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第十四話:雪女の調査

第十四話

 人外の調査をするにあたって、危険性があるのか、それともないのかが一番重要である。

「危険だと思ったらすぐに逃げてください。夢川さんは人間ですからね」

 NKKの人からそう伝えられている。まぁ、他の調査員と違って俺は人間だからな。やばそうな匂いがした時点で手を引くべきだろう。

 そりゃあね、人間の中にも強い人はそれなりに居ます。しかるべき特訓を受け、技術を磨いていれば強くなるそうだ。

 そういうわけで俺は安全な調査を心がけることにしているのだ。

「というわけで、柊……雪女は何が危険だと思う?」

「え、えーと……」

 六月を過ぎた放課後、俺は雨の降りしきる校庭の隅っこで雨宿りをしていた。俺の隣には雪女がいる。

「美貌?」

 自信が無いのだろうか、彼女は自分を指差している。

「ふんふん、なるほど、美貌か。確かに昔話の雪女も超綺麗だって聞くしなぁ」

 柊もボーイッシュな感じはするけれど可愛いっちゃ可愛いな。でもなぁ、雪女ってどちらかというと綺麗系のイメージだな。

 妖艶でいて、清楚……白い着物からちらつく雪のような肌。そして見上げると長髪から覗く瞳が『えっち』と目で俺にささやいてくるのだ。

「お兄さん?」

「ああ、何でもない。他に危ないと思う事は何かあるか?」

「……えっと、やっぱりふとした時に相手を氷漬けにしてしまう事かな」

 そういって樹木に木をふきかけ、凍らせる。

「おおー……すげぇ」

「でしょ?」

 少し自慢げに話す柊を見て俺の中での危険度が少し上がった。

 もし、俺に対してくしゃみをしたら凍るのだろうか。

「人間に対して故意的にやったことは?」

「やるわけないよっ」

「そっか、そりゃよかった。じゃあ、次。雪女の苦手な物」

 相性は大事だ。苦手な人、苦手な物、苦手な場所……相手の弱点を知っておくことは自分の身を守るために必要な事である。

「やっぱり火かな。暑さなら自分の周りの温度を調節できるからそんなにつらくないけれどね。ま、建物の中にいて火事にあったら溶けちゃうと思う」

「そうか」

 なるほど、弱点は火である……。

 書いていて当然だなと思った。人間だって建物火災に巻き込まれて年に何人でも被害をうけている。

「何だか悪いな」

「え?」

「弱点を暴き立てる事だよ」

 調査だからな、こればっかりは仕方がない。

「仕方がないよ。お兄さんにとって必要な事なんでしょ?」

「ああ」

 俺がノートをとっていることにようやく気付いた柊が覗きこんできた。

「それで、この質問にはどんな意味があるの?」

「柊の……雪女の危険度調査」

「危険度?」

「そうだ。人外……まぁ、人以外の存在を調査してるんだよ」

 騙して悪いが……じゃないけどさ、調査をしますって言って調査する奴はいない。そして、俺みたいなのにひっかかってくれるのは柊ぐらいなもんだ。

 その柊でさえ俺だから受けてくれている節がある。

「えっと……あの、僕は……危険じゃないよ?」

 急に不安そうな柊に対して、俺は告げる。

「危険だ。胸にパッドを仕込んでる。敢えて胸をでかく見せるのではなく、慎ましやかな胸をちょい足ししてリアルに見せているところが危険だ」

「凍らせるよ?」

 怒らせると危険なのは誰でも一緒だ。

「ま、雪女が危険だったとしても柊の事は誰にも話さない」

「え?」

 不思議そうにしている柊を納得させるため、俺はペンを回しながら説明を始めた。

「調査しても別に提出するわけじゃないからな。それに、柊がこの学園からいなくなったりしたら俺もさびしくなるよ」

 それに柊と俺は以前であった事があるそうだ。その話もまだ聞いちゃいない。

「えっと……ありがとう」

「お礼を言うのはこっちの方だよ。……っと、こんなもんかな」

 俺は自筆ノートにまとめを加えた。

「なんて書いたの?」

「んー? 女の子か男の子かわからなかったが、雪女という言葉を聞いてほっと一安心。アッーと驚く展開を少しだけ恐れていた夢川調査官は事なきを得た。。性格は至って温厚、周囲の評判もよく、周りから見ても怒ったところは見た事が無いとの事……無害ではないものの、危険性は超低い……どうだ?」

 ノートを覗き込んで少し悩んだ顔をしていた。

「えーっと、そんなにあれかな?」

「あれとは?」

 もじもじした後に柊は決心した表情を見せた。

「危険度低い?」

「ああ、そうだ」

「お兄さんは雪女の昔話、知っているよね?」

「知ってる」

 それなら早いと胸を張った……無い胸を。

「その中じゃ、お爺さんを襲って凍らせてます。」

「そのおじいさん、寝てたよな? それに、冬山だったぜ? あの昔話は雪女として扱っているけれど実際は冬の雪山の恐ろしさを教訓話にしているんじゃないかと思う」

「僕もそう思うけど……美貌でさ、ぼくのことを雪女だって知らない男子生徒誘惑して氷漬けにしちゃうかもしれないよ!」

「ここ女子学園な。男子生徒は俺だけ。しかも、お前の正体を知ってるぜ?」

 まだまだめげない柊はしなを作り始めた。

「やっぱり、美貌と身体で氷漬けにっ」

「……柊、現実を突きつけるようで悪いが……お前の美貌にくらっと来るやつは幼生愛好家の気が強いかもしれないな」

「幼生愛好家? 何それ……専門用語はわからないよ」

 造語だから気にしないでくれ。

 まぁ、成長すれば胸も出てお尻もいい感じになるかもしれないからな。その時は美貌のおかげで危険度がアップするだろう。

「なぁ、雪女の見た目がいきなり変わる事ってあるか?」

 力を解放すればバスト、ヒップ、身長共にプラスの効果を与え、誘う視線で男をイチコロリ……なんてな。

「見た目? 髪の毛とか眼の色とか? うん、力を使えば銀髪になって眼は水色になるよ」

「いやいや、何と言うか……成長だよ。人並みに身体は大きくなるのかって事」

 俺の質問に柊は頷いた。

「うん、もう大体大人の体つきになる頃だよ」

「大人の体つき……」

 頭からつま先まで見る。これが大人の体つき? 冗談だろ。

「どうしたの?」

「柊、ちゃんと栄養摂ってるか?」

「栄養? 豚肉とか牛肉とかバランスよくちゃんと食べてるよ」

「それはバランスよく食べているとは言わないだろ。野菜も食えよ。食事はバランスを取らなきゃ駄目なんだぞ」

「ピーマン嫌い。なすびも嫌いだなぁ」

 なるほど、たとえ雪女といえど、好き嫌いしたら成長が今一つなのか。吸血鬼もそうだけれど、人外と言えど好き嫌いは駄目なんだな。

「これからが成長期だよっ」

「はいはい」

 いつまでも夢見がちじゃいられないんだ。雪女であろうと、これから先……現実を見る事だろう。

 柊と話しこんでいたからか、気付けば雨はあがっていた。

「じゃあね、お兄さん」

「おう」

 さて、雪女の調査はこれで終わりにしていいだろう。今後は何をしようかな。


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