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世界のはしっこ

 いつもとは違う揺らぎを感じ、はたと目を醒ます。

 言い知れぬ不安に駆られ、キイロダルマウサギの模糊もこは、大慌てで定位置――『ご主人様』であり、命の恩人でもある冒険者禎理ていりの腰のベルトに引っかかっている革のポーチ――から顔を出した。

 そんな模糊の視界に入ってきたのは、荒涼とした世界。打ち寄せる波が、粗い岩に当たって白く光る光景だった。

 足場の悪い岩だらけの場所を、禎理は両腕を広げてバランスを取りながら、それでも躊躇い無く歩いている。そして、禎理の向かうその先にあるモノは、『海』と呼ばれる、青黒い色をした水の塊、のみ。

 不意に、恐慌に駆られる。禎理は、一体どこへ向かうつもり、なのだろうか? 塩辛い風に小さな身体を持っていかれそうになり、ポーチの中で身を竦める。次の瞬間、ある考えに行き当たり、模糊の全身は総毛立った。

 ……まさか。禎理は、あの、『海』ってモノの中へ行こうという気、なのでは!

 それは、ダメ。本能的にそう思う。だから、模糊は反射的にポーチを飛び出し、禎理の肩に飛び乗った。

「……うわっ!」

 模糊が禎理の肩に着地した瞬間、禎理の体が大きく揺らぐ。だが、多少バランスを崩しただけで、次の瞬間には、禎理は再び海に向かって歩を進めて、いた。

「どうしたんだい、模糊?」

 歩きながらの禎理の指が、優しく模糊に触れる。その優しさが、痛い。

 ボクには、自由に行動する禎理を止める術も、力も無い。そのことが、途方も無く哀しかった。

 冒険者とは思えない、禎理の丸っこい指の隙間からそっと、前を見つめる。禎理はまだ、『海』の方に向かって歩いていた。

 むかつくほどカンカンに照りつける日差しを確かに感じるのに、身体全体が薄ら寒い。とにかく、禎理を止めなくては。模糊がそう決心した、まさにその時。

「……ほら、模糊」

 思いがけず、禎理が立ち止まる。

「此処が、マース大陸の南の端」

 あくまでのんびりとした禎理の口調に、模糊はきょとんとして禎理の方を見上げた。

 目に入る禎理の顔はいつも通り『穏やか』。その表情にほっとしながら、模糊はゆっくりとその視線を禎理と同じ方向へと向けた。

 禎理と模糊が立っているのは、岩場の端っこ。目の前に広がるのは、不思議で不気味な色をした『海』というモノ、のみ。

 怖い。本能的にそう思う。荒涼とした風景の中、自分と禎理以外、誰も居ないのが、淋し過ぎる。

「この海の向こうには、何があるんだろうねぇ、模糊」

 禎理の口調は、あくまでのんびりと模糊の耳に響く。

「海以外何も無い、ってみんな言ってるけど、本当かな?」

 しかし、禎理の言葉を、模糊は半分も聞いていなかった。

 怖い。恐ろしい。淋しい。模糊は首をぎゅっと縮めると、大急ぎで禎理の革鎧の内側に隠れた。

「……おいおい」

 戸惑いの声が、その後を追う。でもすぐに、模糊の気持ちが分かったのか、禎理は鎧の上から模糊の背中を優しく撫でてこう言った。

「大丈夫だよ、模糊。……俺が、居るから」

 その禎理の言葉に誘われるように、ゆっくりと顔だけ外に出してみる。

 恐ろしい色をした『海』を見ても、先ほどよりも恐怖感が薄らいだ気が、確かに、した。

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