決闘の手順
「……えっ、決闘? エクサが?」
天楚の冒険者宿三叉亭に入るなり聞こえてきたその言葉に、禎理は思わず絶句した。
「でも、何で、また?」
決闘の理由を、目の前でシチューを頬張っている当のエクサに聞いてみる。
「さあな」
「公衆の面前であれだけ罵倒されれば、誰だって怒るさ」
素っ気ないエクサの言葉を補足したのは、三叉亭の主人六徳だった。
「闇打ちされなくて良かったな」
禎理の分のシチューをよそいながら、六徳はエクサに向かってフンと鼻を鳴らす。その態度だけで、六徳がかなり呆れていることが禎理には分かった。
六徳の気持ちは、禎理にも分かる。禎理よりは背が高いが華奢で小柄、匙とシチュー皿より重い物は持ったことが無さそうな白い腕を持つエクサに、『決闘』という言葉は不似合いすぎる。
「けっ」
対してエクサの方は、決闘の当事者だというのに暢気なものである。
「あんな奴ら、法力で一発……」
「魔法は使うなって書いてあるぞ」
エクサの言葉を否定しながら、六徳はシチュー皿と共に禎理の前に書状を一つ、置いた。エクサに届いた『果たし状』だ。
「応援も頼めないみたいだぞ」
六徳の言葉を聞きながら、書状をそっと開く。
その書状には確かに、「魔法禁止」、「決闘場所には魔法が使えないよう『魔法結界』を張る」、「代理人不可」と、意外と読みやすい字ではっきり書かれていた。
破戒神官であるエクサの攻撃方法は、魔法しかない。その魔法を使えない上に、応援も禁止されているとなると、エクサに勝ち目は全く無い。
「ふん、そんな条件」
思わず書状を握り締めてしまった禎理を覗きこんだエクサが、不意に大声を上げる。
「第一、天楚の魔法結界なんて、ちゃちなもんだろ?」
エクサの言う通り、天楚を含む大陸西部地方には、魔法を使うことのできる人間はそう多くはいない。だから、その魔法を封じる仕掛けも、卑小なものだろう。そのエクサの予想はすぐに裏切られた。
「試してみるか?」
そう言うなり、六徳がエクサの額に札を張る。天楚で作られている魔法結界用の札だ。
エクサは禎理に向かってにやりと笑いかけてから、得意の雷魔法を使う為に印を結んだ。だが。……何時まで経っても何も起こらない。
「ま、そういうことだ」
唇を噛みしめるエクサに、六徳はこう、言い放った。
「代理も駄目だし、ここは覚悟を決める他ないようだな」
「そ、そんなー」
がっくりと肩を落とすエクサ。だが、それくらいで諦める彼ではない。
「何かないのか、禎理?」
不意に、だが予想通り、エクサは禎理にすがりつく。
やはり、そうくるか。ふっと笑いがこみ上げてきた。
頼られるのは、悪くない。それに、幸いなことに『果たし状』には、「決闘場所と武器はエクサが決めて良い」と書かれていた。
「……ねえ、エクサ」
丁寧に書状を畳みながら、尋ねる。
「どれくらいの重さなら、持ち上げられる?」
「ん……あんまり自信無い」
首を傾げながらエクサはそう、答えた。
「じゃ、武器は特別に作ってもらうとして」
「何をする気だ?」
六徳とエクサが、同時に禎理の顔をまじまじと見つめる。
「ん、まあ、ね」
その、次の日。
エクサの代わりに、決闘の為の場所と武器について記した書状を届けた禎理は、書状を見た相手が顔色を変えるのをはっきりと、見た。
そして禎理の思惑通り、決闘は中止になった。
逃げるように禎理に背を向けた相手を見送ってから、相手が落とした書状を拾い上げる。そこに記された文章をもう一度読み直し、禎理はくくっと笑った。
『窓の無い地下室で、大きな戦斧を使った決闘』。これが、禎理が考え出した条件。幾らエクサが武術に暗い男でも、闇雲に戦斧を振り回すぐらいならできる。しかも、どんなに屈強な戦士でも、何も見えない状態では、どの方向から襲ってくるか分からない戦斧を逃れる術は無い。
自分が当事者でも、こんな決闘はやりたくない。
書状を畳みながら、禎理は再びふっと笑った。




