青龍、昔のことを思い出す。
「あなたたちには悪組織に潜入してもらうわ」
悪組織、潜入。
潜入捜査、とは簡単に言えば敵の情報を探り、できれば中からぶっ壊すという仕事だ。
けれど、敵は敵。
私たちの都合が良いことを、都合の良いタイミングでしてくれるというわけではない。
だから危険が伴うし、保護者の同意を取ることも難しくなってくる。
『殺し屋規定:第十五条。潜入捜査は原則未成年にまわしてはならない。』
学園で絶対習うことの一つでもある。
「あなたたち、未成年だっけ。17、よね。潜入捜査はしてはいけないのに何で、って思ってるでしょう?」
顔を顰めながら無言で頷く私たち。
うわぁぁぁっ、屈辱だぁぁぁぁっ!!
絶対こいつには子供っぽく接してやらないって決めてたのに…。
…?何でこいつ満足そうに頷いてるの?
「でも、潜入捜査の専門家が付き、かつ私たちが許可したら可能になるのよ。まあ専門家といってもあなた達と同い年だけれどね」
「はーいっ!呼ばれてきました!青龍の可愛い親友のヤタちゃんでーっす!」
「げっ」
ヤタ。
私たちの学園時代の同期で、一応…No.3の女だ。
私の親友を自称しており、まあまあ厄介なやつだが、いざという時に私たちの、というか私の味方をしてくれるのでありがたい。
そして、戦闘能力も抜群で私以外と手合わせして負けているのを見たことがない。
一回だけ私とガチで殺りあった時はどっちもボロボロになったけど私がギリギリ勝った。
会長によると今は戦闘部隊の特別部隊である潜入捜査専門の仕事をしているそうだ。
学園卒業からお互い忙しく会えていなかったため、目の前のヤタは随分と大人っぽくなった気がする。
「じゃあ、ヤタ。この問題児たちをよろしくね」
「了解でーっす!じゃ、青龍と愉快な仲間たちー、行くよ〜っ!」
ヤタが私の手を引いて会議室を後にした。
「つか、俺らは青龍のおまけかよ。まあヤタだから仕方ないと思う部分もあるが」
「違うに決まってんでしょー。青龍は私の親友でだぁいすきだけど、皆んなのことも好きだよー?」
「ふふ。相変わらず言葉が薄っぺらいのですね、ヤタさん。まあ青龍の親友兼妹の座は渡しませんけどぉ」
「ううううっ相変わらず遠回しに腹立つな朱雀ぅぅぅ!!」
何か後ろでヤタと朱雀がバチバチしているのをいつもなら放っておいて私たちは傍観者に徹するのだが、
今日はヤタに色々と聞かないといけないことがあるので、ヤタの服の裾を引っ張り、詰め寄った。
「ねえヤタ。あんた、なんで潜入捜査専門になったのよ。戦闘力も申し分なかったのに。ていうか連絡よこしなさいよ」
「ごめんってぇ。青龍には言おうか迷ったんだけどね?けど上層部には止められちゃって。そう言うってことは青龍、私のことちょっとくらいは心配してくれてたってこと〜?」
「…してちゃ悪いかしら。一応同期だったんだもの。皆んな心配していたわ。あの子もね」
「…ふふ。青龍も変わんないねぇ。また同期で集まれると良いな。元気にしてるのかな、あの子たちも」
目線を落として私が呟くように言うと、ヤタは少し目を見開いて優しく微笑んだ。
いつも貼り付けの胡散臭い笑みを貼り付けているヤタだけど、時々私たちに見せてくれる自然体の笑顔は
とても可愛いのだ。
少し雑談しながら、本部の他会議室ではなく、私たちの拠点である我が家にヤタを招き入れた。
学園時代も勉強や戦闘稽古のために何度か家に招いたこともあったなあ、と感慨深くなりながら温かい緑茶を淹れ、リビングにお茶菓子のたいやきと一緒に出した。
我が家は皆んな甘党なので玄武が定期的にたいやきやどらやきなど作り置きして冷凍しておいてくれる。
これはたいやきを解凍して、トースターで少し焼いたもの。
やっぱり中身は王道の餡子。
ダイニングテーブルの椅子に神妙な顔立ちで腰掛けていた四人の前にお茶とたいやきを置くと、白虎が食いついた。
「あーっ!玄武のたいやきだーっ!最近食べてなかったから嬉しいなーっ!」
「懐かしいの出してきたね。学生の時も玄武が焼いてくれていたの覚えてるよ」
ヤタが懐かしむような顔でたいやきを見つめているのを見て、なんとも言えない気持ちになってしまうのをこらえて、とりあえず仕事の話を切り出すことにした。
「ところでヤタ。今回の仕事の件、詳しく説明してもらってもいいかしら」
「うん。私たちが今回潜入するのは一般人の虐殺をしている疑いがあるところでね、ベンタっていうところなの。私以外の潜入部隊員が何人か行っているんだけど、今は誰にも連絡が取れない状況なんだ」
「…殺されたか、今危険な状況ってところだな」
「そう、そうなんだよ玄武。ベンタには何人か絶対的な戦闘能力を持つ三人組がいるらしい。まあ素性はわかっていないけどね」
「なるほどねっ!その三人に警戒しつつ、組織を壊せば良いのかあ。上層部もそう簡単に言ってくれればよかったのにぃ」
白虎は片手に食べかけのたいやきを持ちながら悪態をついた。
確かに、あの上層部たちは話を要約するってことを知らない。
…前世、数学のクソ長い証明文だったりするのかな、うん絶対そうだ。
要約したくても、短縮したくても、することができない数学の証明文だったんだよ、きっと。
「ていうか、青龍たち上層部の人たちに滅茶苦茶に嫌われていない?何したの」
「上層部に何回か喧嘩を売ってたら、毛嫌いされるようになったんだよねえ。まあそれだけじゃあ無い気がするけど」
「へーえ。まあ、お偉いさんには好印象であることって結構大事なんだよ?まあ正直、私も上層部嫌いだけどーっ!青龍たちが嫌いな人は私もきらーい」
嫌いになれない、同期。
あの子、今はどこにいるんだろう。
なにをしてるんだろう。
そう考えずにはいられなかった。




