表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【百合】人とはこの世で最も醜悪な獣の総称である。  作者: 中毒のRemi
第一章 出会い編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/25

第13話 そんなのいりません

 中間テストが終わり、答案もすべて返却された頃。


 私たちは今、校内の中庭。

 昼下がりの陽光がテーブルの上の弁当箱に反射して、白いきらめきを散らしている。

 風がゆるやかに木々を撫で、枝の影が机の上をゆらゆらと渡っていった。

 

 気づけば、あの登校を再開し始めた時の騒がしさはもうない。

 二週間も経てば不登校だったという過去も、ただの一エピソードに変わっていくらしい。

 誰も私を特別視したりしなくなっていた。

 

 これだけ時間が経って、視線の針がようやく外れた気がした。

 ……ありがたいことだ。


 おまけに、以前のように距離を詰めてくる人もほとんどいなくなった。

 たぶん、月宮さんがうまく立ち回ってくれているのだと思う。


 そして本来ならこうして、昼の中庭で彼女を独占するなんて不可能だ。

 でも今はそれが現実になっている。

 授業中や10分休憩中の彼女の人気ぶり――話しかけられぶりを思えば、これは奇跡に近い。

 

 この今の穏やかな時間は、彼女の努力と周りの優しさの上に成り立っているのだろう。

 私は彼女が構築した人間関係というものに、ちょっとくらいは感謝するべきなのかもしれない。

 

「やばいよね。学校に行ってなかったのに全教科満点とか、普通に意味分かんないもん……たぶん、茜ちゃんが学年一位だよねぇ」

「……まぁ家に引き篭もってた間も、無駄に勉強だけはしてましたから」

「へぇ〜……あっ、この鶏肉の唐揚げ凄く美味しいよ!」


 月宮さんが弁当を見せて笑う。

 彼女の笑顔を見ていると、空気がほんの少し甘くなる。

 でもそんな気分を打ち消すように、現実が胸を突いた。


 ――実は今日があの日なのだ。


 それを思い出す度に頭が痛くなってくる。

 

「どうしたの? 最近あんまり元気なさそうだけど」

「その……今日の予定が……」

「あぁ、お泊まり会の話ね」


 お泊まり。

 言葉だけ聞けば甘く響くのに、実際はまるで死刑宣告のソレである。

 “友達を親に紹介する会”という名の、地獄の晩餐。

 よりにもよってそれが今日なのだ。


 事情の全てはもちろん、中間テストが終わってすぐに月宮さんに打ち明けた。

 すると彼女は、まるでゲームのスケジュール調整でもするような軽やかさで予定を組み直し、「もちろん行くよ」と笑ってくれた。

 それであっという間に、話は現実になってしまったのだった。


 本当なら今日は、新作ゲームのクリア耐久配信をするはずだった。

 なのに彼女は――


「別に大丈夫だよ。ポ◯モンの配信は別日に移したし、明日の配信はお昼からだしね。今日はちょっと寝る場所が変わるくらいって思えば、あまり問題ないかな」

「うっ……あっ、ありがとうございます!」


 私は慌てて頭を下げた。

 するとその瞬間、彼女の指が私の頬を捉え、ぐい、と横に引き伸ばした。

 

「こっちこそ、私に休みをくれてありがとう、だね」

「ひゃ……い」


 ……そういえば月宮さんは、日曜日以外はスケジュールがびっしり埋まっていると私に語ってくれた。

 そんな人から私が休みを奪うなんて、本当に申し訳なくて出来ないと考えていたところ、今日の夜の予定をズラしてくれるという形になったのだ。

 本当に申し訳ないと思うけど、「たまには休みが2日あったって良いよね」って言ってくれたのが唯一の救いだ。


「とか言ったけど、流石に友達の親に呼び出されるなんて初めてだから、ちょっと緊張するかも」

「それはたぶん大丈夫です。そんなガチガチの話し合いをする事は無い……と思いたいです」

「微妙な返事じゃん。まぁいいけど」

 

 月宮さんは私と過ごすことに休みを見出してくれているのだから、ここはしっかりもてなさないといけない。

 ……あの厄介二人組(母親と妹)からの邪魔をどうにか避けながら、月宮さんに心労を与えないようにする。

 これが今日の私に課せられたミッションである。


 私が思考に耽っている中、その隙から差し込むように彼女が言葉を切り込んできた。


「それとね」

「はい」

「いつもお弁当作ってきてくれるの、本当に嬉しいし助かってるんだけど……そろそろ、弁当代を受け取ってくれないかな?」

 

 彼女の指がまだ私の頬に触れていた。

 

 そのぬくもりを振り払うように、私は月宮さんの手をそっと押しのける。


「……絶対に嫌です。お断りします」

「こういうところ、本当に頑固だよね」

「私が好きでやっている事なので、月宮さんがそこを気にする必要はありません」

「ふ〜ん」


 彼女は口元を弓なりに上げて、わざとらしく囁いた。

 

「私のことが()()だから、お金なんて払わせられないって? それならちゃんと面と向かって告白してくれれば良いのに」


 ……まったく、この人は。

 刃を飄々と笑顔に隠して、平然と私の心臓を突いてくる。

 流石はシオンちゃんの中の人だ。

 性格が悪い。


 どうやら彼女はどうにかして、弁当分のお金を渡したくて仕方みたいだ。

 もちろんそれに応じるつもりはない。

 

「…………どうやって煽られようと、私は月宮さんからお金を受け取るつもりはないですよ」


 ようやくそれだけ言い切ると、彼女の顔にうっすらと不満の影が浮かんだ。

 その表情を横目に、私は弁当箱の隅に残しておいた沢庵をつまみ、ゆっくりと噛み締める。


「じゃあ――今日のお泊まりのとき、茜ちゃんのお母さんに直接渡しちゃおうかな」

「…………はぁ」

「だって、聞く限りだと真面目そうじゃない? 子供の友人関係を心配してくれる親なんて、あんまりいないと思うよ?」


 ……勘弁して欲しい。

 月宮さんが家族ネタが地雷なのは、この前の話で分かりきっているので、その件込みでもあまり会わせたくないのだ。

 自分からその話題を降ってこないでほしいものである。


 私は努めて冷静に沢庵を飲み込み、顔を上げずに淡々と返した。


「別にそうして貰っても良いですけど、その場合はyou◯u◯eのスパチャで返金対応させて頂きます」

「ん〜!!!」


 月宮さんがテーブルに両手を突き、顔を歪めた。

 頬がぷくっと膨らみ、唇を尖らせて――まるで怒った猫みたいだ。

 

 横目で見たその顔が、ちょっとだけ愛らしいとさえ思ってしまったけど、これは普通に気の迷いだ。

 私のガチ恋相手はシオンちゃんであって、月宮さんではないのだから。


 ……というかスパチャで返金すると、you◯u◯eの方に何割かお金を持ってかれるので、あまり良い手段とは言えなかったりもする。

 あまりその手のゴタゴタを私に考えさせないで欲しいものである。

 大人しく諦めて欲しい。


「もう……馬鹿なことばかり言ってないで、教室に戻りますよ。授業が始まってしまいます」

「話の続きはまた今度!」

「はいはい、続くと良いですね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ