ⅩⅩ.もう一つの恋
今回は真広目線!!
私にしては、ちょっと長いです(^^;;
「ったく…保健の先公いねぇのかよ」
保健の先公なら、常に保健室いろよ。
ぶつぶつ言いながらも、居なかったことに感謝する。
あんな先公と話してたくねぇからな。
海月をベッドに寝かせて、羽織らせていた学ランを取り、代わりに毛布をかける。
海月は相変わらず気を失っていた。
何かすげえぐったりしていて、病人みたいだった。
「……海月」
そういえば、海月のこんな姿は初めて見た気がした。
いつも俺には偉そうに命令する奴が弱々しく寝息をたてている。
普段強い奴に限って、弱い一面を見ると余計に心配になる。
全く…調子狂うな……。
「ったく……ん?」
海月を見ると、手首の方に何か痣のようなものが見えた。
試しに袖をめくってみる。
「んだよ……これ」
腕は、痣や切り傷、擦り傷やらで酷かった。
毛布もめくると、足の方にも同じようなものができていた。
殴られたのか?コイツ
自分が喧嘩したときに作る傷と同じようなもんだった。
切り傷とかは消毒しといた方がいいよな。
悪化すると傷残るし。
先公もいねぇから、薬箱を勝手にいじらせてもらおう。
別に罪にはならねぇだろう。
適当に棚をいじると、すぐにそれらしいものが見つかった。
「これか?」
ラベルに書いてあるし、消毒液はこれで、ガーゼはこれか。
……今思ったが、一人でぶつぶつ話すのって人から見たらキモいよな。
もう独り言はやめるか。
薬をそろえて、海月の方に戻る。
「ちと荒っぽいけど、我慢しろよ」
今のは独り言じゃねぇ。
話しかけたんだ。
ガーゼを消毒液で湿らせて、傷口に当てる。
血が出てるところは少ねぇが、痣が多い。
腕と足の傷は消毒して、絆創膏を貼っておく。
試しにセーラー服をめくってみると、そこにも痣ができていた。
痣は自然に治すものだから、手の施しようがねぇ。
てか、いつになったら先公は来んだよ。
反対の腕にもガーゼを当てて消毒する。
「ん…………」
「あ、起きた」
海月はうっすらと目を開けて、俺の方を見る。
焦点が全くあってねぇや。
目を覚まして安心したのもあるが、同時に傷だらけの理由がとても気になった。
「……ぃ」
「あ?何だよ」
「痛っ……」
「悪ィ」
普通に消毒してたつもりだったが、染みたらしい。
野郎と違って、女の肌は繊細なんだな。
丁寧に扱えってか?面倒くせぇ…。
「ど……こ?」
やっとはっきりしてきたらしい。
でも、やっぱりすげぇ疲れたような顔をしていた。
「保健室。おまえがぶっ倒れたから」
「そ、なんだ……。あんたが?」
「運んだのか?そうだ。ちったぁダイエットしやがれ」
別に重すぎってわけでもないが、軽くもない。
身長もあるし仕方がないだろう。
ちょっとした嫌味だ。
「あり…が、とう」
「っ!?」
何つった?今……
ありがとう?
貶したのに礼が先かよ…。
「明日は嵐だな」
「それじゃ、学校……行けないね」
「サボれるからいんじゃね?」
「ふふっ……。あんたらしい」
何なんだよ…こいつ……。
こんな可愛い素直な奴だったか?
いやいやいや!
凶暴で気が強くて最悪な奴だ!
可愛さの欠片もねぇ……はず。
「真っ赤」
「るせぇっ!」
「何が赤いのかな?」
「こいつ……!!直接消毒液ぶっかけるぞ」
「……手当してくれてんだ」
「見れば分かるだろーが」
てか、さっき痛いって言ってただろーが。
こいつ、アホか?
海月はうっすらと笑みを浮かべた。
「意外」
「喧嘩やったら怪我すっから、一応手当くらいできんだよ。悪かったな意外で」
やべえ……。
すんげぇドキドキする…。
でも、今のその笑顔は病人みたいで、どこか悲しい気もした。
「てか、何でこんな怪我したんだ?」
「っ……!それ…は……」
海月は目を見開いて、震え出す。
段々、息も荒くなって怯えているような顔になる。
「はぁ……はぁ……やだっ…」
「おい、海月」
「いやっ!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!!」
突然、頭を抱えてうずくまりだした。
手を伸ばせば弾かれるし、でかい音を立てれば、枕を投げてくる。
「海月!」
「ごめんなさい……ごめんなさい!柚兎左!柚兎左ぁ!」
柚兎左?
柚兎左って江川柚兎左だよな?
珍しい名前だし、あの柚兎左しかあり得ねぇか。
じゃあ柚兎左がやったのか?
「海月!何もねぇよ!落ち着け」
「柚兎左!戻ってきてよ……やだ!一人にしないで!」
“戻ってきてよ”?
と言うことは柚兎左じゃねーのか?
あー…くそっ!
訳わかんねぇ!
「海月」
「ごめんなさい…!!ごめんなさいごめんなさい……」
「ったく……」
何とかして落ち着かせようとしてみるが、怯える一方。
…………
「ごめんなさ……」
気付けば俺は海月を抱きしめていた。
あー……俺も晋一のこと言えねぇな。
こいつ、氷並に冷たいし。
「やだ!離して……!誰か助けて!いや…だ……!はぁ……はぁ……」
びっくりしてからかさらに騒ぎ、抵抗していた海月も暫くすると大人しくなった。
「ったく…何なんだよ……おめーは」
「……真広?」
落ち着いたから、今の状況を把握したようだ。
「ねぇ……」
「んだよ…」
「何って……もう離して良いよ?落ち着いたから」
本当、こいつはアホだ。
俺が誰にでもこうすると思ってんのか?
「察しろ…アホ女」
「アホじゃないし……バカ真広」
「おまえより成績良いっつーの」
「ちゃんと言いなさいよ……」
こいつ…わざとか?
それとも鈍いのか?
心臓の音が直接耳から聞こえる。
どんだけドキドキしてんだよ。
こんなに緊張すんの、初めてだな。
…………何で黙ってんだこいつ…。
言えって?
自棄になれって?腹を括れって?
あ――――――っ!
「好きだ…バカ」
「っ……!ぅ、五月蠅い!下僕のくせにっ」
「おめーが言えっつったんだろーが!下僕じゃねーし!」
あーっ!
心臓パンクするっつーの!
てか俺ぜってー顔赤い!
「ぉ、おめーは……どうなんだよ!」
「あ、あたしは!察しなさい!」
「はぁ!?」
何かビビっちまって、海月を離す。
うわっ、こいつリンゴ並に真っ赤だな。
目も涙目だし、若干震えてやがるし。
涙目っていうか泣いてる!?
俺何か悪いことしたか?
「俺が言ったんだから、言えよ!!」
「っ!」
何か滅茶苦茶震えてやがる!
自棄になりすぎた……。
「悪ィ……でけぇ声出して」
「ごめんなさい」
「また“ごめんなさい”か…。何があったかは聞かねーけど、病院行けよな。怪我とかひでーし、精神的にもあれだろ?」
「うん。……ごめんなさい。その……私、怖かったから……残っちゃって……。だから」
「いい。話せるときに話せ」
ポロポロ溢れてくる涙を親指の腹ですくい取る。
どんだけ怖かったんだよ。
「ありがとう」
海月は俺の手に手を重ねる。
また涙が一筋頬を伝う。
「で?どうなんだよ」
「え゛…」
俺も精神的にキツいっての。
告白なんかしたことねーから、この微妙な気まずい空気に耐えられねぇ。
「……ょ」
「は?」
「だから……その……。…す……き……私も…」
超がつくほど小せー声だったが、俺には聞こえた。
ちきしょー!むちゃくちゃ照れるじゃねーかよ!
てかこの後どうすんだよ!
と、動揺しながらも何とか言葉を発する。
「っ!ふんっ…最初から言え……海月」
「ぅ、るさい!……真広のばか!」
こいつ……後ろ向きやがった!
その間に、火照りを鎮める。
アイツの気持ちも確認できたから、緊張もすぐに解けた。
さて……
「海月」
「何よ…」
「こっち向けって」
「イヤ」
「…………」
どうやったら振り向くかな。
髪、きれいだな……。
何となく解いてみると、サラサラとしていて、シャンプーの良い香りがした。
「ちょっ!髪解くな!バっ……」
髪解いただけで、簡単に俺の方を向いた。
思惑通り、振り向いた海月の唇に、俺のそれを重ねた。
海月はびっくりしたようだが、抵抗も何もせずに俺の肩に手を添えた。
……まだ震えてるし。
長さとかよく分かんねーけど、俺の気が済むまでやってやる。
実を言うと、一年の頃から海月に想いを寄せていた。
てっきり晋一が好きなのかと思っていたから、告らなかった。
気持ちがすげぇ高ぶる。
今、この時が幸せっていうんだろう。
ずっと、続くといいんだけどな……。
やっぱ現実はそう甘くないようだ。
「小野君、桜井さん」
『っ!?』
お互いがお互いを突き放して、声がした方を見ると、やっとのご登場の保健医、矢部秋穂だった。
あの役立たず、今頃登場かよ!
肝心なときにいない上に、何てタイミングの悪い!
「小野君、何やってるのかしら〜?」
「…別に」
ドスの利いた声で言い返す。
恨みの念も込めて、矢部をにらむが、ビビる様子もなく変わらずに会話を続ける。
「うふふ……。そういうこと学校でやっちゃダメよぉ〜」
「うっせーよ!!何しに来たんだよ」
「怪我の手当とその他諸々〜。小野君、途中で止めちゃうんだものぉ」
そういえば、消毒の途中だったな。
って!何で知ってんだよ!
「い、いつから見てた!?」
「桜井さんをベッドに寝かせて『……海月』って囁くところから…」
「最初からじゃねぇかよ!」
「先生も空気読んだのよぉ〜。さすがにキスは教師として見逃せないから嫌々ながら」
「嫌なら出てくんな!」
「桜井さん、大丈夫?」
「無視すんじゃねぇ!」
いきなり無視とは何だよ!この先公。
やっぱ苦手だ。くたばれ。
後ろにいた海月の方を見ると、また震えてやがる。
「この匂い……。やだ……」
匂い?
すげー小さい声で言ったけど、聞き間違いじゃないはず。
匂いっつっても、香水と薬品の匂いしかしねーと思うけど。
「どうしたの?怪我酷いし」
「いやっ!!来ないで!ごめんなさい……」
「桜井さん?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
今度は何だ?
先公にかなり怯えてるように見えるが……。
「海月……」
「桜井さん……失礼するわね」
矢部を見ると、いつの間にか海月の後方に回っていた。
何かの薬品とハンカチを持っていて、ハンカチの方を海月の鼻と口を覆うように当てる。
「んぐっ!?…………」
数秒すると、海月は気を失った。
「今のって……」
「クロロフォルムよぉ〜。桜井さんは後で病院連れてくわぁ。小野君は教室に戻りなさい」
「怖ェ先公だな。チッ…わーったよ……」
「心配しなくても救急車呼ぶから大丈夫よ。彼氏クン」
「るせー……」
海月をもう一度見てから、保健室を出る。
…やっぱ、女は怖ェし苦手だ。
てか、あの女のような奴だけが苦手だ。
そういえば……さっきの矢部に見られたよな?
「……はぁ…………」
何か疲れた。精神的に
俺は重い足取りで教室へと向かった。
うん、自分で書いたのに何故かドキドキしました…(*´д`*)
読めば分かると思いますが、これは前話の同時刻の保健室にて。
回想みたいなものです♪
とにかく、誰かをくっつけたかった……!!