ⅩⅧ.孤立
春休みがこんなに苦痛とは……
一昨日カラオケ行ったけど、つまらなかったから暇つぶしに書いた話です。
書いてて思った。
自分で考えたキャラクターなのに性格が分からなくなってきたなぁ……
「晋一…昨日は本当悪かった」
「電話のことか?気にすんな……」
「気にすんなっつっても、柚兎左二号になってんぞ…」
昨日の母さ……母上からの鉄槌。
中学生の息子に劣らぬ力はどっから出てくるのだろう。
壁に穴開いたのと、階段から滑り落ちた怪我で済んだのは、恐らく不幸中の幸いと言うものだろう。
ちなみに今の俺は、顔にガーゼ、手首や見えないけど脛や足首に湿布、指に絆創膏、膝から下と腕に痣、その他細かい傷が数カ所といったところだ。
正直物凄く痛い。
階段とか一分も掛からないはずが、五分。
亀と競争したら、亀の方が速いかもな。
いや、言い過ぎか。
「……お前のところの母上、すげーな」
「だろ。父さんに聞いたら、空手の県大会で準優勝したらしい」
「…よく生きてたな。賞状でも送ってやろうか?」
「ああ……。自分でもすごいと思う」
「ちなみに親父は何かやってたのか?」
「書道とそろばん。あとピアノを少し」
「地味だな。てか、遺伝してんな」
「そうか?」
「字とか計算力とか。音楽は、歌は下手だけど楽器は上手いよな」
「歌は余計……」
とんとん拍子で話していたから気付かなかった。
教室が静か。
みんな硬直していた。
暴れていた奴は、殴ろうとしてるところでぴたっと止まっていた。
笑っていた奴は、大口開けたまま硬直。
何だ、このビデオを一時停止した感じの光景は。
どんだけだよ。
そしてさらに、みんなの視線はある一点に焦点を合わせていた。
真広と目を合わせてから、みんなの視線を辿る。
そこは教室の入り口。
そこにいたのは…
「海月……」
「てめぇ…ボロボロじゃねぇか!!」
土やアスファルトの黒で、制服は汚れていた。
そんな海月に真広が直ぐ様駆け寄り、汚れた制服の土を払っていく。
海月は俯いたまま、ずっと何かを呟いていた。
「……さい…」
それに気付いた真広は、舌打ちをして肩を掴んで揺さぶりながら言う。
「はぁ!?もっとでけぇ声で言えよ!」
「ごめんなさい」
「何が?」
「ごめんなさい……ごめ…ん、なさぃ」
「おい!」
弱々しく立っていたが、真広に寄り掛かるように倒れた。
さすがに、じっとなんかしては、いられないだろう。
固まっていた奴らは、海月の元へ駆けだした。
「海月っ!!」
「桜井!」
「ちょっ…大丈夫!?」
「みっちゃん?しっかりしてよ!!」
どうやら海月は気を失っているらしい。
俺は、足が痛くて少し遅れたせいで、海月の姿を確認できるところはクラスメートたちで埋まっていて、よく分からない。
__ガラッ
みんなが集まっているところとは逆の扉が開く。
入ってきたのは、柚兎左。
みんなの方は見向きもせず、真顔のまま自分の席へ一直線。
無言で席に座り、普通に鞄の中の荷物を机にしまい、席を立つ。
その間、誰も話さず音を立てずに柚兎左を見ていた。
ほとんどの奴が軽蔑な視線で。
ロッカーに鞄をしまい終わると、また席に座り頬杖をついてぼんやりと外を眺める。
「おい、柚兎左。海月がこんなんなのに心配しないのかよ?おめーら親友だろ?」
「そうだよ!!」
渡辺と中澤が柚兎左に向かって強く言う。
柚兎左は表情を変えずに、席を立ち、二人の方を向く。
「あんたらが屯するから見えないんだけど。見てほしいんなら退け、野次馬共」
冷たく言い放つ。
柚兎左の目は、瞳孔開き気味で下半分は白目で、プレッシャーを放っている。
中澤はキレて言い返す。
「野次馬って何よ!海月がボロボロだから心配してるんだよ?心配しちゃいけないわけ?」
「心配して何になるの?心配するんだったら、何かやりなさいよ。見てるだけで何もしない奴のことを野次馬って言んだよ!!」
「でもっ」
「じゃあ何?ただ海月のボロボロな醜い姿を見てるってわけ?楽しんでるわけ?逆の立場になれよ。恥ずかしい姿を見られたいのか?そう思う奴(変態)名乗り出ろ!」
柚兎左の言ってることは、俺としては正論だと思う。
きっとみんなもそう思ったのだろう。
黙ったまま下を向いている。
中澤も、涙を浮かべて黙っている。
一人の女子が言った。
「あたしは、みんなが心配してくれると心が軽くなるよ!」
「へー。じゃあ、すんごい恥ずかしい姿でも心配してくれるなら恥ずかしくないんだ」
「そ、そうよ!」
「へー……」
柚兎左は、その女子に手招きして自分の方へ来させる。
「目を瞑って、みんなの方向いて。痛いことはしない」
「……」
女子は疑いながらも、教卓の方を向き目を閉じる。
すると、柚兎左は袖から何かを落として、それを受け止める。
__カチカチカチッ
__ビリッ
『きゃーっ!?』
「やだっ!見ないで!」
「恥ずかしくないんでしょ?ほら、みんな心配してくれてるよ?」
柚兎左が持っていたのはカッターで、背後からセーラー服を切り裂いた。
セーラー服だけならいいものの、スカートまで一緒に縦に一直線に裂いた。
「わぁぁぁぁっ…やめてよっ……やだぁぁぁ」
女子は泣き叫んだ。
柚兎左は勝ち誇ったような顔をして言う。
「ほら。恥ずかしいでしょ?海月も同じようなもんよ。分かったらそんなこと言うなよ」
「柚兎左!ここまですることないじゃない!」
「そうよ!汐里が可哀想よ!」
女子からの沢山のブーイング。
柚兎左は女子を見てから舌打ちして、ため息をこぼす。
「だから言ってんだろ?可哀想ならジャージ持ってくるとか男共の学ランはぎ取って着せてやれよ!!そんな対処も出来ねーのか?…ああ、小野君は分かってんだ」
言葉からして、海月に学ランを着せたのだろう。
女子たちは、男子から学ランを借りて羽織らせて、トイレへ移動した。
残ったのは数人の女子と男子。
「海月、保健室連れてく」
そう言って立ち上がり、海月をお姫様抱っこして廊下に出た。
「おはよー」
それとすれ違って、今頃登場した先公。
いつの間にか着席している柚兎左。
さっきと変わらぬ、興味ないというような態度で外を見ていた。
学級委員が、先生に近寄って状況を報告する。
先公のアホみたいな顔が、だんだん険しくなり、頷きながら目だけで柚兎左の方をみる。
一通り報告し終えたようで、先公は柚兎左の方へ向く。
「江川。ちょっと、職員室来な」
「……っ」
舌打ちしてから席を立ち、別に顔色を変えることなく歩き始める。
普通は先生のあとを着いて行って職員室に行く。
だが、柚兎左は学級委員にどうするか指示している先生を置いていき、職員室に向かった。
先生は焦って、早口で指示すると柚兎左の後を追った。
あー…宿題が終わらない。
ゲーム我慢してるのになぁ……(´ヘ`;)