殺し屋、とは。
『これで今日の任務は完了です』
『了解いたしました。お疲れ様です』
片耳につけた小型のワイヤレスイヤホンから聞き慣れた声が鼓室に響く。
任務。それは私たち殺し屋の仕事である。
殺し屋とは日本国内で約3000人。世界総人口で約5000人しかなることのできない政府公認、かつ一般人には非公開の職である。
社会に害のある人間や、法を侵すような人間。かつ警察も手に負えないほどの戦闘能力や
頭脳を持ち合わせている人たちだ。
警察からの要請もあれば、政府や政治家からの依頼もある。
政治家などからの要請は表向きの理由をつけて、私たちへ依頼をする。
まあ、私たちを知るにはまず政府関係者でないと駄目だけれど。
人の命を簡単に奪うことのできる私たちは、一般家庭で生まれ育ったわけじゃない。
私は、今現在名前がない。戸籍も無い。
正確には、私の生まれたときの名前を私自身が知らない。
私は物心つく前に肉親から捨てられた。
そして、子供にしては妙に大人びている私を扱えきれない孤児院で厄介者扱いをされながら近くの孤児院を転々とした。
そんな社会をあたかもわかっているような顔をしていた私に興味を持って里親であるマスターに引き取られた。それが3歳の頃。
マスターは現役の殺し屋として活躍していた頃、殺し屋界No.1をはり、殺し屋界随一の頭脳と特殊な戦闘センスを持ち合わせていた。
けれど、マスターはある時、事故で両足に大きな怪我を負い、私を引き取った14年前には
もう殺し屋を引退していた。
私を引き取り、育児未経験者のマスターと当時3歳だった私は拙い足取りだったけれど
確実に一歩ずつ歩みを進めた。
そして、マスターは孤児院で特別運動神経の良い三人の子供を引き取った。
当時の私と同い年の中々個性的なメンツだ。
銀髪で子犬系男子の殺し屋界No.4。コードネーム白虎。
カーキ色の髪の親孝行系男子の殺し屋界No.5。コードネーム玄武。
赤髪で男子には厳しく、私には甘い現代っ子系女子の殺し屋界No.6。コードネーム朱雀。
青髪でマスターへの忠実心は一番強く、姉御肌(自称)の長女系女子の殺し屋界No.2。コードネーム青龍。はい、私ね。
コードネームというのは殺し屋界で本名が割れると家族までにも危険が及ぶ可能性があるため、自分の師匠である存在につけてもらう仕事用の名前だ。
まあ私たちには元々名前がなかったようなものだし、ほぼ本名である。
家族はみんな殺し屋なので、家族に危険が及んでも誰かが誰かのサポートに入るのが私たちだから、きっと大丈夫だ。
元No.1の司令塔であるマスター。
そして、“強い”を極めた17歳の子どもたち。
そんな五人で組んでいる陰陽會は最強と恐れられる組となっていた。
任務完了の合図が聞こえ、始末した殺し屋の離反者の顔を確認して、携帯に報告書に書く内容をまとめて、帰る前に、私はしゃかんで、そこで静かに眠っている相手に手を合わせて目を瞑った。
この人はもう二度とそのまぶたを開けることは、ない。
離反した理由も私たちのような“下働き”には教えられない。
この人に大切な人はいたのだろうか。
罪悪感で殺し屋をやめたのだろうか。
人を殺めることに、魔が差したのだろうか。
頭の中で今始末した彼に話しかける。届いているのか、わからないけれど私への戒めにもなるから。
あなたが殺し屋という職業をやめて、離反しようとした理由は私には分からない。
私にとってこの職業は、生きる意味でもあり、義務でもある。
けれど、あなたにとってはそうではなかったかもしれない。
『僕達にとって彼らは悪でも、誰かにとって彼らは正義になることもあるんだ』
まだ幼かった私にマスターが教えてくれたこと。
これは、私の仁義で押し付けようのない正義だ。
もし、このような出会い方じゃなかったら仲間だったのね。
さようなら、と呟いて立ち上がり、私は帰路についた。




