願いを編んで
天楚の冒険者は基本的に「何でも屋」である。
護衛や探索はもちろんのこと、倉庫や街の掃除、近隣の村や遠くの街への荷物や手紙の運搬、小さな謎解きから決闘代理まであらゆる仕事を引き受ける。身の回りのことは自分で始末をつけるのが当たり前。料理、裁縫、その他諸々、広範囲なスキルを生活に困らない程度のレベルで身に付けているのが冒険者である。自身も天楚の冒険者である禎理はそう、理解していた。
だが。……レース編みのスキルは、冒険者に必要なのだろうか? いや、必要なのだろう。短い指に絡まった細い糸を見つめ、禎理はふっと息を吐いた。
下宿にしている屋根裏部屋の、天窓から入ってくる午後遅い光が、白いレース糸を明るく照らし出す。
「編む」のは、苦手だ。森に棲んでいた幼い頃、父や兄から木の皮や蔓を材料にした籠の編み方を習ったが、禎理が作った籠は何故かどこかが歪んでしまい、父や兄のように上手に籠を作れたことはついぞ無かった。だから最初、この依頼を聞いたときには正直「断りたい」と思った。
だが。絡んだ糸で締め付けてしまった指の痛さに顔を顰めてから、ゆっくりと首を横に振る。とにかく、引き受けたのは自分だ。完遂するしかない。それに。依頼した女の青ざめた顔を思い出し、禎理はテーブルに置いたレース編み用のシャトルをもう一度手に取った。あの思い詰めた顔を見て、断れるわけがない。
不格好に編み上がったレースが、禎理の手の下で揺れる。依頼者が何故禎理にレース編みを頼んだのかは自明ではないが、手に持っているレース糸にある種の呪いがかかっていることを、禎理は薄々感じとっていた。編み上がったレースで何をするかは、依頼者から聞いている。
依頼者を騙した色男の最悪な評判は、禎理も耳にたこができるほど聞いている。呪い殺されても誰からも文句は出ないだろう。だが、……復讐するのなら、もっと正々堂々とした方法があるのではないだろうか? 別の疑問が、禎理の良心を苛んだ。だが、それでも。再びゆっくりと首を横に振り、想いを振り切る。……仕方ないのだろう。弱き者が強き者に刃向かう手段は、限られているのだから。
気持ちが落ち着いたところで、シャトルに巻いたレース糸が無くなる。
解けないように最後の処理をしてから、禎理は編み上がったレースをハンカチに包み、冒険者宿に届ける為に立ち上がった。




