ⅩⅩⅧ.彼女の事情
「そっからは、真広と一緒に保健室にいて、少しして病院に来て、安定剤打たれて寝てた。……これでいい?」
「あ、ああ」
「おまえ…そのときの腕の傷、大丈夫か?」
「痛いけど…まぁ大丈夫」
「無理すんなよ」
「大丈夫だって。少ししたらすぐ治るって」
うわー…ピンク色の空気が見える。
これ絶対錯覚じゃねぇって…、ついでに桃を反対にしたマークも見えるような気がする。
陸は完璧放心してるし。
にしても、海月はすげぇな。
今時友達を守って、自分が身代わりなんてないだろう。
かなり尊敬する。
逆に問題は柚兎左だ。
恩を仇で返すような奴ではなかった。
俺が知る限りの話だが。
中でも海月は特に仲が良かったし、助け合うことが多かった。
夏休みの宿題は半分にして片方が半分を解き、コピーして相手に渡したり、テスト勉強も教え合ったり、弁当を分けてやったり。
言うと切りがねぇくらいに、何でもしていた。
それが、守ってもらったくせに、殴り屋に引き渡すとは、正直信じられなかった。
海月の傷が、嘘じゃねぇと物語っているが、信じたくない自分がどこかにいる。
やっぱ昨日のやつがいけなかったのか?
『私は私のままでいられた』の言葉の意味や、『 』と何て言ったのかよく聞こえなかった言葉、最後の『死にたい』という言葉。
柚兎左は相当追いつめられていたのだろう。
あんな緊迫した空気の中で、冗談なんて言えるわけがない。
つまり本気。
マジで死にたいと思ったのだろう。
死にたいという思考に至るまでの要因なんて、思いつかない。
そういう事柄があったのか、単にあいつの精神が弱いのか、思春期特有の思考か。
勝手に人のことを決めつけちゃ行けねぇのは重々承知だが、あいつの精神が弱いのもあるし、何かしらの事柄があったのだと俺は思う。
その事柄は、当たり前の如く見当もつかねぇが。
「晋一」
「……あ?」
「あ?じゃねぇよ!どんだけ俺を無視する気だ」
「悪ィ。考え事してた」
「へー…。帰るぜ?」
「もう帰らねーと母さんに怒られるぜー?」
「ああ、そうだな」
「急ぎなよー。五時過ぎてるんだから」
海月が携帯を取り出して、こちらに向ける。
こんなとこで携帯を出していいのか?
ダメなんじゃね?
とりあえず、ディスプレイを見ると、待ち受けはプリクラ。
ずっと前に五人で撮ったやつだ。
んー…若いな。俺ら。
じゃなくて!
時刻は五時十三分。
…………マジで?
今日はいつも通りに帰らねぇと、昨日と同じような傷が増す。
せっかく痛みが引いたというのに!
「俺は帰る!じゃあな、海月!ありがとよ!」
「じゃ、俺も。んじゃーな、また明日」
「お、おい!待てって!あばよ、また今度」
「うん、またね!…………………………はぁ……もうヤダな……」
急いで病室を出た俺たちには、海月の呟きは聞こえることなく消えた。
「はぁー…なっっがい一日だったな……。疲れた」
何とか殴られることを未然に防いだ俺は、風呂に入り予め冷房をつけて冷やした部屋に来た。
ひんやりとした空気が心地よい。
部屋に入ってすぐにベッドにダイブした。
あー楽だな。
一度にいろんなことがあって、いつも以上に疲れた。
にしても、柚兎左があんな風になる原因は一体何なのだろうか。
やっぱケガと関係あるのか?
……わかんねぇ。
海月との友情も壊れて、クラスから孤立して。
死にたいとか言ってたし、自殺行為でもしたのか?
……分かんねぇ……。
今日はもういいか。
明日も学校あるし、今日はもう寝るか。
……明日。
もう悲劇が起きなければいいんだが。
サブタイトルが思いつきません!!
思いついたら付け加えときます。