青龍、不審に思う。
「ただいま帰りましたぁ」
午後十一時を回った頃、現場から裏社会専用の地下道を走りこぢんまりとした我が家に帰ってきた。
これを誰も殺し屋が集っている家だとは思うまい。
「おかえりーっ!今日も遅かったねえ」
「ただいま、白虎。もしかして私が最後?」
「そのもしかしてだよ。朱雀呼んできてねーっ」
てけてけと居間に戻っていく白虎。
一見女の子に見えなくもない可愛らしい白虎。
銀髪によく映える赤いピンは私が送ったものだ。ちなみにお揃い。
任務に行くときもつけてくれて結構嬉しかったりする。
階段を昇り、『男子禁制♡』と書かれているドアプレートのかかる部屋に入る。
「朱雀ー?ご飯だよー」
「ふぁ…。あ、おかえりなさい。青龍」
片目を伏せて、あくびをしている我が妹(仮)の朱雀だ。
肩にかかる赤髪はストレートに下に伸びている。
朱雀の赤髪は地毛で、白い肌にかかる長い睫毛も綺麗な赤色。
私より女の子女の子しているので、女子力とその忍耐はとても尊敬している。(私だと、すぐに諦めて女子力皆無に戻ってしまうし…)
「青龍は今日、裏切り者の始末だったんですよね。お疲れ様です!」
「ありがとう。朱雀はオフだったんだっけ。明日はみんなオフね」
「この休み続きが先週と比べ物にならないですねぇ。本当に上層部もいい加減にしてほしいです…」
上層部。
そいつらは、簡単に言えば私たちを犬のようにこき使ってくるムカつく奴らだ。
何となく私たちを見下している目をしているから、あまり好きではないのよね…
キッチンに入るとマスターと白虎が机に料理を並べて談笑し、玄武がエプロンでキッチンに立ち、何かを作っていた。
何年も一緒にいるけど、やっぱりエプロン姿は似合わないわね、玄武。
玄武は強面イケメンで、頬に傷があり、耳にはシルバーピアスがジャラジャラと付いている、
一見怖くて、チャラそうな見た目をしているが、生真面目で、甘党の私よりも乙女(?)な男子だ。
まあ、口は悪いときも多いけれどね。
「ただいま、玄武。今日は何を作っているの」
「おー、おかえり。今日のデザートはプリン・ア・ラ・モードだぞ。生クリームと卵がスーパーで安かったからな」
「美味しそうね。あ、今日は玄武もオフだったんだっけ。…久しぶりの朱雀との一日はどうだった?」
私はニヤニヤしながら玄武の脇腹をこづいた。
そう。玄武は幼い時から朱雀のことが好きなのだ。
玄武は(この見た目で)クソ真面目なので、朱雀が初恋のままこの年になった、可愛いやつなのだ。
「…それ絶対朱雀に言うなよな。まあ、悪くはなかったよ。出かけれたし」
「そう、それは良かったわね。朱雀にも良い一日になったでしょうよ」
「まあ、それなら良いんだがな」
最後に優しく微笑んだ玄武の顔は誰よりも優しい顔だった。
弟(仮)や妹(仮)の幸せを見るのは姉(仮)としても気分がいいし、心地よい。
「マスター!ただいまです!」
マスターの横の席に座り、満面の笑みでマスターに話しかけた。
「おかえり、青龍。今日の相手は手強かったかい?」
「全然大丈夫でしたよ!まあ、そこら辺の雑魚よりかは強かったです。流石、元殺し屋ですね」
「はは。青龍はすごいな。よくやったね」
「ありがとうございますっ!」
(妹たち曰く)私はマスターの前だと少し子供っぽいのだという。
朱雀や白虎、玄武の前にいる時に気を張っているつもりは無いのだけれど、やっぱり一番私の心に近い人といると自然と心を解くことができるのかもしれない。
きっとここにいる皆もそうだ。
色々な事情で肉親に捨てられ、孤児院を転々としたり、孤独にさらされていた私たちにとってマスターは
記憶のほぼない肉親以上に“親”という感じがするし、溢れきれないほど感謝もしている。
だからここにいる皆んなは心から笑えるのだ。
「あ、青龍。他の皆んなにはもう伝えたけど、明日一緒に殺し屋本部に行かなきゃならなくなったんだよね」
「うげ、また上層部からの呼び出し?はい、そうですよね、わかってましたよ…あれ、私たち四人だけ?」
「うん。僕たちだけ。まあ任務でしょ。マスターは明日用事があるんですよね」
「そうなんだよね。だから明日は上層部にむやみやたらと喧嘩を売っちゃいけないよ」
マスターが口を酸っぱくしてこれを注意するのには理由があった。
過去に何度か私たちは上層部に喧嘩を売っているのだ。
一番昔のもので、マスターが朱雀を引き取ってすぐに紹介しに行くと朱雀だけが会長に馬鹿にされ、私と玄武と白虎がガチギレしてマスターじゃないと手が付けられないほどになったことだ。
目の前が真っ赤になって、マスターの声しか聞こえなかった気がする。
朱雀は、生まれて初めてできた女の子の親友兼妹だったのだ。
出会ってまだ一ヶ月くらいだったけど、会長に朱雀が馬鹿にされ、罵倒されているのを横で静かに見ることなんてできなかったのだと思う。
幼いながらに気がついたんだよな。
この世界は異常なのだと。




