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メドレー 晒し中  作者: 南国タヒチ
第一部 優しい歌
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ランニングハイ


 マシンガンをぶっ放せ


 少女とランニングをする約束をした後、おれはルンルン気分で家に帰った。

 シャワーを浴びて汗を流した後、朝飯を食うべく茶の間に入ると、弟の数馬が一人でドンブリ飯をかっ込んでいた。

「おっ。朝からドンブリ飯か。若いんだから、がんがん喰えよ」

 おれは機嫌良く、弟の背中を叩いた。

 数馬はドンブリを持ったまんまはふり返る。

「痛てえな兄貴。それに気持ち悪いだよ。朝から何ニヤニヤ笑っているんだよ」

 弟は眼鏡越しからガンをたれてきた。

 細いフレームの銀縁眼鏡。ムースでガチガチに固められたオールバックの髪。どこからどう見ても、立派なヤンキーだった。

 おれは生意気な弟からダテ眼鏡を奪った。レンズの下から、子鹿のようなつぶらな瞳が現れる。

 数馬がダテ眼鏡をかけている理由は、ヤンキーとしての格好つけとうよりも、死んだお袋から受け継いだ可愛らしいお目々を隠すためのものであった。

「生意気な口を叩く前に、その可愛いらしいお目々を何とかしてからにしろ」

 おれが追い打ちをかけると、数馬はガチで恥ずかしくなったのか、耳まで真っ赤に染まった。

「返せよ! クソ兄貴」

 数馬は、おれから眼鏡を奪い返そうとする。

 いつもならゴミ箱にでも叩き込んでやるところだが、今日は機嫌がいいので返してやった。

 台所から自分の分の飯と味噌汁を持ってくると、数馬の正面に座り、頂きますをしてから箸を取った。

 しばしの間、無言で飯を食う野郎二人。

 タクワンをボリボリと囓る音と、味噌汁をすする音だけが、茶の間に響いた。

 味噌汁を飲み終わったところで、ある事に気づいた。

「そういえば親父は?」

 トラブルメーカーの親父の姿が見えない。

 いたらいたでむかつくし鬱陶しいのだが、姿が見えないと外で何かやらかしてるんじゃないかと思って不安になる。

「なんかメロン食いたいから、三宅の婆さんのところに行って貰ってくる、とか言って出て行ったよ」

「貰ってくるって・・・・・・。どうせ盗んでくるんだから止めろよな、お前」

「止めて聞くような親父かよ。それに面倒くさい」

 数馬は箸を止めることなく言い返してきた。

 〝また騒ぎになったらどうすんだよ〟

 親父は果物が食いたくなると、幼なじみの三宅の婆さんの畑から、貰ってくると称して、よく果物を盗んでくる。

 それが原因で三宅の婆さんと壮絶な喧嘩になり、一時は裁判沙汰にもなりかけたが、周りの仲裁によってなんとか事なきを得た。

 普通ならこれで懲りるところなのだが、親父は懲りない。

 今も果物が食いたくなると畑から盗んでくる。

 親父に言わせると、三宅の婆さんの畑ではじめて種をまいたのはおれっちだから、タダで野菜を貰う権利があるそうなのだ。

 一方三宅の婆さんから言わせると、アレは襲われただけなので、果物をくれてやる義理はないと言う。

 どちらの言い分が正しいにしろ、犯ったのは間違いないようであった。

 玄関の方から、ガラガラと音がした。

 親父だ。

「おっ、帰ってきたのか穀潰し。仕事はしないけど飯だけはしっかり食うんだな」

 親父はいつも通りの、クソ親父だった。

 クソ親父の右手には戦利品であるメロンが、左手には不細工なゴリラの人形を抱え込んでいた。

「親父、なんだよ? そのゴリラの人形は」

「ああ、これか。メロン貰いに行ったら、三宅の婆さんと畑でバッタリ会ってなあ。三宅の婆さん、皺だらけの小汚い顔を崩してニヤニヤ笑ってお早うなんて言うからよう。なんかあったのか? て、聞いてやったんだよ。そしたら昨日パチンコで大勝ちしたって言うんだよ。それで珍しく茶でも飲んでけ、て勧めるからよう、大人しく飲んでやったら、パチンコのあまり玉で貰ってきたゴリ公の人形をくれたのよ」

「そんなもん貰ってきてどうすんだよ。邪魔になるだけじゃねえか」

 野郎所帯に人形は不要だった。

「それもそうだな」

 親父はゴリ公の面をマジマジ見つめながら呟いた。

「親父。ゴリラータンいらないのなら、おれにくれよ」

〝ゴリラータン?〟

 数馬が突然気色悪いことを言い出した。

「お前。ゴリラータンてなんだよ。オカマにでも目覚めたのか?」

「うるせえよ」

 数馬は生意気にも兄であるおれを睨みつけた。

「人形を欲しがるぐらいで、オカマだとか決めつけるなよな。ゲーセンにもあんだけUFOキャッチャーがあるんだ。男だって、人形ぐらい集めるよ」

「なんだよ、UFOキャッチャーって?」

 おれの言葉を聞くと、数馬はぽかーんと口を開けて驚いた。

「――今どきいるんだな、UFOキャッチャー知らない人間って。兄貴、少しはボクシング以外のことに興味持ってよ。マジで社会復帰できなくなるぞ」

 数馬は真顔で忠告した。

「――仕方ねえだろう。中卒なんだから、ちっとばかし物知らなくてもよう」

「いや、中卒とかそういう問題じゃ――」

 と数馬が言いかけたその時、庭に繋いでいる駄犬が吠え出したので喋るのを止めた。

「うるせえ馬鹿犬だな。兄貴、なんとかしろよ」

 数馬はウンザリした顔で言った。

「おい、一平。ロッキーに朝飯ちゃんとやったのか?」

 親父は、前庭で吠えまくる駄犬を見つめながら言った。

「やったよ。朝飯なら」

「なら、骨っ子だな。骨っ子食ってないから苛ついてるだよ、ロッキーは」

 親父は一人合点すると、ゴリラータンを抱えたまんま台所に消えていった。

 親父は、骨っ子とゴリラータンを抱え戻ってきた。

 親父は窓をあけて、駄犬に骨っ子を放り投げようとした。

 駄犬は骨っ子には目もくれず、親父にむかって飛びかかった。

 おれは一瞬、駄犬がトチ狂って親父に襲いかかったのかと思った。

 しかしそれは勘違いだった。

 駄犬が襲いかかったのは親父ではなく、親父が小脇に挟んでいるゴリラータンであった。

 駄犬は親父からゴリラータンを奪い取ると、ゴリラータンの首筋に噛みつきながら猛レイプしはじめた。

〝人形相手だとしても、もう少し優しく犯れよな〟

「――骨っ子じゃなくて、ゴリ公だったか・・・・・・。盲導犬ってのは難しいもんだな」

 親父は駄犬の浅ましい姿を見つめながら呟いた。

 おれは、ウチの家はダメだなと思った。


 親父と数馬は朝飯を食い終わると、親父はジムへ、数馬は学校へと出かけていった。

 一人残されたおれは暇なのでテレビをつけた。

 くだらない朝のワイドショーが画面に映し出される。

 滲んでグニャグニャになってしまったテレビキャスターは世間の不幸を語り始めた。

 覚醒剤中毒のロッカ――

 いつまでも不景気な世の中――

 すぐ自殺する少年と少女――

 ワイドショーのネタはつきない。

 コメンテーター気取りの元野球選手が、女子アナ相手に毒にも薬にもならねえ意見をしたり顔で語り始めた。

 メチャクチャウンザリしてきた。

 〝他人なんだからほっといてやれよ〟

 それが他人にできる唯一の優しさってもんだ。

 リポーターが、失踪した歌姫のプライバシーを暴こうとした所で、おれはテレビを消した。

 テレビの音が消失すると、蝉の鳴き声がうるさく聞こえるようになった。

 ――暇だ。

 〝点字の勉強でもするか〟

 暇だし。

 二階のおれの部屋には、お節介な弟が買ってきてくれた点字の本が置いてある。

 今のところ失明するかしないかは微妙なところであったが、たとえ失明を免れたとしても、おれの視力は今よりももっと悪くなることだけは確実であった。

 だから視力の悪化にそなえて、目がまだマシなうちに、点字の一つぐらい勉強しておくべきなんだろう。

 でも、おれは点字を覚えたくなかった。

 点字を一つ覚えるごとに、失明に近づくようで嫌だった。

 目をそむけたい現実が迫ってくるようでとても嫌だった。

 リングを降りたおれはなんて臆病なんだろう。

 ため息が出た。それと同時に屁も出る。

「ニートって奴だな、こりゃ」

 おれは己の現状に苦笑した。

 元日本チャピオンだろうが、元プロボクサーだろうが、今のおれは立派なニートだった。

 過去にどれほど苦労していようが、過去にどれほど偉業を成し遂げていようが、今がダメなら無意味だ。

 人間、過去にも未来に生きられないのだから。

 またしてもため息が漏れた。

 ダメだ。居間でゴロゴロしていると悪いことばかり考える。

 こんな時は――


 センズリしかない!


 ダークフォースに引きずり込まれそうになった時は、センズリをぶっこくにかぎる。

 本当はセンズリするよりも、ソープに行きたかったのだが、軽い財布が贅沢を許さなかった。

 贅沢はニートの敵なのだ。

 ソープへの未練を断ち切るべく、おれはさっさく頭の中でズリネタの選定を始めた。

 すぐさま朝の少女の顔が思い浮かんだ。

 ポン子が可愛く微笑んでいる顔を使えば、おれは三ヶ月はぶっこける自信があった。

「おれの大馬鹿野郎!」

 おれは居間で吠えた。

 庭で、自分のチンコを懸命に舐めていた駄犬が、ビックリしておれの方に顔を向ける。

 おれはといえば、己の浅ましい獣欲に恥じ入っていた。

 ポン子は、おれにズリネタを提供するために微笑んだわけじゃないだぞ。

 おれはポン子の代わりに、自分の部屋にあるズリネタライブラリーを使うことに決めた。

〝さてなんでブっこくか〟

 自分の部屋にあるズリネタライブラリーを思い返してみる。

 どれもこれもすり切れるぐらい使い込まれたネタばかりだった。

 〝どうもいまいちだな〟

 レンタルビデオ屋で何か借りてくるか?。

 と思ったが、最近のビデオ屋はDVDしか置いてないので、ビデオデッキしかない我が家では使えなかった。数馬の部屋にあるプレスてなんたらを使えばDVDを再生することが出来るみたいだが、弟の部屋でセンズリするのもなぁ。

 さすがのおれの気が引ける。

 こうなったら親父のネタを借りてみるか。

 親父はお気に入りのズリネタを、押し入れの奧に隠している。

 おれも数馬も知ってることだが、親父だけはバレてないと思い込んでいる。

 まあ野郎所帯なのだから、エロビデオなんか隠す必要などないんだが、親しき仲にも礼儀ありというからな。

 まあいいや。親父の部屋行ってエロビデオ漁ってこよう。

 おれは親父の部屋に侵入して、押し入れを漁った。

押し入れの奧からは、花柄がプリントされたメルヘンチックな小箱が出てきた。

 〝なんだこりゃあ〟

 まさか、母ちゃんの思い出の品とか、子供の可愛い写真とか、へその尾とか、入ってるんじゃねえだろうな。

 ――あの顔とあの性格で?

 そんなもん大事に取っておくだろうか?

 まあ、親父も人間だ。そういう所があるのかもしれない。

 覗いちゃ不味いかな。

 おれは良識に従おうとしたが、結局好奇心に負け、小箱を開けてみた。

 中から、たくさんのチケットが出てきた。

 はじめは文字が滲んでてよく見えなかった。がマジマジとよく見ると、エロ本の付録のソープの割引券だった。

「クソ親父! もう少しマシなモン入れとけ!」

 思わず怒鳴ってしまった。

「――まあ、その気持ちわからんでもないがな」

 入浴料半額はデカイ。おれは三枚ほど貰っておいた。

 さて半額券ゲットしたところで、ズリネタ探しを再開するか。

 おれは押し入れを再び漁り始めた。

 五分ほどして、ズリネタの山を発見した。

 おれはビデオのラベルに目を思い切り近づけて、題名を確認していった。

 親父のズリネタは、青カンものがやたらと多い。

 〝青カンになにか思い入れでもあるのか、うちの親父は〟

 そう言えば親父、よく畑の横っちょで蚊帳を張って女と犯ったとか、自慢してたっけ。

 千葉で蚊帳を張る優しさがある男は、おれだけだとも自慢していたような気がする。

 〝三宅の婆さんとも、蚊帳のなかで犯ったのか?〟

 ふと思ったが、想像すると気持ち悪くなったので思考するのを止め、ズリネタ選定作業を再開した。

 考え抜いたうえ、太陽と月と青カン、ぶっかけ五郎渋谷へ行く、人妻美貴の淫らな挑戦をチョイスして、居間に戻った。

 おれは居間のカーテンを閉めた。

 カーテンを開けっ放しでセンズリすると、何故か駄犬が吠えまくるので、おれはセンズリをするときは、必ずカーテンを閉めてやることにしているのだ。

 まあ紳士の嗜みってヤツだな。

 それに一回、庭から侵入してきた三宅の婆さんにセンズリしているところを見られたことがあるから、警戒するに越したことはない。

 しかしなんで田舎の婆さんは、庭から家に上がりこんでくるんだろうか?

 玄関の意味がねえじゃねーか。

 まあいいや。三宅の婆さんは。

 今はエロビデオだ。

 おれはテッシュを用意し、人妻美貴の淫らな挑戦をセットした。

 クレーン車らしき物がテレビ画面に映った。

 なんだこりゃ?

 エロビデオになんでクレーン車が映るんだよ。

 おれの息子は、乗り物好きの幼稚園児じゃないだから、こんなモン見せられてもちっとも嬉しくないぞ。

 頭に来てビデオを消そうと思った瞬間、おれはとんでもないことに気づいた。

 クレーン車は裸の女をぶらさがっていたのだ。

 目が悪くなってて気づかなかった。

 何をやろうと言うんだよ?

 カメラは、女の真下を映した。

 地面にはなんと、竹槍が突き刺さっていた。

 竹槍だとっ・・・・・・

 まさか・・・・・・

 INするつもりなのか!

 おれは思わずテレビに囓りついた。

 おれを挑発するかのように、人妻美貴は淫らに笑った。

 こいつやる気だ!

「馬鹿やめろって! お前は今、おれ以上に無謀なことに挑戦しようとしているんだぞ!」

 おれはテレビにむかって怒鳴ったが、鎖にぶら下げられた美貴はドンドン下に降ろされていく。

 股間と竹槍の先端がぶつかろうとした刹那、玄関のチャイムがなった。

 おれは条件反射で、素早くビデオの停止ボタンを押し、センズリポジションを解消した。

 いつもならセンズリタイムを邪魔されると機嫌が悪くなるのだが、今日だけはホッとした。

 女が串刺しになるところも、女が竹槍を飲み込むところも見たくはなかった。

 おれはズボンをはいて、玄関にむかった。

 玄関の扉を開けると、小太りの中年男が立っていた。

 金蠅の異名を誇るフリーライターの野崎国近だ。

異名の由来は、クソにたかる蠅のように、金になるクソにたかるのが上手いからであった。

「よう、チャンピオン。久し振りだな」

 野崎の息は酒くさかった。

 どこかで昼酒を呷ってきたらしい。

 いいご身分だ。

「元チャンピオンだよ。野崎さん」

 おれは不快さを抑えながら言った。

 野崎との付き合いは長い。

 試合のチケットを捌くのも何度も手伝ってもらった。

 ボクサー業界の裏事情や対戦相手の情報を教えてくれることも多かった。

 だからと言って野崎が好きかというと、野崎には悪いが好きになれない。

 口は悪いし、酒癖はもっと悪いし、その上人の急所を抉るような質問は大好きときている。

 多少の利点を帳消しにするには十分過ぎるほどの悪徳の持ち主であった。

「そうだったね、沢村さん。高山が存在感がないから、つい沢村さんのことをチャンピオンて呼んじまったよ」

「きよしが存在感がないって、どういう意味だよ」

 おれの声は怒りのあまり低くなっていた。

「沢村さん。おれもあんたほどじゃないが、ボクシング業界で長くメシを喰っているんだ。輝いてる人間と、腐ってる人間の見分けぐらい目をつぶってもできるさ」

「きよしが腐ってるとでも言うのか」

 握りしめた拳が怒りで震えていた。

 きよしのクソ野郎なんて思い出しただけでもむかつくが、おれのボクシング人生にトドメを刺した男だ。

 強くあって欲しかった。

「ああ、腐ってるよ。あの男は。あんたという目標がなくなって、弱くなっちまったよ。高山きよしという男は、勝って弱くなる典型だな」

 野崎は薄い唇を曲げて笑った。

 嫌な野郎だ。

「それにくらべるとあんたはすごい。勝っても強くなるし、負けても歯を食いしばって、強くなろうとする。あんたみたいに才能のない人間が日本チャンピオンになれたのも、ボクシングに対するキチガイじみた情熱のお陰だな」

「褒めてるのか貶してるのか、どっちなんだかハッキリしてくれよ、野崎さん」

「これでも褒めてるつもりだよ、チャンピオン」

 とてもそうには聞こえないが。

「なあ、チャンピオン。世間話はこれぐらいにして、本題に移ろうか?」

「本題って、自伝の件か?」

 おれが引退をしたとき、野崎は自伝の出版を持ちかけてきた。おれはその気はなかったので断った。

「そう自伝の件だ。あんたはただ頷いてくれるだけでいい。後はおれが書く。おれの筆の力はあんたも知っているだろう?」

 知ってるよ。おれは無愛想に答えた。

 野崎の言うとおり、おれは野崎の筆の力をよく知っている。

野崎国近という虫の好かない野郎が生き残れるのは、ゴーストライターとしての腕が超一流だからだ。

 実際野崎の書いた自伝がきっかけで再ブレイクした芸能人、スポーツ選手は実に多い。

 ――ハイと返事するのがお利口な人間のやることなんだろう。

「なら頷いてくれるのか?」

 野崎は、おれに返事を求めた

「いや、悪いが諦めてくれ」

 でもおれは馬鹿だから断っちまう。

「意地張るなよ、チャンピオン。もう大人だからさ。好き嫌いで仕事選ぶなんて餓鬼のすることだぞ」

 野崎はおれの目の色をのぞき込みながら言った。

 そう。たしかに野崎の言うとおりだ。

 人間メシを喰わなきゃ生きていけない。

「それに、その目。おシャカになるだろう。金がなくて目が見えないなんて、みじめなもんだぜ、チャンピオン」

「なんで知っているんだよ。てっ、商売だからか」 

 ハエがたかってないクソを見つけるように、野崎は、まだ人がたかってないクソを見つけるのが上手かった。

「そう商売だからだ、チャンピオン。あんたの失明を絡めて書けば、お涙頂戴好きの連中が喜ぶさ。まあ、気が変わったら電話をくれよ。おれの携帯番号知ってるんだろ?」

「残念ながら覚えているよ」

「よかった。それじゃあ、今日はお暇するよ。本命はあんたじゃな

いから、あまり時間がさけないのでね」

 野崎は去っていた。



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