 そういって信田さんはセロハンの袋を破いて口をつけた。

「うん、おいしいわ」

 やっぱり、一口って小さいんだなぁ……等と思っていたらあっという間に全部食べてしまった。

 俺も残りを口に含んで立ちあがる。

「じゃ、今日はここまでにしましょうか」

 少し不満そうな顔になった信田さんより先に俺は続ける。

「明日もまた調査するんでしょう?」

「ええ、もちろん」

「それなら解散しましょう。俺も後は夕飯作って風呂に入って寝るだけですから」

「いいでしょう。夢川さん、今日はおいしかったわ」

「いえいえそんな……」

 頭を下げられて恐縮してしまう。こういう人は簡単に頭を下げてはいけないはずだ。

 気付けば店の前に黒塗りの車がやってきて信田さんはそれに飲み込まれて行った。

「ふぅ……調査、っていうよりはただデートしただけだったような気もするな」

 狐のお嬢様を満足させれば、俺は解放されるのだろう。しかし、いつになったら解放してもらえるのだろうか……そうしなければ、人外の調査もままならない気がする。


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