017話 ジョン、噛まれる。――絶望の階段
▽【前回の山田】
ミッション報酬を保留しつつ、最強NPCジョンの力を借りて脱出作戦へ!
玄関前で、俺たちは装備の最終チェックをしていた。
ジョンは防弾チョッキに工事用ヘルメット、さらに両腕両脚に丸めた雑誌をガムテでグルグル巻き。武器はナタ……と筋肉。
カレンも同じ防具に、ハンドガンを携えている。だが銃声はアラーム確定なので、実質使えないだろう。
そして俺は──布の服、木製バット、たるんだケツ。以上。
……泣くな俺。俺には“死に戻り”という最強のバフがある。
(精神だけは削られていくけど)
三人で手を合わせ、短く息を吸う。
「必ず生きて脱出しよう」
ジョンもカレンも、真剣な表情で頷いた。
ドアスコープから外を覗く。廊下は静まり返っていた。
ゾンビの姿はない。
俺、カレン、ジョンの順にそっと外に出る。
鍵は……かけない。いつでも飛び込めるように。
足音に最大限の注意を払って進む。
目指すは下り階段──そこを抜ければ地上だ。
途中、妙にゾンビが固まっているエリアがあった。
あれは確か……以前、俺がメダル無限増殖バグを試した場所だ。
“あそこに全部集まってる”
ラッキーなようで、不気味でもある。
「ヤマダ、階段、チカイ」
カレンの声が微かに震えている。
何度も通った階段。
だが今日は違う。
一人じゃない。
逃げ場がない。
挟まれたら終わり。
そんな当たり前の事実が、妙に胸に刺さる。
俺は小さく頷き、一歩ずつ降り始めた。
「ジョン、背後は頼んだぞ」
「分かってマス。ヤマダさん、もしもの時はカレンを頼みマス。
……わてら、この戦いが終わったら結婚するンです」
それ完全に死亡フラグだ。というか、もう夫婦だろお前ら。
喉まで出かけたツッコミを、俺は必死に両手で塞いだ。
6階に到達。
“あわよくば自室で小休憩”などという淡い夢は、強烈な腐臭に一瞬で吹き飛ばされた。
──フロア全体が、ゾンビで溢れていた。
「これは……!?」
視界を埋め尽くす灰色の影。
無理だ。無理ゲーだ。
攻略ルートを間違えたか?どこかのロケットランチャーを拾い忘れたか?
俺のゲーム脳が、けたたましく警告音を鳴らす。
逃げなきゃ。今すぐ。
「ウワッ!」
「キャア! ジョン!!」
背後から、ジョンとカレンの悲鳴。
振り返る。
2体のゾンビがジョンに飛びかかっていた。
ジョンは獣のように腕を振り払うと、1体を床に叩きつけた。
2体目は怯んで一歩下がる。
その瞬間、ジョンはナタを振り上げ──
ザシュッ!ズバ!
鈍い音とともに、2体のゾンビの頭が割れた。
「やるなジョン!」
俺は思わずサムズアップした。
……強すぎる。絶対俺より強い。
死亡回数100回越えても俺は勝てる気がしなかった。
だが次の瞬間、カレンの表情が凍りついた。
「……ジョン?」
カレンの視線を追う。
床には小さな黒い染みができていた。
そこにさらに一滴、二滴、赤い雫が、床に弾ける。
視線をあげていく。
そこには――ジョンの両手があった。
世界から音が消えた。
喉の奥が焼け付くように熱いのに、声が出ない。
ツバを飲み込む音だけ妙に大きい。
ジョンは、俺たちの表情に気づき、
ストップモーションのように視線を落とした。
そして、まるで自分の皮膚ではないものを見るように、固まっていた。
ジョンの両手には、緑色に変色した噛み痕が“異物のように”取り憑いていた。
カレンの肩が震えた。
「……ジョン……?」
死の宣告を受けたジョンはゆっくり顔を上げ、
俺たちを安心させるように、微笑んだ。
だがその笑みの奥には、
確かに──
覚悟の影があった。
◇今回の成果◇
・死亡回数:39
・獲得スキル:なし
・メモ:六階の大量ゾンビは突破不能レベルだ。何か見落としている?




