ジクソーパズル
街路樹の葉が、
赤や黄色に彩る季節に僕たちは生まれた。
僕は彼で、彼は僕。
彼は裸で生まれ、
僕は一つの真っ白な箱を大切そうに持っていた。
その箱は、模様も文字もないただの真っ白な箱。
いつどこで貰ったのか、
拾ったのかすらわからない。
だけど、大切な不思議な箱。
勇気を出して、
中を覗いてみたが、
何も入っていない。
次第に、あたりが真っ暗になった。
そして、小鳥のさえずる声と
同時に辺りが明るくなった。
僕は起き上がり無意識で、
箱の中に手を入れた。
すると、昨日は何も入っていなかった箱に
一つだけ小さなカケラが入っていた。
次の日も、その次の日も。
日付が変わるたびに、
あの真っ白な箱にカケラが入っている。
何度か、箱の中にカケラが現れてくるのを見たくて、
箱にへばりついていたが、
彼が寝てしまうと僕の周りは真っ暗になってしまう。
辺りが明るくなる頃には、
カケラが箱の中に存在している。
僕らが生まれてから五年が過ぎた頃、
カケラにも色が付いてきた。
僕はどうしてカケラに色が付くのか疑問だった。
そんなある日、
彼のお気に入りのおもちゃが友達との
取り合いにより壊れてしまった。
当然ながら、幼い彼は泣いた。
家に帰って泣き疲れて寝るまでずっと。
次の日になって、
箱の中を覗くと青色のカケラが入っていた。
あっ。
彼がその日に感じた感情をギュって縮めたものが、
カケラの色となって出ているんだ。
と、僕は思った。
楽しい時は、黄色。
苦しい時は、黒。
怒った時は、赤。
悲しい時は、青。
他にも、さまざまな感情があってそれに比例して色もある。
小学校に入ると、毎日いろんな感情が溢れ出てくる。
そんな時のカケラは、
その小さな面積にさまざまな色同士が
ぶつかり合うような形で
色が付いている。
僕は、毎日彼が造り出すカケラが
楽しみで仕方なかった。
そんな毎日の中、
彼が中学へ上がって数カ月後。
彼の大好きなおばあちゃんが亡くなったのだ。
彼も、彼の家族も泣いている時に、
僕は見たんだ。
彼らの頭上に寝ているはずのおばあちゃんと、
一枚の大きな絵。
その絵を、
よく見ると一つ一つが
小さなカケラで出来ていたのだ。
おばあちゃんは、
幸せいっぱいの表情で
その大きな絵を見つめていた。
それから高校、大学と進んできた頃、
今度はおじいちゃんが亡くなった。
あの時の、おばあちゃんと一緒で、
彼らの頭上にはおじいちゃんが立ち、
隣には絵がある。
でも、おばあちゃんの絵と比べると、
大きさも形も色も違う。
それでも、おじいちゃんは幸せいっぱいの表情で
絵を見つめていた。
それから数年後、
彼に彼女ができ、
そして彼は夫になり子供も生まれた。
毎日、幸せな日々が続き、
僕のカケラも次第に大きくなってきた。
彼が六十歳を過ぎた頃、
彼の両親が亡くなった。
彼は泣き、
僕はただ幸せいっぱいな表情で
絵を見つめる二人を見ている。
もしかしたら、
このカケラが完成すると彼は死ぬの?
あと、何回僕はカケラを拾えるの?
彼の家族も、
友人もいつかはそれぞれのカケラが完成するの?
ねぇー、あと何個なの?
ねぇー、ねぇー。
誰にも届かないし、
誰も答えない。
それから数年後、
彼が病院で寝たきりになってしまった。
毎日毎日、同じ風景。
彼が造り出すカケラも
次第に同じような色ばかり。
だけど、たまに子供たちが
孫を連れて会いに来る時の
カケラは綺麗な色のカケラ。
その数カ月後、
辺りが明るくなり起き上がると
目の前に彼がいた。
そうか、彼は死んだんだ。
ココから見える彼の姿は、
家族に囲まれとても幸せそうな顔で眠っている。
僕は、最後のカケラを取ろうと箱に触ると、
パッ!と光に包まれ
僕がカケラになった。
彼は僕をやさしく拾い上げ、
「ありがとう」と言いカケラに
なった僕を最後の枠に入れた。
そして、彼は一枚の絵になった僕たちを掴み。
彼と一緒に、
共に過ごしてきた日々を懐かしんだ。
そうか、
あの時のおばあちゃん達が
幸せな表情で絵を見てた理由を
今ここで知ったのだった。
彼は、最後に僕たちに名前をくれた。
”人生のジグソーパズル”と。
そして、彼と僕は幸せいっぱいの塵となった。