桃太郎は黙々と
桃太郎は黙々と歩きました。
住んでいた山を抜け街道を歩き、また山に入りました。
(確かこの山の中腹に神社があったな)
山道は神社があるお陰か、綺麗にされていました。
桃太郎はその道をゆっくりと歩きます。
木々の隙間から光が差し、穏やかな気分にもさせてくれる道でしたが、ふと道端で白い何かがあるのに気がつきました。
桃太郎は警戒しつつ近づきました。
その白い何かは1匹の犬でした。
良くみると後ろ足に引っ掻き傷があり、息も荒く横たわっています。
桃太郎はすぐに森に入りました。
森には薬になる草も生えています。
山育ちの桃太郎は両親からそういう事も教えられていたのです。
桃太郎は傷に効く薬草を見つけ出して、犬の元に戻りました。
そして、傷口に張った後、手拭いで薬草を固定する為に縛りました。
「後はこれをお食べ」
桃太郎は母親から渡されたきび団子を1つ出して、犬の口に持っていきました。
犬はうっすらと目を開け、桃太郎を見ます。
そして、ゆっくりときび団子を口に入れるとモグモグと食べました。
「少し休めば歩けるようになると思うよ。
それじゃ」
桃太郎は犬の頭を優しく撫でた後、神社に向かいました。
「なんだ?
この感じ?」
桃太郎は神社に近づくにつれて、嫌な感じが強まっていくのを感じました。
桃太郎は片手を刀に当てて、辺りを警戒しながら進みました。
「!」
桃太郎が神社が見える場所に来た時、あるモノが見え、すぐに近くの草むらに隠れました。
(なんだ?
アレは虎の化物か?)
神社の前には人型で頭が虎の大きな化物が、周囲を伺っていました。
何かを探しているように見えます。
(もしかしたら、アレはかぐやを拐った化物の仲間?)
桃太郎は父親からもらった刀をぎゅっと握りました。
父親から化物には刀は効かないと言われていましたが、目の前にかぐやを拐った化物の仲間がいると考えると、どうしてもかぐやをどこにやったのか聞いてやるという気持ちでいっぱいになりました。
ガサ!
「誰だ!」
草むらから出た音に気付き虎の化物は、桃太郎の方を向いて、叫びました。
「おまえは牛の化物の仲間か!」
桃太郎は刀を抜いて虎の化物に向けて言いました。
「牛の化物…?
ん?
牛鬼の事か?
なら、そうだな」
虎の化物はニヤリと笑います。
「俺様は虎鬼だ。
おまえ、要を知ってるやつか?」
「要?」
「ああ、そういや、アレにも名前があるとか言ってたな。
なんだぁ、か…」
「かぐやか」
「そう、それだ、かぐやだ」
虎鬼のバカにした言い方に桃太郎は怒りが沸々と沸き立ちます。
「おまえはアレの知り合いか?」
「かぐやは俺の妹だ!」
桃太郎は叫びます。
「なんだ、おまえアレの兄弟かぁ…」
虎鬼は桃太郎をまじまじと見つめました。
「なら、死ね!」
そう言った虎鬼は一気に桃太郎との間合いを詰め、大きな手を振り上げました。
その手には太くて長い鋭い爪も生えています。
「!」
桃太郎は咄嗟に刀でその攻撃を受けようと構えました。
そして、振り下ろされる虎鬼の手。
しかし、爪が桃太郎に届く前に、何かが草むらから飛び出し桃太郎にぶつかり一緒に転がりました。
ドゴォン!
凄まじい音とともに地面がえぐられました。
桃太郎はそれを確認しながらすぐに立ち上がります。
もし、あのまま虎鬼の手を受けていたら桃太郎は一溜りもなかったでしょう。
ちらっと桃太郎は横を見ました。
そこには先程助けた犬がいました。
「助かったよ、ありがとう」
返事は期待していませんでしたが、桃太郎は犬にお礼をいいました。
「いえ、助けていただいたご恩返しです」
犬はそう答えました。
「え?」
驚く桃太郎に、口を大きくして笑う虎鬼。
「どこに隠れてたのかと思ったぞぉ、犬神ぃ~」
虎鬼が犬に向かっていいました。
「え?
犬神?」
「詳しい話は後で、今は目の前に集中を」
「わ、わかった」
喋る犬に、犬神?
桃太郎は訳が分かりませんでしたが、すぐに切り替えて刀を構えます。
自分を助けてくれた犬です。
(今は信じて戦わないと)
そう桃太郎は考えました。
「はぁ、いぬころが出てきたが、案外元気そうだし、ならこれだ」
虎鬼は胸元から札を複数取り出して、目の前に投げました。
すると不思議な事にその札は、一瞬で醜悪な顔の小さな鬼へと変わりました。
「ほら、いけ、小鬼ども。
あの人間と犬を食ってしまえ」
虎鬼の号令で無数の小鬼が桃太郎達に襲いかかりました。
たちどころに大乱戦。
桃太郎と犬はなんとか小鬼の攻撃を凌ぎます。
しかし、桃太郎の振るう刀は小鬼を傷つける事はできません。
(どうしたら…)
桃太郎は刀と体術で攻撃をなんとか凌ぎながら考えました。
しかし、いい案がうかびません。
(この数なら、アレを使えば一掃できるが、後のヤツを退けられない。
どうしたら…)
犬もまた桃太郎と同じくこの場をどうするか考えていました。
そして、犬が桃太郎を見た瞬間、何かを感じました。
(あれは神気?
どうして人が?
だが、それなら)
「恩人殿!」
犬が桃太郎に向かって叫びます。
「神気を使ってください」
「?」
犬の言葉を桃太郎は理解できませんでした。
「どうやって使うんですか?」
桃太郎は犬に問いました。
「心で誓うのです。
誰かを助けたい。
誰かを守りたいと」
「!!
小鬼ども、早くその人間を食い殺せ!」
犬の言葉に反応して虎鬼が叫びました。
(誰かを…
その言葉は…)
犬の言葉に桃太郎はある事を思い出していました。
それは父親から【竹取流】の技を全て学び終えた日。
「これで全ての技を習得したな。
では、最後に【竹取流】の奥義を教えよう」
「はい、お願いします」
「ま、そうかしこまるな。
竹取流奥義は技にあらず。
誰かを助けたい。
誰かを守りたい。
という心構えにある。
その心構えで放つ竹取流の技はすべて奥義となる」
そう言って微笑んだ父親の顔。
(まさか、父上に言われた事と同じ事を聞くなんて)
桃太郎は心で唱えました。
(誰かを、いや、かぐやを助けたい。
誰か、いや、共に戦ってくれている犬を守りたい。
それだけの力がもし眠っているなら、今起きてくれ!)
桃太郎の誓いにそれは反応しました。
桃太郎は自分の中から今までに感じた事のない力を感じました。
それは桃太郎の奥底から沸き上がり、手に持つ刀に流れていきます。
(これならいける)
桃太郎はそう確信しました。
そして、大きく後ろに下がった後、目の前の小鬼達を視界に捉えました。
「竹取流 節斬り!」
パカン!
桃太郎の放った技は、目の前の小鬼達を横真っ二つに斬りました。
斬られた小鬼達はそのまま霧散。
残るはあの虎鬼ただ1人。
「やるなぁ~」
余裕の表情の虎鬼。
そんな虎鬼に桃太郎は間合いを詰めて飛び上がりました。
「竹取流 唐竹割り!」
桃太郎の鋭い一撃が虎鬼に放たれます。
しかし。
パシッ
「甘いなぁ~」
虎鬼はその一撃を2つの指で受け止めました。
「少し神気が使えたからといって、まだまだひよっこなんだよ!!」
虎鬼はそのまま、桃太郎を投げ飛ばします。
そこに、犬が飛び出して桃太郎を支えながら地面に転がりました。
「あ、ありがとう」
犬のお陰で大きな怪我を免れた桃太郎。
「後はわたしに任せてください」
犬はそう言うと虎鬼の方へと向かいました。
「おうおう、いぬっころのおまえに、何ができる?
神気も大幅に落ちたおまえに勝ち目はないぞ」
虎鬼は大きく笑います。
「そうだな。
さっきはそのせいで痛手を負ったが今は違う。
本来の姿のわたしをなめるなよ!」
犬が大きく空に向かって吠えると、瞬く間に大きくなりました。
その大きさは虎鬼と同じぐらい。
「な、なぜ、神の姿になれる!?」
驚く虎鬼。
「恩人殿にもらった団子のお陰でな」
犬は大きく息を吸い込みました。
「夜明けの遠吠え!」
凄まじい音量の遠吠えが、虎鬼を襲います。
地面に足の爪を突き刺し耐える虎鬼でしたが、とうとう耐えきれずに吹き飛びました。
「くそう、覚えてろぉ~」
虎鬼はそう言い残して、遠くへ吹き飛んで行きました。
力を使い果たしたのか、徐々に大きさが戻る犬に、桃太郎は駆け寄りました。
「ありがとう、守るつもりだったのに」
「いやいや、十分に守っていただきました。
恩人殿」
「恩人殿だなんて。
私は桃太郎と言います」
「では、桃太郎殿で」
「いや、なんか堅苦しいです」
「では、桃殿で」
「…ん…わかった、それで」
桃太郎は少し考えた後、苦笑しながら答えました。
「それで君は犬神様でいいのかな?」
「いえ、それこそ堅苦しいです」
「じゃ、犬だからケンとか?」
「はい、それでお願いします」
「じゃ、ケン様ね」
「桃殿…」
「はは、冗談だよ」
困った顔のケンを見て桃太郎は笑ってしまいました。
「さて、いろいろと話したい事や聞きたい事はあるとは思いますが、ここにいればまた、鬼が来るかもしれません。
近くの村に行って一旦休みましょう」
「そうだね、ケンはこれからついてきてくれるのかい」
「ええ、腰に付けたきび団子とても美味しく助かりました。
この恩は返さなければいけませんので」
「そんなに?」
(母上のきび団子、凄いな)
ケンの言葉に桃太郎は、きび団子を作った母親を思い浮かべ尊敬しました。
「では、行こうか」
「はい、桃殿」
こうして犬?を仲間にした桃太郎。
一行は1度近くの村へ向かう事になりました。
桃竹伝、3話になります。
桃太郎、待望の犬をお供に。
でも、普通の犬ではないみたいです。
また、式神達も出てきました。
虎頭の虎鬼
牛頭は牛鬼
となります。
さて、桃太郎一行に何が待ち構えているのか?
次のお供はお猿?
それは次回のお楽しみ。
では、また。




