トモダチのトモダチ
森で初物の木苺を摘んでいると、普段は腰のポーチで惰眠を貪っているキイロダルマウサギ、模糊が、同じ魔物の友達を連れて来た。
何時仲良くなったのだろう? 無邪気に戯れ合う、同じくらいの大きさの二匹のダルマウサギに微笑みながらも、少しだけ首を傾げてみる。冬の間は、自分も模糊も、天楚の街からあまり外へは出ず、森へ来るのも今日が久しぶりだというのに。それでも、禎理は、近付いて来た模糊のトモダチの、煙のような灰青色の毛色をしたダルマウサギに、摘んだばかりの木苺を差し出した。
と。木苺をその短い片腕で受け取ったダルマウサギが、もう片方の腕を禎理のぷにっとした指に絡ませる。微かに引っ張られる感覚に違うものを感じ、禎理は思わず呟いた。
「どうしたの? 何かあったの?」
すぐに。ダルマウサギの灰青色の影が叢の向こうへ、ぽんと飛ぶ。どんどんと進むその後ろ姿を見失わないように追っていくと、川のせせらぎが耳に近付いて来た。
そして。
「あ」
少し流れの早い、小川の向こうに倒れている小さな影を見る。おそらく、川傍に聳え立つ崖から滑り落ちたのだろう、少し色が変わった岸壁が、状況をはっきりと物語っていた。
灰青色のダルマウサギが、倒れている影の傍で叫ぶように震えるのが、見える。禎理はさっとマントと上着を脱ぐと、流れに足を取られつつもダルマウサギの傍へ向かい、倒れている影――まだ子供、少女、だ――を抱きかかえて元の岸辺へと戻った。
かなり長い間水に浸かっていたのだろう。抱えた身体が、冷たい。とにかく、乾かして温めなければ。禎理は躊躇うことなく、少女の濡れた粗末な服を脱がせに掛かった。
と。背中を叩く強い感覚に、振り向く。灰青色のダルマウサギが、怒ったように禎理の背にぶつかり続けているのが、目の端に、見えた。その横で、模糊が、その灰青色を抑えようと黄色い身体を大きくしているのも。
「君のトモダチを、どうこうしようってわけじゃないんだよ」
少女の服から手を放して、灰青色の毛に触れる。
「でも、このままじゃ酷い風邪をひいてしまう。それは、分かるだろ?」
禎理の言葉を理解したのか。灰青色のダルマウサギは少しだけ震えると、少女を守るかのようにその傍へと軽くジャンブした。
灰青色のダルマウサギの監視の下で少女の服を脱がせてから、近くの枯れ草と木切れで火を焚く。炎と、トモダチの灰青色のダルマウサギの温もりがあれば大丈夫だろう。そう思いながら、禎理は脱ぎ捨てた自分のマントをそっと少女の身体に掛けた。
すると。
「……あ」
少女の目が、微かに開く。
禎理が見詰める前で、少女はせわしなく瞳を巡らせ、強ばった腕を動かして灰青色のダルマウサギをそっと抱いた。
「良かった」
再び目を閉じた少女と、その腕の中で安堵感に微笑んだように見える灰青色のダルマウサギに、禎理はほっと息を、吐いた。




