葬送の倫理
通る人もいない、寂れた道。
その道の先に生えた草が不自然に倒れているのを見咎めて、禎理はふと立ち止まった。
「……どうした?」
同行していた神官のエクサが発した不審声に、黙って道の先を指差す。そしておもむろに、禎理は倒れた草の方向に歩き始めた。
近づいてみると、予測が当たっていたことが分かる。ぼうぼうと生えた草に隠れるように道端にあったそれは、間違いなく、人間の死体。あちこちを獣に食い荒らされており、服の欠片からでも男か女かすら見分けがつかない。
「行き倒れ、か?」
いつの間にか禎理の背後に居たエクサが鼻を鳴らす。そのエクサにはろくに返事も返さず、禎理はただ静かにしゃがみこみ、腰のベルトに挟み込んである短剣を抜いて地面に穴を掘り始めた。
「……何、やってんだ?」
「このままにはしておけないじゃないか」
憮然としたエクサの問いに答えながらも、手は休めない。
行き倒れた旅人を葬るのは、『冒険者』のような漂泊人生を送る自分たちにとって『義務』みたいなもの。常日頃から、禎理はそう、思っていた。
……自分も、いつどこの道端で斃れるか分からないのだから。
「ふん」
呆れたような溜息が、背後で響く。と同時に、禎理が掘っていた辺りに、人が一人十分に入るほどの大きな穴が、ぽっかりと開いた。
「あ、ありがとう」
エクサが魔力を使って開けたのだと、すぐに分かった。
だから禎理は、振り向いて、頭を下げる。
「ふん」
だが、禎理のお礼に、エクサは鼻を鳴らして再びそっぽを向くのみ。そんなエクサの、ある意味彼らしい行動に一人苦笑すると、禎理は道端の遺体をそっと穴の中に落とし、その上から丁寧に土をかけた。
その後ろで、エクサは腕を組んで遠くを見つめたまま。気配でそれを感じ、禎理は再び苦笑した。
……エクサの気まぐれは、いつものことだ。
新しくできた小さな塚の前に膝をつき、祈りを捧げる。
急に強くなった風が、灰茶色のぼさぼさ髪を更にぼさぼさにして通り過ぎた。
「……終わったのか?」
揶揄するような声にゆっくりと振り向く。
破門された『破戒神官』であるエクサは、風に煽られる真っ直ぐな黒髪を右手で押さえながらも、未だにそっぽを向いたままだった。
「全く、他人の事を祈って何が楽しいんだか」
立ち上がって膝の砂を払う禎理に、エクサが肩を竦める。エクサらしい言葉だと、禎理は思わず苦笑した。
だから思わず、説教めいた言葉が口をついて出る。
「『情けは人の為ならず』って諺、知ってる、エクサ?」
「ふん」
再び、鼻を鳴らす音が禎理の耳を突く。
だが。
「ま、それも真理の一つ、ってことか?」
嘲笑に満ちた声が、意外な言葉を紡ぎだす。彼らしからぬその言葉に、禎理は思わずエクサをまじまじと見つめた。
そんな禎理の行動に、エクサの顔が笑いに歪む。そしてエクサは、禎理に近づくとその細い肩を叩いて言った。
「安心しろ。お前がどこで野垂れ死のうと、俺が必ず探し出して葬ってやる。……それでいいだろ?」
その言葉に、禎理も思わず破顔する。本当に、エクサらしい。禎理は心からそう思った。
命の危険と隣り合わせで、その日暮らしの冒険者は、『将来の約束』を殆どしない。しかし禎理は、くすっと笑って、エクサの提案を受けた。
「そうだね。……お願いするよ、エクサ」




