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メドレー 晒し中  作者: 南国タヒチ
第三部 花の匂い
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Bird Cage

「誰もこねーじゃねえかよ!」

 灯台に集まるはずだったメンバーは誰一人こなかった。

 いくら人質がいるとはいえ、相手はあの舞島だぞ?

 舞島を殺すには、人質も人数も必要だった。

「クソっ、なんでこねーだよ! 高田もう一回電話しろ!」

 おれは灯台の入り口を見張っていた高田に命じた。

「もう何度も連絡しましたよ」高田はふて腐れた声で言った。 

「高田、テメェ! おれに逆らうじゃねえ!」

 おれは高田を殴った。高田は倒れた。おれは倒れた高田の腹を蹴りまくる。

「おれに逆らうじゃねえ。おれは恐怖なんだぞ。おれは誰もが恐れる恐怖なんだぞ」

 弱者はただ怯えて従えば良い。

 おれのように。むかしの僕のように。

 おれは満身の怒りを込めて、高田の腹を蹴った。高田は口から血を吐いた。

「――もう一回電話しますから勘弁してください」高田は泣きを入れた。高田の目にはおれに対する怯えがあった。

 おれは高田の態度に満足を覚え、蹴るのを止めた。

 〝そうだ。おれを見て怯えろ〟

 恐怖の前に膝を折れ。恐怖に許しを請え。

 おれは恐怖であらねばならない。おれが恐怖でなくなったら、おれは怯える側になってしまう。

 いやだ。

 もういやだ。

 怯えるのは厭だ。

 殴られるのは厭だ。

 舞島を殺さなきゃ。舞島を殺さなきゃ、おれは怯える側の人間になってしまう。

 しかし舞島を殺せるのか? あいつはほとんど一人で生首のメンバーを潰した男だ。真面に闘っては勝てない。

 だから人数を集め、ボウガンまで用意した。

 それに人質まで掠ってきたのだ。

 おれは加藤に顔をむけた。

 加藤はロープで縛られ、顔も痣だらけだったが、その目に怯えがなかった。

 むかつく。

 何故怯えない。

 おれは恐怖なんだぞ。

 おれはお前を犯して殺すかもしれない男なんだぞ。

 凶暴な衝動が込み上げてきた。おれは衝動が命じるまま加藤を殴った。加藤は悲鳴を上げたが、その目に恐怖が宿ることはなかった。

 加藤の目には強い怒りと、そして微かな憐憫があった。

「加藤、てめぇ! そんな目でおれを見るんじゃねえ! 舞島が来ると思って安心してんのか!あいつならこねえよ!」

 おれは心にもないことを叫んだ。

 あいつは来る。おれをブチのめしに。テメーの女を取り戻すためにやってくる。

 あいつはそういう男だ。だからおれは加藤を人質に取ったのだ。

「舞島は絶対来る! あんたの手下は来なかったけど、舞島は絶対にわたしを助けにやってくる」

「クソアマ、調子に乗ってんじゃねーぞ!」

 おれは加藤を殴った。加藤は歯を食いしばって悲鳴を堪えた。

「泣けよ! わめけよ! 女らしく可愛げあるところを見せたら、ご褒美をくれてやるぞ」

 おれはベルトに手をかけた。この生意気な女にチンポを突っ込んで黙らせてやりたかった。怯えさせてやりたかった。おれにケジラミを移したクソ女のように、屈服させてやりたかった。

 おれが加藤に跨がろうとしたその時、女はおれの顔に唾を吐いた。

「たとえ乱暴されたとしても、わたしはアンタのようなケジラミ野郎なんかに絶対屈服しない。それにあんたは恐怖なんかじゃない。震えて怯えているただの餓鬼よ!」

「テメー! クソアマ!」

 おれは怒りのあまり狂った。

 おれは震えてなんかいない。

 おれは怯えてなんかいない。

 おれは恐怖だ。

 おれは恐怖なんだ。

 気づいた時には加藤の顔はアンパンマンのように膨らんでいた。

 拳を見ると、加藤の折れた歯が突き刺さっていた。

「殴っている最中おれを噛みやがったな、クソアマめっ!」

 おれは加藤の顔めがけて唾を吐いた。

 なんの反応もなかった。

 死んだか。

「――おい高田。電話したのかよ」

 激情が去ったせいか、おれの声は冷たく落ち着いていた。

「――すいません。誰も出ません」

 高田の声には、おれに対する混じりけのない恐怖がこもっていた。

 そうだそれでいい。

 おれは恐怖だ。

 でもまだ足りない。

 おそらく生首の連中を潰したのは榊原誠次だ。

 生け贄に捧げたギリ野も、おそらく殺されている。

 加藤を殺した今、遅かれ早かれ警察も動き出すだろう。

 そして舞島も、おれをぶっ殺しにやってくる。

 世界中のすべてが敵に回ったみたいだ。

「――いいだろう」

 世界が敵に回るのなら、おれは世界中の人間を殺してやる。

 世界中の人間を怯えさせてやる。

 そのためには、おれは生まれ変わらないといけない。

 もっと大きな恐怖へと生まれ変わらないといけない。

 幸いにも、この灯台の部屋は夜の闇が充満していた。

 ここはズタ袋の中だ。

 暗闇で充ち満ちている。あとは生け贄を捧げれば、おれはまた生まれ変わることができる。

 灯台の壁には袋がおいてあった。

 袋の中には捕まえておいた生け贄が入っていることを思い出した。


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