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第十二話:家を出ても外へ出ても

第十二話

 吸血鬼だからと言って、朝に弱いのは甘えだ。NKKに所属している吸血鬼は基本的に早起きだしな。

「アリスちゃん朝だよー。ほら、朝だよー」

「ぬがっ、ぬがっ……ぐぅ」

「ほーらほらほら」

「んがっ、んがっ」

 アリスの部屋にノックもせずに入り、棺桶を蹴るのが俺の仕事である。

 この腹いせ……こほん、憂さ晴らしタイムがなければ俺はアリスと一緒に暮らせないぜ。もしこれが無ければ木の杭と十字架、ニンジンをもって闘いを挑むことになる。

 そして身体を起こしたからと言って、仕事が終わるわけでもない。

「んー……」

「ほれ」

「むふー……」

 上半身をゆっくりと起こしたアリスの顔に適温の蒸しタオルをくっつける。ここから先は冷や汗が伝う作業となるのだ。

「むふむふむふ……」

「うん、よし」

 顔を拭いて軽くゆする。

「朝だ……うおっ」

 遠慮ない右拳が俺の頬を掠めていった。寝起きの吸血鬼は非常に危険だ。遠慮が無い為、下手したら頭が吹き飛びかねない。

「朝だぞー」

「うーん? うん」

 眼を何度か瞬かせてアリスは徐々に覚醒していく。

 もう大丈夫だろうと俺は部屋から出て行くことにした。

「おは、よう……」

 朝食を食べていたらようやくアリスが起きてきた。起こしに行って五分経っている。

「もう、アリスちゃん。またお着替え途中でリビングに出てきちゃうなんて……」

 つい、お母さん口調になるのは手がかかるからだろうか。

「ほら、ボタン全開よ。ご飯を食べるときはこう、一応閉めておきなさい?」

「はい、ママ……」

「スカートもちゃんと穿く。ドロワーズが丸見えよ?」

「うん……ごめん」

 そのまま定位置についてご飯を夢心地で食べ始めた。

 ご飯を食べてから、アリスのエンジンがかかるのだ。

「……ふぁー、お兄ちゃんおはよう」

「ああ、おはよう。眼は覚めたか?」

「うん」

 ぼさぼさの髪の毛を抑えながら、席を立つ。俺は茶碗を洗う事にした。

 それから二十分後、俺は玄関で靴を履き変えていた。アリスと一緒に行くことは少なく、理由は当然、俺たち二人が知り合いだということを周囲にばれないようするためだ。

「お兄ちゃん」

「何だ? 今日は珍しく早いじゃないか」

「あまり良くない噂が流れてる」

「うん?」

 どういう事だろう。今日、あの写真をどうにかするために屋上に行くつもりだったが、それより他の噂が流れているのか。

「お兄ちゃんとわたしは兄妹設定だよね?」

「ま、そうだな」

 似ても似つかない兄妹設定。血が繋がってますとかマジでそんな事を言うから焦った。父親が違うんだと一生懸命話していたし、俺自体も外国人の血が混じっている事になっている。

「その割には似てないって」

「……そ、そうか」

「それに、一緒に登校しているところを見た事が無いって言われてる」

「そりゃあ、ばれないようにだろ?」

「うん、そのつもりだったけれどたまには一緒に行かないとまずいっぽい」

 それもそうかもしれない。

「じゃあ、今日は一緒に行くか?」

「そうだね」

 こうして、俺とアリスは一緒に家を出たのだった。

 何故だか緊張していて、お互い何もしゃべらない。何もしゃべらないまま学園へとついて、そのまま別れる。

 そして、その日の放課後に俺は屋上へとやってきた。

「いないのか?」

 辺りを見渡す。

 誰もいない。

 しかし、誰かの視線を感じていた。

 視線を感じる方向へ、気取られないように小石を投げてみる。

「いてっ」

「……え」

 瞬時にして人の姿が現れた。

 首をかしげる。

 今見たものは幻覚か?

「もう、酷いな」

「……あんたか」

 昨日、俺が見た少女だった。

 にこにこしていて元気そう……というよりはうざそうな、面倒くさそうな感じの臭いがする女子生徒だ。

 平常時だったら友達に慣れたであろう、そんな雰囲気を出していた。

「約束通り来たけど?」

「ふふん、逃げずに来たのは一応、褒めておくよ」

「お前さんは何者だ? いきなり現れて……もしかして、忍者の末裔か?」

 俺がそう言うと首を振った。

「透明人間だよ、透明人間」

「透明人間? おいおい、冗談聞く為に来たんじゃないんだぜ?」

「冗談に見える?」

 再び彼女の体は消えた。首だけが残っている。

「……やっぱり、忍者の末裔なんだな」

「だから、透明人間だってば。吸血鬼と同居している癖に透明人間は認めないの?」

「あれか。光学迷彩ってやつ」

 忍者も冬治の科学者だったって何かの本で呼んだ気がする。

「ま、わたしが透明人間だと言う事を認めないのならいいけどねー。それより、この写真をバラまかれたくないんでしょ?」

 そういって写真をとりだされた。

「……黙って居てくれるのか?」

「勿論だよ……んー、じゃ、まずはわたしの周りを三回周ってもらおうかな? 勿論、四つん這いでね」

「はぁ?」

「写真」

「……わかったよ」

 屈辱的だった。

 しかし、四つん這いになる事でなんと……パンツを拝む事が出来たので相打ちということにしておきたい。

「わん」

「いい子いい子―」

 撫でられたって嬉しくないな。

「ほら、やめろ」

「へーい」

 その手を払って俺は手を出した。

「これでいいんだろ?」

「うん、今日はね」

「今日は……? どういうことだよ」

「わたしの名前は間山椎子。これからこきつかってあげるから楽しみにしていてね、夢川冬治君」

 そういって消えてしまった。

 それと同時に、アリスから連絡があった。

「おにーちゃんっ。どこにいるの?」

「屋上……」

「そんなところに居ないで早く帰るよっ。作戦会議するから」

「……ああ」

「ただでさえ人間は歩くの遅いんだから早くしてよね」

 携帯電話を屋上から投げ出したくなったが、俺はめげなかった。


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