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【百合】人とはこの世で最も醜悪な獣の総称である。  作者: 中毒のRemi
第一章 出会い編

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第22話 姉妹

「やっほ〜茜っち。凄い笑顔だね、何か良いことあった?」

「ははっ、まさか。今日は生きてきた中で一番最悪な日…………色々と一周したせいでハイになってるだけです」

「そうなんだ〜、もしかして()()でもしちゃった感じ?」


 これはアレだ。

 弦巻は私が月宮さんに恋をしている事に、私よりも早く気づいていた――という反応なのだろう。

 

 ウザくて仕方ない。

 が、今はいい。

 

「……失恋。そうですね、これは失恋なのかもしれません」


 受付を機械的に済ませ、指定されたレーンのベンチに深く腰を下ろした。


「それは私としおっちが、そういう関係にでも見えたから出た答え?」

「逆に聞くんですけど、それ以外に何があるっていうんですか? ……それにたとえ違ったとしても、あれだけの事をやられたら、私の気力も無くなっちゃいますよ」

「弱いね〜」

「えぇ、メンタルが弱いんです。だから不登校なんてやっていたので」

「なら一つだけ、茜っちの気が楽になるような事を教えてあげるよ」

「なんでも好き放題言ってください。特に月宮さんの私に対する陰口とか大歓迎です」


 2人ともVtuberである程度深い関係があるのなら、弦巻は私や他のクラスメイト達以上に、月宮さんと話す機会は多いだろう。

 ならば、次点でここ最近関わりが多い私の悪口とか、裏で言ってる可能性が無いとは言い切れない。

 是非ともその裏の話とか全部私にぶつけて、心を折りにきて欲しい。


 そう思っていたのだが……


「私としおっちは()()だよ。……姉妹ならキスくらいノーカンでしょ?」


 彼女の言葉に思考が数秒停止する。

 遅れて、乾いた笑いがこみ上げた。

 

「くだらない嘘すぎて、もう一度トイレで吐くか迷いましたよ――時間の無駄なので帰っていいですか?」


 まず苗字が違うというのに、どこに姉妹要素があるというのか。

 考えるだけ無駄すぎて嫌になる。

 

「やだな〜。自分の欲しかった答えじゃないからって怒らないでよー!」


 弦巻は立ち上がり、おもちゃを選ぶような手つきで重い球を拾い上げた。

 助走もつけず無造作に放られた球が、滑らかな放物線を描いてレーンを駆ける。


 十本のピンが暴力的な音を立てて弾け飛び、スクリーンに『STRIKE』の文字が躍った。

 

「でもしおっちが小さい頃、()()()()()()()()()引き取られたのは事実だよ」


 背中を向けたまま、弦巻がさらりと言った。

 

「――――――はッ?!」

「それなら姉妹関係と言い張ることも、そこまでおかしくないんじゃない?」

「作り話も……行きすぎると面白くないですね」

「え〜。そう言われても今証明できるものなんて持ってないしー。なら本人や私の親でも出したら茜っちは信用してくれるのかな?」


 そういえば、月宮さんに一度家族ネタを出した時のあの顔。

 あの時はまるで触れられたくない話題と言っているように見えて、その後から私は絶対にその傷に触れられないようにしてた。


「……その作り話の続きを聞かせてくれませんか?」


 別に彼女の話を鵜呑みにするつもりはない。

 だけど話くらいは聞いてやってもいいと思った。


 私の気分は今これ以上ないほどに悪いのだから、今更どんな情報を脳に入れたところで、問題なんて起きないし。

 

「やっぱり気になるんじゃん。最初からそう言えば良いのにね〜」


 弦巻は満足げに目を細め、歌うような調子で語り始めた。

 



 ---



 彼女の話によれば小学生時代の月宮さんは、今とは似ても似つかぬ姿だったらしい。

 服が小汚くボロボロで体は基本的に傷や痣が絶えない……けれど、その酷い惨状を補って余りあるほどに、顔立ちだけは残酷なまでに整っていたのだという。

 外見はとても汚く、それこそいじめの対象にもなりそうだったが、あまりに月宮さんが出している雰囲気が酷すぎて、誰も自分から近づいたりしなかったそうだ。


 小学三年生で同じクラスになった弦巻は、その汚泥の塊のような月宮さんを見た瞬間、内心で小躍りしたという。おもしろそうな玩具がきた!、と。


『ねえ、どうしてそんなに汚い格好で学校に来れるの〜?』


 初対面の第一声。

 弦巻は死んだ魚のような月宮さんの瞳を覗き込み、そう言い放った。

 すると月宮さんは淡々と、呼吸をするように答えたらしい。


『……お父さんに身体を触られて、それを見てお母さんが私を殴るから』


 そして面白さが九割、残りの一割を気まぐれな同情として、彼女を「助ける」ことに決めたのだという。


「……待ってください、助けるってなんですか? まず親がいるんですよ」

「うん、あの子の親の相手は面倒くさかったね〜。月宮家はちょっとした小金持ちだし。金持ちの家庭ってどこの家も、大人は変なのばっか」


 そう言いながら腕を組んで、しみじみしたように座りながら言う。


「娘に発情しだす父、それに嫉妬する母。おまけに父の方にお金があるせいで母の方は離婚する気はないときた。側から見る分には最高に面白い状況……っていうか、早く茜っちも球を投げなよ」


 私は節々の気持ち悪い言葉を聞き流して、自分の質問を続けた。


「そこからどう行けば、貴女の家庭に転がり込むっていうんですか?」

「それは普通に親を()()でしょ〜。だってあの人達はしおっちのことを他の家に預ける気なんて無かったみたいだし」


 弦巻はそう笑いながら言葉にした。


「殺す?……小学生の貴女が、大人を?」

「なわけないじゃん。もちろん私以外の大人を使ってに決まってるよ」

「…………」

「まず入念な準備をしなきゃ人なんて殺せないし。それにしおっちを受け入れるために、私の母には養育里親研修ってのを、半年間やらせなきゃいけなかったしね〜」

「……なるほどです」

「どう、作り話には聞こえなくなってきたんじゃない?」


 ……私は片手で視界を覆いながら考える。


 一体これは何を聞かされているんだろうか。

 自分から作り話の続きを要求したとはいえ、リアリティのそれが気持ち悪すぎて、どうにかなりそうだ。


 流れを最初に戻すなら、姉妹間でのキスはノーカンかどうかという話だった気がする。

 血は繋がってなくても、小さい頃から長い付き合いありでも、お互いに好意が無くてなんとも思ってなければ……ノーカン扱いしても良いのだろうか。


「茜っちはなんで目を隠してるの?」

「現実を見たくないからですね。っていうかなんで月宮さんが来てないんですか?」

「えっとそれはね〜。邪魔だから家に帰っててお願いしたんだよー!」

「……それで大人しく家に帰る月宮さんも中々ですね」

「そんなことよりさ、茜っちは私の頬見てよ!」

「……?」


 私は覆ってる手に隙間だけを開けて、彼女の顔をみた。


 すると、弦巻の頬はとても赤くなっているようだった。


「…………なんですか、それ?」

「さっき会った時から、ずっとここ赤くなってたんだよ。なんで気づかないかな〜」

「どうして私が嫌いな人の顔を、ジロジロ見る必要があるのでしょうか」

「これね、しおっちに思いっきりぶっ叩かれたんだよねー『なんでいきなりキスなんかするの? 本当にありえない!!』って茜ちゃんが出てった後に本気でやられちゃった」


 弦巻は自分の頬に指を這わせながら、恍惚とした表情を浮かべる。

 ……私はそんな彼女にどう反応すべきか、もう分からなくなっていた。


 間近に迫る彼女の顔を乱暴に押し除け、重いボールを掴む。

 思考を止めるように、力任せにレーンへ投げつけた。


「やるじゃん」

「貴女は結局どうしたかったんですか? 私にこんな気持ち悪い粘着をして。それにその話が本当だったら、尚のこと私に消えてもらいたいですよね。だって小学生の頃から月宮さんに目をつけてるんですから」

「何を勘違いしてるの? 私がしおっちを拾ったのは、面白そうだったから以外に理由は無いよ。肉欲じゃない。Vtuberになったのもそう」


 私と弦巻は話しながら交互にどんどんボールを投げていく。

 2人揃って基本的にストライクかスペアが交互していく。

 

「今私がしおっちに抱いてる気持ちは、馬鹿で間抜けでメンヘラなペット……幼馴染達には妹って説明したんだっけ? まぁその妹が酷い目に遭わないよう、こっちで道を指し示してあげている程度って感じだよ〜」

「その言葉通りに受け取るなら、私は酷い道だったって事になるんですかね。私が今受けてる仕打ちから考えると」

「う〜ん……どうかな、そこら辺は微妙かも。今回私が顔出したのはしおっちの様子が、だいぶ昔みたくなってたからだし」

「……昔?」



 ---

 


 私のこの疑問にも、弦巻は事もなげに分かりやすく説明を始めた。

 

 どうやら月宮さんは親が亡くなった後、すぐに拾い上げてくれた弦巻にとても依存的だったようだ。

 だけど、拾い上げるまでが一番の楽しみの過程であった弦巻からして、その依存的な月宮さんの態度は鬱陶しかったらしい。

 

 だから弦巻は月宮さんに、他人を惹きつける技術を叩き込み、成長に合わせてVtuberという新興産業へ、二人して乗り込んだのだと言う。


 ……そしてどうやらこの言い分から、弦巻は月宮さんのことをそういう目で見ていないというのが良くわかる。


「今、私に情が無いとか考えたでしょ〜?」


 私はその言葉に鼻で笑って返した。

 

「別に何も考えていませんでしたが、逆に違うんですか?」

「いんや、違うね〜! だってあのまましおっちを放っておいたら、良くて悪い男に捕まって怠い一生を過ごすことになってた」

「…………」

「そして悪い可能性を挙げるなら、金のない女の子が、身近にいるセフレ達に30代になるまで回されて、やがてその子が自殺する……なんてところまで、あの時のしおっちにはその道に進む姿が見えたかな〜」


 吐き気がするほど具体的なディテール。まるでどこかでその光景を実際に眺めてきたかのような口振りだ。

 

「嫌に具体的ですね」

「私の凄く歳上の友達にもいたからね、そういう人。その人と姿が重なっちゃったら、それは口出したくもなっちゃうでしょー!」

「…………なるほど」


 気づけば1ゲームが終了し、点数は互角と表示されていた。


「私と張り合えるなんて凄いね〜。プロにでもなれば? 多分稼げるよー!」

「そんな事をするくらいなら、引きこもってた方がマシです。そして貴女が私をこんなところの呼び出した理由、まだ教えてもらってませんよ」

「そんなの単純だよ。どんな人なのか知りたかっただけ」


 弦巻はスコアボードを見上げ、満足げに目を細めた。

 

「……私、今日どんな感情でここの来たかわかってます?」

「失恋からのヤケで来たんでしょ? 良かったね、恋愛ごっこはまだ継続中だってさ〜」

「は?……こっちはシオンちゃんに恋愛してた方が、まだ幸せだったんですが?」


 よりによって、三次元の唯一の友達だった相手に恋するとか、本当にどうかしている。

 それに――


「おまけに明日からは2人っきりで旅行に行かなきゃいけないって……なんの罰でしょうか」

「それの何が罰なの〜? 天国じゃん、喜びなよ」

「叶わない片想いの相手と、これから間近で暫く過ごさないといけないっていうのが、とても地獄なんですよ。だって時間の無駄な上に虚しいだけですからね」


 まず、同性の女の子と付き合いたいって思ってくれる女の子なんて、身近に存在するわけないのだ。


「馬鹿なんだね〜茜っち」

「は?」

「ここまで色々喋って、まだ自分がどうすれば良いか気づかないんだ、ヤバいよ〜。察しが悪すぎて引いちゃうかも」

「じゃあ、どうしろっていうんですか?」

「いや――私はこれ以上喋るつもりはないよ? このまま進んだ面白そうだしね」


 やはり彼女とは思考の回路が致命的に噛み合わない。

 同じ言語で喋っているはずなのに、見ている地平が絶望的に乖離している。

 もう少しまともに会話の受け答えをして欲しいものだ。


「とりあえずデート頑張って〜。あと、しおっちのメンタルケアは忘れずにするんだよ? あんまりあの子を無視してると、とんでもないことをやらかしちゃうから」

「メンタル…………え、なに?」

「長い時間をかけて私が調教したけど、ここ最近見てる感じだとヤバいから、ちょっとずつケアしないと冗談抜きに茜っちは近いうちに人生が終了になるかも?」


 そう言って弦巻は不敵な笑みを浮かべたまま、制服の襟を肩のラインまで滑らせた。

 露出した白い肌にソレはあった。

 

 不規則に引き連れ、微かに盛り上がった気味の悪い古傷。


「それは?」

「しおっちが昔、私が寝てる時にフォークでブッ刺してきた時の傷跡だよ。虐待されてた頃のトラウマが色々あるのは分かるけどさ、結構マジでヤバいよね〜」

「…………(絶句)」

「まぁそういう事だから。お泊まりの時がどうだったか知らないし、あの子と一緒に夜を過ごすのはかなり難しいと思うけど、旅行で失敗しないように頑張るんだよ?」

「あぁ……はい」

「とりあえず遊びも終わったし、一旦ここ出ようよ」


 そして私達はボウリング場を出た。

 ◇あとがきです。

 次回のエピソードはR18版も書いたんですが、あまりに話が逸れすぎるためもしかしたらノクターンにifとして投稿する......しないかもしれません、

 次回は性描写注意です。

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