第十三話:襲われた石見
第十三話
椿たんが危険度の低い人間……ではなく、人外だとわかったのでこれ以上ちょっかいを出すのは辞めることにした。
藪を突いて蛇ならいいが、牛鬼が出てきたらお手上げだ。怒らせたら終える。
「……っつ」
俺を見た椿たんは眼を見開いて、席からすぐさま離れた。
ま、正体を知っている状態の人間に会えば警戒するのは仕方がないけどさ、何だかかなり傷つくなぁ。
「おはよう」
教室に入って椿たんに手を振り俺はそれっきり。怯えではないけれど、得体のしれない相手に接した時に見せるような表情を見せてきた。
さて、そんな椿たんに構っている場合ではない。今以上の椿たんの情報を探ったり、プライベートな情報を手に入れるのは後回しだ。まずは他の人外を探したほうがいいだろう。
時折、こちらを見てくる椿たんの事も少々気になるが、今日の四時間目に小テストがあるからな。そっちを優先する事にしよう。
その日の放課後、人通りの少ない道を歩いていたら(人外がいないかどうか捜索中)ビルの壁をぶち破って俺の目の前に何かが転がってきた。
最初は車か何かかと思ったけれど、動いていたし、小さかった。
「……椿たん?」
「ちっ……」
足を捻ったらしく、立ち上がろうとして失敗している。
「椿たん」
そして、ようやく俺の存在に気付いたようで警戒心の強い瞳が俺を捉えた。
「夢川か」
彼女の警戒は解かれることは無く、俺以外に誰かいないかくまなく探しているようだ。
「椿たん、何をしてるんだ?」
足をくじいていても立てるとばかりに片足で立ち上がった。其処でようやく砂煙が落ち付いて被害の凄さを見せつけてくれた。
建物の向こう側から穴が開いていた。どうやら、このビルは廃ビルなので人がいないのが救いだろうか。
「椿たんってば」
「お前には関係ないだろ」
そういって片足で逃げ始める。
しかし、数歩とんだところでこけてしまった。
「……ふぅ、牛鬼ってのも大変なんだな」
「な、何を……」
「逃げるんだろ?」
そんな椿たんをお姫様だっこして走り出す。
そしてそれから数十分間抱えたまま、結構離れた公園までやってきた。
最初は離せと騒いでいたが、俺が全く取り合わないのを知ると大人しくしてくれていた。
「……ここまで来れば大丈夫かね?」
「ああ、多分な」
「ふぉふぉふぉ、それは結構」
「何だその笑い方」
「救出成功時の笑い方」
その場で降ろし、ハンカチを水につける。
「ほら、これでちゃんと冷やすヨロシ」
「……」
俺から無言でハンカチを取り上げると捻ったと思われる場所にひっ付けた。ところどころ破れた制服にぼろくなったスカート……一体、何と戦ったのだろう。
「助けたお礼に楽しい事をしていた相手、教えてくれよ」
椿たんがこれ程までにぼろくそにされた相手だ。牛鬼は人外の中でも超危険レベル……勿論、個体差によるらしいがね……そっちを調査したほうが俺にとってはプラスのはずである。
「……巫女だよ」
「巫女?」
巫女がこんなに強いのかよ。
俺の頭の中で筋肉の隆起した体躯の女性がいかつい笑みを浮かべていたりする。なるほど、確かにそれなら片手間で倒してしまいそうだ
「それ、人間?」
「ああ……」
人外じゃないからこれは範囲外だよな。
「お前ら人間の為に私らみたいな化け物を追い出そうとしてるんだよ。ちょっと人間を小突いた程度で本気で襲ってくるなんて白けるぜ」
珍しく自分から話してくれた椿たんに俺は首をすくめるしかない。
「椿たんが化け物? どこら辺が?」
「……あたしは牛鬼だ」
手負いの虎は手ごわいそうだが、手負いの牛鬼はどうなのだろう。
彼女の視線をびんびんに感じながら俺はため息をついた。
「……女の子を怪我させて、どうにかしようなんてとんだ巫女だな。まぁ……椿たんが悪いところもあるんだろうけどさ。しょうがないなぁ、俺がボディガードしてやるよ」
「余計な御世話だ」
ハンカチが飛んできたのでそれをすんなりとキャッチする。それだけ彼女が弱っているんだろう。
「足、まだ痛いんだろ?」
「……このぐらい、大丈夫だ」
片足で立ちあがる。
大丈夫だと思っていた方も結構怪我をしていたりして見ていて痛々しい。
「あのー、椿さんや。ここは両足で立って見せるところですよ。私は大丈夫だーって言わないと全く説得力が無いです」
「……ふんっ」
負傷している足で思い切り大地を踏みこんだ。
「ぐっ……」
やっぱり、過度な負担をかけるようで脂汗が浮かんで苦痛に表情が歪んでいる。強がりさんめ。
「ほら、背中に乗れよ……って、言っても聞かないからな。椿たん、背中に乗ってください」
「誰が乗るかっ」
ふんっとそっぽを向かれたのですぐさま膝裏へ左手をあて、こかすようにして強引にお姫様だっこをする。
「あ、おいっ」
「はっはっは、これで街中を歩くなんて注目の的だぜ? それが嫌なら大人しくおぶさるんだ」
「しかたねぇな」
下手に出ても乗らない強情っぱりだからな。別に椿たんのことを心配する義理なんてないけれど、俺を含めて三人しかいないクラスメートが減ったら嫌なのだ。
背中に椿たんをのせて、俺は歩き出す。
「ほーんと、椿たんがやられるなんて一体どんな相手だよ」
「西羽津の巫女だ」
「西羽津の巫女?何それ」
「ここらの地域じゃどんな事をしても勝てない相手だ。見つかったら逃げるか、消されるかしか選択肢が無い」
「ふーん。なんで椿たんが狙われるんだ? さっきは小突いたら襲われたそうじゃないか。本当は小突いた程度じゃないんだろ?」
顔は見えないけれど、おそらくしかめっ面になっている事だろう。
「あたしは……色々と悪い事をしているから目立つだけだ」
「ぷっ、自分で言ってりゃ世話ないか」
俺はその巫女とやらに興味を持った。
「なぁ、椿たん」
「何だよ」
「また、狙われるか?」
「……ああ、多分な」
デリカシーが無いと思いつつ、答えてもらう。苦々しげにそうに答えてくれたので、俺の腹積もりは決まった。
その巫女の事を提出してNKKに報告すればそれなりに喜ばれるだろう。




