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第十話:虚勢で胸を張る

第十話

 五月が過ぎた。そろそろ熱くなってくる時期だが……今は暑さより気になる事があったりする。

 雪女って事は男の子じゃあない。

 改めて柊から雪女だと言う証拠を得るため、俺は彼女を探していた。もちろん、彼女のいる教室に行くのが手っ取り早くて確実な方法だろう。

「おーい、柊?」

「え、お兄さん?」

 当然、女子しかいない教室に行くとクラスがざわついた。

 三年ではさすがにこんな事が起こるのは稀だ。いい意味でも悪い意味でも俺と言う存在は三年の女子たちに慣れ親しまれていると言う事だな。

 まぁ、見向きもされないのは三年生だけであって二年や一年生徒はあまり接点が無い。好奇の視線をこちらに向けてくる生徒が大半なのも仕方のない事だ。

 俺の方へと走ってきた柊が不思議そうな顔をしている。

「どうしたの?」

「この前の事をちょっと話そうかと思って」

「この前の事?」

「そう。ゆきお……」

 俺の口を素早くふさいだ。

 やっぱり自称雪女だけあって冷たいな。

「放課後じゃ駄目かな?」

 放課後になるとちょっと涼しくなるからなぁ。

 我儘過ぎるかと思ったけれど、今すぐ確認する必要もない。それに、放課後はもしかしたら別の人外についての調査があるかもしれないのだ。

「今忙しいならいいよ。また明日来るから」

「うん、ごめんね」

 教室まで戻ろうとすると、後ろから再び柊の声が聞こえてきた。

 振り返ると他の生徒達とふざけているようだ。

「ちょ、ちょっとー押さないでよ」

「まさかあんたが噂の先輩と知り合いだなんてね」

「知らなかった―……頑張ってね!」

 クラスメート数人がにやにやしながら柊と俺の事を見ている。

「やれやれ」

 こう言った事が起こるんだよなぁ。

 現三年も興味深々と言った調子で彼女とか彼氏はいますかって聞かれたんだよなぁ。ま、椿たんの近くにいれば不思議とそんなことを聞かれることは……というよりは、話しかけられる事自体が少なくなっていたけどさ。

「柊―、がんばーっ。噂の先輩とがんばーっ」

 噂の先輩ね。何か悪いことしたっけな。

 そりゃあ、女子生徒の下着や衣服が盗まれれば俺がやったのではないかと考える人も出てくるだろう。しかし、そんな事実は無い。

 かといって、特別いい事をしているわけでもないのだ。人間というのは身分相応の評価をしてもらわないと後々苦労するもんだ……等と、ろくに生きた事のない若者の俺が言う事でもないな。

「ごめん、何だかみんなが勘違いしているみたいで」

「勘違い? はて、何のだ」

 とぼけたように聞き返しても、敏感な俺はふーん、なるほどねと思ってしまう。

 ほんと、女の子って好きだよなぁ、誰と誰が付き合っているんじゃないかって言う事……何せ、ここは女学園だ。そういう噂も(女の子と女の子)よく聞く。

「ぼくとお兄さんが生き別れの兄妹だって」

「そっちか」

 先輩とか夢川さんとか呼んでいればそんな誤解は招かないだろうに。お兄さんとか呼んでいるとマジでそう思われるんだぜ?

 たまにおにいさんと呼んでたらお義兄さんって勘違いされる事もあるんだぞ。

 今、こうやって柊とお兄さんについて話しあっている程俺も暇ではない。

「ま、いいや。じゃあ、ついてきてくれるか?」

「う、うん」

 こうして俺は何とか柊を連れ出すことに成功したのだった。

「な、何だかとってもドキドキする……」

 屋上前の階段踊り場まで柊を連れてきた。

 彼女は少し膨らんだ胸(絶対にパッドだ)に手を置いて深呼吸している。

「それで、話はなぁに?」

「うん、率直に聞くけど柊は雪女だよな?」

「……そうだよ」

 やっぱりその話か……柊の顔にそう書いてあると同時に、どこか残念そうな顔をしていた。

「雪女……怖いかな?」

「怖いとか今は関係ない。雪女なんだよな?」

「うん? だからそうだけど……」

「雪女(女装男子)ってわけじゃないよな?」

「そうだよ。正真正銘の雪女だよ」

 ごまかしている恐れもある。いや、雪女なら女ってついてるし、大丈夫だろう。待て、もしかしたら女だけどアレが付いているかもしれない。

 本当に女の子かぁ? そんな目で見ていると柊と眼が合った。

「……僕、女の子だよ? 信じていないのなら胸、触ってみる?」

 意地悪そうな笑みを浮かべる柊に俺は言った。

「それがパッドだと言う事は既に知ってる。嘘はよくないぞ」

「……うっ」

 頃合いを見計らったようにパッドが足元に落ちた。

「……やっぱり、男なのか?」

「お、女の子だよっ。正真正銘の女の子っ。やっぱりって何なのさっ」

「怪しい」

 上から下まで柊を見てみる。ボーイッシュで中性的な見た目の顔、パッドが落ちた以上、胸はぺったんこだ。スカート穿いているけれど、男だってスカートは履けるんだぜ。

「……じゃあ、脱ぐよっ。脱いだら……わかってくれるよね。お兄さんになら、見せても僕は……」

「そこまでは期待してないなぁ」

「え?」

 それに、男だった時のショックが凄そうだから。夢に出てきそうだ。

「じゃあ、どうすればいいの?」

 泣きそうな顔になったので俺は質問を辞めることにした。

 泣かせるつもりは無かったのだ。

「さぁ? まぁ、あれだ。変な事を聞いて悪かったよ。ちょっと柊の事をからかおうかなって思っただけだから。本当は違う事を聞きたかったんだ」

「お、お兄さん……意地悪だよ」

 柊はその場にへたりこんでしまった。

「ほら、パッドが落ちてるぞ」

「ありがとう……」

 柊を立ち上がらせて、パッドを手渡す。立ちあがらせるとき、胸に手が当たったが……うーん、微妙だな。

「あ、今、微妙だって思ったでしょ?」

「思ってないよ。ああ、きょにゅうだって思ったんだよ」

「え? 僕が巨乳?」

 そう、君は虚乳だよ……。

「まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。柊は俺の事を知っているって言ってたが……」

 そこでチャイムがなった。

「あ、ごめん。また今度ね?」

「……ああ」

 ま、いいか。どうせ雪女かどうか確認するために呼んだのだ。

 走り去る柊の胸の感触を思い出しながら、俺はため息をついた。

「これならまだデブの男子の胸揉んでた方がいい……かな」

「聞こえてるよーっ」

「いてっ」

 一体どこから投げたのか、俺の頭にパッドがあたったのだった。


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