朱雀、目を奪われた。
「何で、お前は…っそんなことを聞くんだよ…!」
今まで表情を変えなかった彼が、初めて私の前で表情を変えた。
少し嬉しく思うと同時に、彼が努力家なことに気が付き驚く。
私の扇は私が深く切ろうと思えば、腕の半分くらいまでは切れる。相手が力を入れていなければ完全に切り落とすことが出来る。
たかが筋肉だけでここまで扇を止められることはできない。かといって腕の皮が極端に分厚い訳でもないように見えた。
力を分散させている。
私がこの腕だけに攻撃をしている全身の力を、腕だけじゃなくて足で体幹で受け流しているんだ。
自分の体の使い方を熟知している、としか言いようがないほど高難易度なこと。
やっぱり彼は、育て親のことをたとえ一方的でも愛しているし、愛されたいと思っている。
だって、嫌いだったらここまで組織のためにできないじゃない?
自分の身体を壊すようなこと、私も家族がいなかったらできない。
これ以上は力の無駄と判断したので一度扇を離して距離を取った。
「何で、って…薄々気がついているのでしょう?自分が人を殺める感覚を嫌悪していること」
彼は私の方を、目を大きく見開いて見つめた。
何かを伝えようと口を開いたが、言葉を飲み込むように、その長いまつ毛を伏せて口を閉じた。
きっと彼は気がついていた。
人を刃物で貫く感覚が、人の命をこの手に収めている感覚が、どうしようもなく気持ち悪くて、
当たり前の感覚だと、どうしても思えないことに。
でも、自分のすべきことをちゃんと幼少期から理解していた。だから、自分の感覚は自分の意志に逆らえなかったんだ。
私は、彼が何も言う気が無いことを理解して、試合を終わらせることを選んだ。
これ以上何も言えることは無いし、これ以上踏み込んで良いのか私には分かり得なかったから。
私は扇をベルトに仕舞い込み、蓮の目を見ずに、走り出した。
蓮の懐に入り込んで、首筋に手刀を落とした。
蓮が脱力し、倒れ、動かないことを十秒確認すると、審判をしていたスタッフは私の元々の立ち位置の方の手を上げて、私の勝利を述べた。
「…蓮。戦闘不能。よって田中有紗の勝利」
私は表情を変えないまま、障子と審判に向かって一礼ずつし、蓮を担いで端に寄った。
チラと青龍の方を見ると、とても驚いたようにその綺麗な黒い瞳を揺らしていた。
でもその黒い瞳には恐怖や絶望の色はなくて、ただ単純に私の成長に喜んでいる家族のように見えた。
未だ気絶している蓮の耳元に口を近づけて囁いた。
「…またどこかで会えたときのために、私の質問考えていてね。蓮」




