Ⅹ.本当の理由
テスト終わった(^-^)
てか、熱が出て今日のテスト受けられなかったよ!
私のバカやろー!
あ、柚兎左目線です(´∀`*)
部屋の中。
両親の叫びが木霊する。
今日は、学校に行くつもりだったのに母親のせいで行けなくなってしまった。
朝早く起きた私は、ちょっと早いけれどたまにはいいかと思って、ダイニングに下りた。
朝っぱらから、両親は口喧嘩をしていた。
理由はいつも単純なこと。
朝帰りとか、経済的なこととか、浮気の疑惑とか、…私のこととか……。
「だいたい、あなたが悪いのよ!」
「お前だって悪いだろう!稼いでやってんだ!口答えするな!」
「半分は私が稼いだ金よ!あなたにどうこう言われる筋合いはないわ!」
「所詮、女という身分を利用して稼いだ金だろう?汚らわしい」
今日は、お金のことでの喧嘩らしい。
発端は知らないけど。
「おはよう」
「おはよう。あんたはお気楽でいいわね」
「柚兎左は何も悪くないだろう。何を当たってんだ」
「当たってなんかいないわよ!ったく…」
母さんの目は、空気を読みなさいとでも言っているようだった。
それに加え、私をゴミのように見ている軽蔑の視線に、私は涙が出そうになる。
何で朝からこんな気分になるのかな。
両親の喧嘩の邪魔をしないように、私は学校に行く準備をする。
靴下とか鍵とかいろいろ身につけて、玄関の方に行こうとしたとき、両親の喧嘩は、かつて類を見ないほどに悪化していた。
前は口喧嘩だけだったのに、今は物を投げ合っている。
お皿とか鏡とかリモコンとか時計とか花瓶とか…。
あらゆる物をお互い投げ合っている。
勿論、子供じゃなく大人が投げているから、物凄い力が加わっている。
投げられた物は、壁や床にたたきつけられ、派手に壊れた。
さすがの私もこれは無視できない…。
学校から帰ったら、靴を履かないと歩けない状態になるまでに、物は破壊されるだろう。
背負っていた鞄を玄関に置いて、両親の方へ走る。
「母さんも父さんも止めてって!やりすぎだっての!」
「五月蠅いわね!クソ餓鬼!」
「柚兎左、下がってなさい。邪魔だ!」
「ちょっと!やりすぎって言って…」
「黙れ!」
そう言って、母親は皿を投げてきた。
柱に隠れて何とか当たらずにすんだ。
皿は、私の隣で叩き割られる。
破片が細かく散らばった。
「もう我慢ならん!ふざけるのも大概にしろ!!」
「ふざけてなんかないわよ!」
父さんは、近くにあった花瓶を母さんに向かって投げる。
それと同時に、母さんもあろうことに包丁を投げた。
二つの物は互いに相殺し、包丁は床に突き刺さり、花瓶は真っ二つに割れた。
その割れた破片は少し大きく、床に落ちて衝撃が伝わったので、さらに細かく割れる。
私は、はーとため息をついてケガをしなかったことに安心した。
とりあえず、私は二人の間に入り、精一杯の大声で言った。
「父さんも母さんも何してんの!?危ないじゃん!」
「五月蠅いわね…」
「柚兎左には関係のないことだ」
二人に軽くあしらわれるけど、そんなもんでは私は折れない。
「関係あるって!毎日毎日喧嘩ばっかでうんざりなんだよ!」
「親にそんな口を利くな!」
そう言って、母さんは思いっきり私の頬を叩いた。
あまりの勢いに私はバランスを崩した。
ガラスの破片の散らばる床に―――。
「きゃぁっ!」
案の定、破片は肌に突き刺さる。
特に、大きな破片が目の近くに刺さる。
大声を出してもこの現状は変わらない。
とりあえず、歯をくいしばって痛みに耐え、起き上がる。
そして、母さんを恨みの念を込めて思いっきり睨む。
「な…何よ…。バランスを崩したあんたが悪いんでしょう!」
「柚兎左…、傷の消毒を」
「父親ぶらないで。隣に病院あるんだから、そこで手当してもらう」
「藤本さんのところは、まだ開いていないだろう。迷惑をかけてはいけない」
迷惑をかけてはいけない
その言葉は、私を怒りに導いた。
ため込んでいた感情が溢れ出すような感じがした。
もうケガしてんだから、いくら傷が増えようと大したことない。
思いっきり息を吸い込んで、思ったことを怒りのまま言う。
「迷惑をかけてはいけないだって?じゃあ、私には迷惑かけていいわけ?毎度毎度でけぇ声で喧嘩しやがってよ!耳に悪い上、近所の奴らの視線が痛いんだよ!気付いてねぇと思うけど、あんたらの声、丸聞こえだかんな!」
「何!?」
父さんが、目を見開いて驚愕しているのが分かる。
こんな一言じゃ、私の怒りは治まらない。
そのまま続けて言った。
「あんたらさ、会社のお偉いさんとか近所とかで仲のいい夫婦気取って、媚び売ってるけど、みんな気づいてんだかんな!無理してるって!中三にもなって、柚兎左ちゃんは偉いわねぇとか言われて見ろ!どんだけ恥ずかしいか!」
「黙りなさい!親に何て口利いてんの!誰のお陰で生きてこられたか分かってるわけ!?」
「まともに世話してもらった覚えはない。何母親気取ってんの?」
もう壊れようが、殺されようがどうだっていい。
言いたいことがいえれば、それだけでいい。
「このクソ餓鬼!」
再び平手打ちをされる。
床に倒れ、傷が増える。
全く…、折角の可愛い顔が台無しだっての。
「もういい。今日は学校休む。藤本さんのところ行ってくる」
「あっ!ちょっと待ちなさい!」
母さんを無視して、私は立ち上がり、フラフラと不安定な足取りで玄関へ行った。
頬や目、脹脛に太もも、手のひらに手首に腕、肌の出ていた全てに破片が傷を作った。
足の裏も、靴下だったから破片が食い込んで、私が歩いた後を赤く表している。
全身傷だらけ。
体中痛い。
何で歩けるんだろう。
何で私がこんな目に遭うんだろう。
何で私は生きてるんだろう。
この姿を友達がみたら、どういう反応をするかな。
海月は心配してくれるかな。
私に本当の友達っているのかな。
上っ面の友達しかいない気がする。
色々なことが思い浮かぶけど、その前に、どう説明しようかな。
この傷……
私は、ローファーを履いて、外に出る。
こんな醜い姿を見られたくないからさっさと行きたいけど、痛くて走れない。
とにかく、隣の藤本さんのところで手当してもらおうと、動かない足を無理やり動かした。
本当に私テストどうなんのかな?
期末だぞ…、国語と数学と理科だぞ…、重要科目だぞ…(泣)