おいおい、違うじゃ
「おいおい、違うじゃないか」
男の返答を聞いて孫はケンに言います。
「い、いや、ここで合ってるはず」
ケンも慌てながら辺りを見渡しました。
「あ、亥神様の鍛冶屋で合ってますよ。
ただ、おらは亥神様ではないので」
そんな2匹を見て男は慌てて答えました。
「なんだそういう事ですか」
桃太郎は納得したように頷きました。
「ほら、合ってるではないか」
「なら、焦るなよ」
犬猿の仲の2匹は、桃太郎の後ろで仲良く言い争っています。
「いいんですか?」
「はい、いつもの事なので」
ははと苦笑しながら答える桃太郎。
「それで、亥神様は?」
「ああ、奥にいらっしゃますよ。
ただ、今は寝てるかも」
男の言葉に空を見上げる桃太郎。
空高くにはお日様が、いつものように輝いていました。
「おっしょうさま、お客さんですよ」
男はロウと名乗りました。
そして、ロウに案内されて小屋に入ると桃太郎は、思っていた以上に広く感じました。
「亥神の術で部屋を大きくしてるようですね」
ケンはそう桃太郎に教えてくれます。
「おっしょうさま~?」
ロウは部屋の奥のドアを開けます。
そして、中を覗きました。
「はぁ、すいません。
ぐっすり寝てるようです」
ロウはこちらに来て申し訳なさそうに言いました。
「分かりました。
わたしが起こしましょう」
ケンが奥の扉へと向かいます。
ロウはケンが入れるように扉を開けました。
そして、ケンはドアの外から大きく息を吸ってるように見えます。
「起きんかぁーー!」
凄まじい音量の声を部屋の中へと放ちました。
「ぐぉーー!!」
ドダン!
部屋の中で凄まじい音がなりました。
ケンはふんと鼻を鳴らしながら、桃太郎達の元に戻り座りました。
「な、なんだぁ~
さっきのは~」
ドシンドシンと部屋の中からこちらに、何かが向かってきます。
「すごいなぁ、おっしょうさまを起こすなんて」
ロウも扉から離れてこちらに来ました。
ガシッ
ドアの中から巨大な手がドアの上側を掴みます。
そして、あり得ないことに、そのままドアをぐぐっと上に持ち上げました。
ドアや壁はまるでゴムのように伸びます。
「なんだぁ~
ロウ~
客かぁ~」
間延びした声で扉の奥から出てきたのは、天井まで届くほどの巨大な体を持つ亥頭の人間?でした。
「久しぶりだな、亥神」
「おう、犬神かぁ~
なるほど~
あの声聞き覚えがあると思ったぞ~」
亥神は大笑いしながらこちらに来て、ドスンと座ります。
「笑い声まででかすぎてうるさい」
孫は耳を抑えながら言いました。
「ん~?
なんだぁ~
猿神は小さくなったかぁ~?」
「俺は猿神じゃねぇ、孫悟空様だ」
「ん~
どっかで聞いた事あるような~
ないような~
ま、いいか~
それより~、何のようだ~
犬神よ~」
亥神は孫の名前を聞いて少し頭をひねりましたが、すぐに諦めてこちらに顔を近づけながら聞いてきます。
桃太郎の横で孫がぶつぶつ言っていましたが、桃太郎は苦笑いをした後、亥神の目を見ました。
「初めまして、私は桃太郎という者です。
あなたにある物を作って欲しくて伺いました」
桃太郎はこれまでの経緯と作って欲しい品を伝えます。
「なるほどなぁ~
それで犬神はここに案内したかぁ~」
亥顔は顎を右手で擦りながら考えます。
そして、ドンと胡座をかいた足を叩きました。
「分かった~。
その品を作らせてもらう~
ただ~し、材料はそちらで用意してもらおうかぁ~」
「材料?」
「そうだ~
何が必要かは~
自分で調べろ~」
「自分でですか?」
「ああ~
犬神なら分かるだろう~?」
亥神は犬神を見ました。
「アイツに聞けって事か」
犬神の言葉に亥神はニカッと笑いました。
「分かりました。
では、材料を見つけたらまた来ます」
「おお~
待ってるぞ~」
亥神は楽しみなようでウンウンと頷きます。
「おっしょうさまの仕事が久しぶりに見れるのは嬉しいな」
ロウも嬉しそうです。
「では、早速行こう」
桃太郎は立ち上がり、出入口に向かおうとしました。
「まて」
その桃太郎を孫が止めます。
「?」
「なんか嫌な感じが近づいてきてる」
「確かに」
ケンも外を警戒しています。
トントントン
出入口のドアが誰かにノックされました。
急いでいるように何回も叩いています。
「亥神様、亥神様。
助けてください」
小さい声が外から聞こえます。
「行こう」
桃太郎はすぐに出入口に向かいました。
「お、おい、ちょっとは警戒しろ。
ったく」
孫は悪態をつきながら桃太郎の後に続きます。
ケンも亥神を見て頷いた後、続きました。
ガチャ
ドアを開けるとそこには1匹の鼠がいました。
「え?
あれ?
亥神様は?」
「それよりどうしたんだい?」
桃太郎は鼠に聞きました。
「え?
あ!
鬼です。
蛇の頭の鬼が追っかけてきて」
桃太郎達は外に出て扉を締めます。
「鼠神の眷属だな」
「は、はい」
「わたしの背中に隠れるんだ」
ケンは神の姿に変わりました。
「おお、犬神様でしたか、ありがとうございます」
鼠はケンの背中の毛の中に入り込みました。
「おうおう、まさか鼠を追っていれば、大きな犬に出会うとはな。
おまえ、犬神だな」
森の中から、蛇の頭をした鬼が現れました。
「これは思った以上の収穫だ。
俺は蛇鬼。
おまえを封じさせてもらうぞ」
チロチロ舌を出しながら蛇鬼が言いました。
桃太郎は刀を構えます。
しかし、今の桃太郎の武器では式神は倒せません。
「ま、今回は俺がやってやるよ」
1歩前に出る孫。
「ああ?
なんだ?
猿神?
アレは封じたはずだぞ」
「ふん、そんな間抜けな神と間違えるな。
俺は斉天大聖孫悟空だ。
覚えてろ!」
「は、笑わせる天にも等しい大聖者かぁ?
ただの猿の癖に」
「お前なぁ、この島国に来てから、俺の号をバカにするヤツばかりで、いい加減頭にきたぞ!
おまえで憂さ晴らししてやる!」
「はは、俺様は式神の中でも3本の指に入る力を持っているのだ。
嘗めるなよ」
蛇鬼はそういって1本の剣を抜きました。
くんと蛇鬼が力を入れるとその刀はカシャンと鞭のように変化しました。
「なんだあれ?」
不思議な武器に桃太郎は驚きました。
「蛇腹剣だな。
昔、おっしょうさまが打ってるのを見た事ある」
「うわ、ロウ」
出入口をこっそり開けて、外を覗いていたロウが教えてくれました。
「あれは蛇神が使う武器です。
封印した後に奪ったのでしょう」
ケンは蛇鬼を睨みながら言いました。
「なんだ、面白い物を持ってるな」
孫は嬉しそうに笑い、如意棒を取り出し構えました。
「はは、なんだ?
ただの鉄の棒をどこから出した?
まぁ、いい。
この神の武器で切り刻んでやるよ」
「そいつは楽しみだな」
ダン!
孫は勢いよく前に出る。
その孫に向かって蛇腹剣を繰り出す蛇鬼。
カシャン
蛇のようにしなりながら、蛇腹剣は孫に襲いかかった。
「よ」
それを難なく避ける孫。
しかし、蛇鬼が手首をひねる事で、蛇腹剣は方向を変えて孫の足に絡み付く。
「ははは、バカが。
これでおまえの足はもらったぞ!」
蛇鬼は勝ち誇ったように笑い、ぐっと蛇腹剣を引いた。
「!!」
桃太郎は目を背ける。
明らかにアレは足を無惨に切り裂く行為。
しかし、孫からは何も声が聞こえかった。
「な、なんだ?」
蛇鬼が驚くような声を出した。
桃太郎は改めて孫を見る。
孫の足は何もなっていなかった。
「は!
そんな刃で斬られるほど、柔な体はしてないんだよ。
それにその剣の使い方もなっちゃいない」
「なんだと!
痩せ我慢を!!」
孫の言葉に怒り、蛇鬼は蛇腹剣を孫に何度も打ち込む。
しかし、孫は平然と歩きながら蛇鬼に近づいていった。
「な、なんだおまえ!!」
焦りながら攻撃のスピードを上げる蛇鬼。
「なんだ、これも必要なかったな」
蛇腹剣が体のあちらこちらに打ち込まれながら、孫は手に持つ如意棒を一瞬で耳にしまった。
「おまえ!!」
それを見て激怒する蛇鬼。
ガ!
「な、なに!!」
蛇鬼の怒りの一撃を孫は難なく受け止めた。
「お、おまえ、刃を素手で握るだと!」
「言ったろ、使い方がなってないって」
ぐっと蛇腹剣を引っ張る孫。
「うぉ!」
引っ張られるとは思ってもみなかった蛇鬼は、孫に蛇腹剣を取られてしまった。
「ふぅん」
孫は手に持つ蛇腹剣を振りながらカシャカシャ動かす。
「なるほどな。
分かった。
なら、これの使い方を教えてやるよ」
蛇腹剣を剣の形にしたまま、前に1歩進む孫。
「や、やめろ近づくな」
蛇鬼は両手を前に出して後退りする。
そんな蛇鬼を睨みながら孫はまた1歩前に出た。
「近づくなと言ってるだろうが!!」
蛇鬼はガパっと口を開き、毒液を孫に向かって吹き出した。
「これで溶けてしまえ!!」
蛇鬼は笑うような声で叫ぶ。
しかし、孫はすぐさま蛇腹剣を鞭状に変えて、目の前で回した。
毒液は蛇腹剣に弾かれ霧散する。
「な、鉄をも溶かす毒液だぞ!?」
驚く蛇鬼を孫はすれ違いざまに、一瞬で剣に戻した蛇腹剣で斬り捨てた。
「な、なんで、斬れるんだ」
「言ったろ?
使い方がなってないって。
この武器は神が使う武器だ。
武器に神の力を纏わすことで本領を発揮できる。
ただ、振り回すだけじゃ、子どもと同じなんだよ」
ブン
孫が蛇腹剣を強く地面に振ると同時に蛇鬼は、何の言葉も残さずに霧散した。
後には人形の紙が1枚地面に落ち燃えた。
「す、すごい!
やった、孫」
桃太郎は急いで孫の元に行きました。
ケンもいつもの姿に戻り、鼠を背中に乗せてついていきます。
ロウも小屋から出てきました。
「アレで式神の3本の指に入るヤツなら、余裕だろこの戦い」
蛇腹剣を見ながらため息をつく孫。
「アレはまだ奥の手を使っていなかったようだな。
驚きすぎて力を出せずにやられたみたいだ」
ケンは孫に言いました。
「ま、何にせよ、勝ってよかった。
ありがとう孫」
「別に憂さ晴らしにもならなかった。
ほら、返すぞ」
孫はこちらに向かってくるロウに蛇腹剣を投げます。
ロウは上手く受け取ると不思議そうに蛇腹剣を見ました。
「おまえのお師匠様が打ったんだろ?
だったら、返すのが筋だ。
俺には如意棒があるし、桃にはその武器は合わない」
「分かった。
おっしょうさまに渡しとく」
ロウは納得したように頷きます。
「それで、今から向かうところだけど」
桃太郎が孫とケンに言いました。
「それですが、ちょうどいい者が来てくれました」
ケンはそう言うと、自身の背中に視線を向けます。
桃太郎と孫もケンの背中を見ました。
「え?
あたしですか?」
みんなに見られて鼠は驚いたような顔をして、3人を見渡しました。
「桃竹伝 ~桃の章~」
6話になります。
今回は式神、蛇鬼との戦いでした。
ま、孫悟空が出てしまうと簡単に終わってしまうのですが、犬神が言うように式神達も奥の手を持っているようです。
一筋縄ではいかないようになるのでしょうか?
では、次回は新たな十二支神の登場です。
お楽しみに




