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【百合】人とはこの世で最も醜悪な獣の総称である。  作者: 中毒のRemi
第一章 出会い編

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第15話 友達の家族に身バレ?! (月宮:視点)

「や、やっぱり緊張する……」

「別にそこまで固くする必要はないですよ。家族達が何か仕掛けてきても、私が全力で守りますから」


 私は今、藤崎家の玄関前にいる。

 ここにお邪魔する事になった理由は、簡単に言えば彼女の急激な生活変化が原因だけど……

 

「今回の事情を聞かされて『力抜け』って言われても、結構難しいよ」

「まぁそうかもしれませんが、多分2人は何もしてこないと思いますよ。外からチラチラ見てくる程度です」

「……そうだと良いね」


 それが理由で友達の親に呼び出されるなんて経験は積んでないもので、流石に緊張する。

 だってこのシチュエーション、普通にパッと予想できるやつで出てくるの、基本的に怒られるパターンだけな気がするんだよね。

 ……私は一回り歳上の人と話すのはあんまり得意じゃないから、できればそんな事にはならないで欲しいけど。


 そして、茜が扉を開けた。


「ただいま〜」


 途端、空気が一気に家の中のものへと切り替わった。

 一つの家庭特有の匂いがぐっと私の鼻をくすぐる――その前に、それよりも先に目に飛び込んできたのは、二つの人影だった。

 

 この二人の特徴は予め聞いている。

 身長が高い方が母親で、小さい方が妹ちゃんだったはず。

 それ自体は聞いていた通りだったから良かったけど……


 なんで揃って玄関で仁王立ちしてるの?!


「もう! 二人して何やってるんですか!!」

「楽しみだったからここで待ってたんだよ」

「やだわ〜、ちょっとした場を和めるためのジョークじゃない」

 

 えぇ……

 

 ジョークで仁王立ちとかやってくる親子、初めて見た。

 茜ちゃんなら絶対にやってこないタイプの行動だ。

 本当に親子なのか20秒もしないうちに疑いたくなってくる。


 いや、気圧されてはいけない。

 まずは挨拶だ。


「お、お邪魔します!」

「はい、いらっしゃ――ん?」

「……なんか、凄く聞き覚えのある声な気がする〜」

「えっと……?」


 妹ちゃんが首を傾げながら、私の顔をまじまじと見つめてくる。

 

 ……え、何この反応。

 2人に何か違和感を持たれたみたいだけど、私には何がなんだか分からない。


 私はどう反応すべきか分からず、助けを求めるように隣の茜を見る。

 ――が、その瞬間、茜は何も言わずに私の手をぎゅっと握り、そのまま引っ張った。

 

「あ、茜ちゃん!?」

「2人に付き合ってる時間が無駄です。私は夕飯の支度をしなければいけないので」


 私は戸惑いながらも彼女に引かれるまま、藤崎家のリビングへと足を進めた。




 ---

 

 


「名前はなんて言うの?」

「月宮詩音だよ」

「詩音さんね、おっけ〜」


 リビングのソファに並んで座りながら、明日菜ちゃん――茜の妹はどこか楽しげに笑った。

 茜は今自分の部屋で着替え中。

 ついでに部屋の片づけもするらしく、しばらく戻ってこないらしい。

 その間私はこの妹ちゃんと二人きりだ。

 

 今日はリビングで4人でお食事をした後、お風呂に入り、それから茜ちゃんの部屋に突入となるそうだ。

 一体どんな部屋になっているのか楽しみではあるんだけど……


「詩音さんはお姉ちゃんとどこで会ったの? 私の予想だと多分フェスの会場でばったり……みたいな感じなんだよね。どう?」

「まぁ、うん……正解、かな」

「おおおぉぉぉ!」


 ――藤崎 明日菜ちゃん。

 この子がちょっと怖い。

 どうにもアメと近い匂いがする。

 

 例えるなら無邪気なふりをして懐に入り、少しでも油断した瞬間、笑いながら心の内側を突いてくるタイプ。

 妹ちゃんは年下のはずなのに、会話の主導権を握るのが上手すぎる。

 というかこの状況自体が、私の圧倒的なアドバンテージ不足でしかないので、割とされるがままな状態と言える。


 おまけに、母親の藤崎さんはダイニングテーブルの向こうでスマホをいじるふりをしながら、明らかにこちらの会話を逐一聞いている。

 目線を少し上げただけで、その気配がはっきり分かった。


 …………怖いよここ。

 早く助けて! 茜ちゃん!!


「ねぇ……詩音さんは知らないと思うけど」

 

 明日菜ちゃんが唐突に空気と話題を変えた。


「お姉ちゃんって、私たちが何を言っても絶対に学校に行こうとしなかったんだよ。

 ましてや他人――しかもただの女の子に何か言われて、動くような人じゃないんだよね」


 ……明日菜ちゃん、まさかの単刀直入に聞くという前置きすらない。

 まどろっこしいのは置いといて、事実を即知りたいというスタンスのようだ。

 

「そ、そそ……そうなんだぁ」


 やっぱり心構えはしておいて正解だった。

 何も無しにいきなり詰められたら、ちょっとだけパニックになってたかもしれない。

 

「嫌々登校してるわけじゃないみたいだし、おまけに――」


 と、そこに。

 母親の藤崎さんが、何気ない口調で会話に滑り込んできた。

 

「たぶん私にバレないよう、自分のお小遣いを切り崩してお弁当用のおかずを用意してたわよね〜。別に家の食費でやってくれても良いのに。どうせ一人増えた程度であんまり変わらないんだから」


 ……なにこれ。

 プレッシャー酷すぎない?

 裁判? 審問会? 私は処されるの?


 とはいえ、どれだけ圧を掛けられようと、私は自分の正体を明かすわけにはいかない。

 それは自分の身を危険に晒すことに他ならないし、事務所のみんなの迷惑にもなってしまう。

 だから余程の事態じゃないと言えない。


「それは、その……」


 しかも、弁当代くらいなら今すぐにつき返せる。

 なんなら信用代金として、母親の方には数万くらい叩きつけたっていいと私は思ってる。

 茜ちゃんの価値は、私にとってそれくらい大きいし、それと同時に正体を明かすくらいなら数万――いや、数十万くらい払って相手を黙らせた方がこっちの損は少ない。

 

 そして今ここで彼女との縁を切られるのは、私的に結構困る。

 というわけで、Vtuberとして稼いだお金の使いどきはここだ!


「お、お金なら返し――」


 私はバッグから財布を取り出しながら言葉にしようとした時だった。


「今戻りました」

 

 リビングのドアが開き、茜ちゃんが顔を出した。

 

「月宮さんは……無事みたいですね」

「何を心配してるのよ。来たばっかりのお友達に酷い事なんかするわけないじゃない」

「楽しくお喋りしてただけだよ、お姉ちゃん」


 ――って、帰って来るのが早い!!


 タイミングが悪すぎる。

 きっとここで代金を返そうとしてしまえば、この前の宣言通りきっとスパチャで叩き返されてしまうはずだ。

 そうなっては意味がない。

 

 そして、今の短い時間のどこに楽しさがあったんだろう。

 楽しんでるとしたら彼女達だけに違いない。

 ……別に私は人見知りじゃないのに、状況が状況のせいで話を回し辛くて仕方ないし。


 というか、お願いだから場所を移させて欲しい!

 これ以上探られると、正体がバレてしまいそうでちょっと怖すぎる。

 

 どうにかして!――という気持ちで彼女を見つめた瞬間……


「そうだ月宮さん、一緒に料理するとしましょう!」

「え、いきなり?」


 まさかの誘いが来た。


 でも、私は料理経験とかあんまり無いんだけど……


「最近調べたんですけど、嫌いな食べ物を克服するには一度自分でその食材に触れてみた方が良いと書いてありました」

「あぁ、そういう……」

「なので手伝ってください! それに大丈夫です、簡単な事しか任せないので!」


 ……なら別に良いか。

 この妹ちゃんの隣で質問攻めに遭うより、茜と並んでいた方が何倍も気が楽だ。

 断る理由も大して無かった。


「分かった、手伝うよ」

「えー、もうちょっと詩音さんと話してたかったなぁ」

「ご、ごめんね。また後で話そ!」


 笑顔で逃げるように言い残し、私と茜はキッチンに立った。




 ---




 キッチンはさっきのリビングの空気より、ずっと穏やかだった。

 換気扇の低い唸りと、まな板を叩く包丁の音。

 私と茜ちゃんは並んで立ち、フライパンの前で野菜炒めを作っていた。


「そういえば月宮さんって、学校から帰ってすぐは何してるんですか?」

「なんでその話?」

「いえ、今日はわざわざスケジュールを崩してこっちに来ていただいたので、普段の行動の違いでストレスとか感じてなければいいなぁ……と思いまして」

「あーね、まぁでも基本的に()()()前までは寝てるかなぁ」

「バイ……ト…………?」


 私は疑問符を浮かべている茜を横目に、人参を切りながら冷や汗を流した。


 お願い! 察して!!

 バイトって濁したけど私にそんな事をやってる時間が無いってことは、ガチ恋してくれてる茜ちゃんならよく分かってくれるはず!


「あぁ……なるほど。了解です」


 どうやら反応を見るに察してくれたらしい。

 

 ……良かった。

 茜は私が関わってきた人の中だと結構な狂人枠で、微妙に他人の心が分かってないところがあるから心配だったけど、流石にVtuberの事になると頭が回るみたいだった。

 

「……最高だよ。あか――」


 思わず茜を称賛しようとした時だった。


『『『そんな嘘では()()()を騙せませんよ』』』


 空気……というか、私の脳が一瞬で凍った。

 音の出どころを探すまでもなく、背筋に冷たいものが走る。

 

「あれ……これじゃないや」

「流石に気のせいなんじゃない? だってありえないわよ。普通にそれなら奇跡の域を超えてるもの」

 

 突如妹ちゃんが、私の同僚である弦巻 雨(シスター・サニー)のサンプルボイスを流し始めたのだ。


「まっっっっっずい……!」


 ――詰んだ。


「あぁ〜……そういえば帰りに聞いたあの声、シスター・サニーによく似てたんですよね。切り抜きとシオンちゃんとのコラボ時にしか見てないので、あんまり断言できないですけど」


 茜ちゃんが何か言ってるけど、もはやそんなのが耳に入らないくらい私は焦っている。

 

 まさかいきなり、そんな一歩手前まで辿り着かれると思ってなかった!

 これは流石に茜ちゃんが長いこと私のファンをやってるようだから、普通にその家族達も茜ちゃんの推しの声くらいは、聞いたことがあってもおかしくない――というのが、この速さでバレかけてる原因か?!


 茜ちゃんはなんか考え事してて、これ以上私に気を回してくれないみたいだし……

 どうか神様、私を守って!!


 そう心の中でお祈りするが……


『『『ねーえ、こっち向いて……? ふふ、呼んだだけだよ、バーカ♡』』』

「………………(絶句)」

「わ〜……やっぱりシオンちゃんの声は癒されますね」


 隣の脳内お花畑さんは呑気なことを言っているが、こっちの心臓は冷え冷えもいいところである。

 

 私は包丁をそっとまな板に置き、息を殺して後ろへ振り返る。

 するとソファの背もたれに頬を乗せた明日菜ちゃんが、某アニメの幼女と全く同じ顔でこっちを見ていた。


 私はどうにか貼り付けたようにポーカーフェイスを維持するが……


「良い声してるね、()()()()()()

「どどどど、どうしたの、明日菜ちゃん? そんな顔して……」

「まだとぼけるんだ」

「何言ってるの? 私、言ってる意味分かんないかも……」

「そっか! じゃあオフィシャルサイトでボイス買って、スピーカーで流すね!」


 明日菜ちゃんがソファに座り直し、スマホを操作し始める。

 

「きゃああああああああああああ!!!!!やめてええええええええ!!!!!!」


 そんな羞恥プレイは絶対に受けたくない。

 私は猛ダッシュで妹ちゃんの方に駆けた。


「あっ――」


 茜ちゃんはようやく事に気づいたらしい。

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