パカン、パカン
パカン、パカン
竹藪の中で軽快な音が響いていました。
桃太郎です。
桃太郎は鉈を持って次々と竹を切っていました。
普段とは違う1人作業。
桃太郎は少し興奮気味で竹を切っていました。
そんな時です。
ピョンピョンと1匹の雀が竹藪から現れました。
桃太郎はその雀を見ましたが、特に気にする事なく竹を切ります。
パカン、パカン
するとまたまた1羽の雀が竹藪から飛び出してきました。
今度はピョンピョンと桃太郎の方に向かってきます。
桃太郎は竹を切るのを止めて、雀を見ました。
「何かようなのかい?」
桃太郎は腰を屈めて雀に聞きます。
すると、雀は嘴をパクパク動かして喋り始めました。
「お山の中で火がボウボウ。
かな切り音がガッチャガチャ。
人が拐われ涙ボロボロ」
雀はそう言うと竹藪に帰っていきました。
「ん?」
雀が言った事を理解できない桃太郎。
すると残っていた始めに出てきた雀が言いました。
「桃太郎さん、早くお家に帰った方がいいよ、鬼が来る」
雀はそう言って身震いした後、早々と竹藪に逃げるように消えていきました。
桃太郎は後で消えた雀の言葉と、先の雀の言葉を考えました。
(山の中で火?
かな切り音?
人攫い?
家に早く帰る…)
桃太郎は切った竹をそのままに、急いで家へと向かいました。
嫌な予感が桃太郎の頭の中をよぎります。
(どうか嫌な予感、外れてくれ)
桃太郎が家に着いた時、目の前には黒く焼け焦げた家がありました。
「父上!
母上!」
桃太郎は大きな声で叫び、家へと入ろうとしました。
その時。
「まて、入るな…」
弱々しい声でしたが、聞きなれた声が庭から聞こえます。
桃太郎はすぐに庭へと向かいました。
「父上。
それに母上も」
庭では肩を抑えてうずくまる父親と、それに寄り添うように母親がいました。
「大丈夫ですか?
何があったんですか?」
桃太郎は父親にかけより声をかけます。
「かぐやが拐われた。
くそ!」
父親はゴンと地面を刀の柄で鳴らしました。
「悔しいけど、仕方ないわ。
あれは斬れるモノじゃなかった」
母親は涙を流しながら父親の背にもたれ掛かります。
「まずは傷の手当てを…」
桃太郎はかぐやの事を気にしながらも、父親を焼け焦げていない縁側へと、肩を貸して運びました。
「崩れるかもしれないから慎重にな」
父親の言葉に桃太郎は頷いて、家に入り薬箱を取りに行きました。
母親に薬箱を渡し、桃太郎は父親の隣に座ります。
「突然アレが襲ってきた」
父親は傷の手当てをうけながらゆっくりと何があったのかを話し始めました。
桃太郎が竹切りに向かった後、父親は屋根へと登り壊れた場所を修理していました。
母親は家に送られてきた手紙を見ながら「はぁ」っとため息をつきました。
その手紙の大半は、かぐやを家に迎えたいという求婚の手紙でした。
「まだ早いと思うけど、私は」
母親は少し怒ったように言って手紙を選別していきます。
こんな事になった原因は、母親がかぐやを町への買い物に連れていった事でした。
かぐやは誰もが認める程に大変美しい女性に成長していました。
スタイルも良く気遣いもでき、優しさもある。
誰もが振り返る程でした。
そんなかぐやが町に繰り出せば噂にもなります。
噂は広がり、都まで届く程になっていたのです。
それから、このように手紙が届くようになりました。
「おかあさん、どうかした?」
手紙を選別している母親に、台所から顔を覗かせてかぐやが聞きました。
「ん?
何でもないですよ。
また、熱烈なお誘いの手紙が来てるだけ」
母親は呆れたように答えました。
「そうなの?
どうして、私なんかがいいのかしら」
かぐやは分からないといった表情で答えた後、洗濯籠を持って庭へと出ました。
その時です。
アレがやって来たのは…
「きゃぁぁぁー!」
庭からかぐやの叫び声が聞こえてきました。
「何をしている!
母さん、刀を!!」
屋根から父親の声が聞こえました。
母親は急いで床の間の刀を持って庭に出ました。
父親は見たこともない大きな怪物の前に立っていました。
母親は刀を父親に渡します。
「下がっていてくれ」
そう父親に言われて下がる母親。
「かぐやをどうする気だ!」
叫ぶ父親に化物はニタリと笑いました。
人型で巨大な化物は、小脇にかぐやを捕まえていました。
気絶しているの、かぐやは動きません。
牛の顔をした化物がゆっくりと口を開きます。
「要はいただいた」
牛の化物はしわがれた声で言いました。
父親は一瞬で刀を抜いて化物との間合いを詰め逆袈裟斬りを放ちます。
しかし、手応えはなく刀は化物を素通りしました。
「!!
まさか!」
驚く父親の肩を牛の化物は蹴り飛ばします。
吹き飛ぶ父親。
牛の化物はやはりニタニタ笑いながら、口を膨らませました。
そして、家に向かって炎の玉を吐き出したのです。
家の屋根は燃え上がりました。
母親は父親の側に駆け寄ります。
その光景をあざ笑いながら牛の化物は、かぐやを拐いその場から立ち去りました。
「刀が効かない化物…」
桃太郎は父親の話を聞き、得体のしれない化物の事を考えます。
「あれに良く似たモノを1度目にしたことがある」
「良く似たモノ?」
父親の言葉に桃太郎は聞き返します。
「ああ、アレは都に住む陰陽師が使う式神だ」
「式神ですか?」
桃太郎は初めてその名を聞きました。
「ああ、ある依代を使って実体のない化物を作り出す。
実体のない癖にこちらには触れられる」
(そうか、それで父上の刀が効かなかったのか)
父親の話に桃太郎は納得しました。
「父上、要とは何か分かりますか?」
桃太郎は牛の化物が言った言葉を父親に聞いてみました。
ゆっくりと首を横にふる父親。
母親も同じでした。
「ただ、要と言っていたんだ。
かぐやはまだ無事のはずだ」
父親はそういって立ち上がろうとしましたが、吹き飛ばされた衝撃がかなりのものだったのでしょう、すぐさま座り込んでしまいました。
そんな父親の姿を見て、桃太郎は決心しました。
「父上、母上。
どうか私にかぐやを助けに行かせてください」
桃太郎の真剣で真っ直ぐな目を見て、2人は言葉を飲み込みました。
本当は行かしたくない。
どんな危険が待っているか分からない。
でも、目の前の自慢の息子は自分でそう決めた。
「あなた」
母親は悲しい目をして父親を見つめましたが、その目の奥には、自分の息子を信頼する心が現れていました。
「ああ、俺達の息子はこんなにも立派になったんだな」
父親はゆっくりと立ち上がりながら頷きました。
「わかった。
桃太郎。
かぐやの事を頼んでいいか?」
「はい」
父親の言葉に桃太郎は真っ直ぐな目で答えました。
「それじゃ、少し待ってて」
母親は何かを取りに家の台所に向かいます。
台所は無事でほとんど焼けていませんでした。
「桃太郎。
これをおまえに託す」
父親は刀を桃太郎に差し出しました。
桃太郎はその刀を受け取ります。
「それは俺の家に代々伝わる竹斬丸という刀だ。
【竹取流】の免許皆伝者に受け継がれる物だが、俺は家を継がなかった。
だけど、この刀だけは俺の父親に持たされてな。
だから、この刀をおまえと共に連れていってくれ。
おまえには、この刀を使う資格はある」
「はい、大事に使います」
桃太郎は受け取った刀をぎゅっと握りました。
「ただ、式神はその刀では斬れない。
特別な刀が必要になるだろう。
かぐやを助けに行く前に、この近くにある神社に行ってみるといい。
何か聞けるかもしれん」
「はい」
頷く桃太郎。
「おまたせ」
そこに母親がやって来ました。
「まずはこれ」
母親は服一式を桃太郎に渡します。
「これは?」
「あなたのお父さんが昔着ていたものですよ」
母親はそういって微笑みます。
触った感じとても丈夫な素材でできているのが、桃太郎には分かりました。
「試合の時に着ていたやつだよ」
父親は少し照れながら言いました。
「あと、これを持っていって」
母親は布袋を桃太郎に渡しました。
「これは?」
「きび団子よ」
「団子ですか?」
桃太郎は中を確認しました。
確かに美味しそうな団子がいくつか入っています。
「それは特別な団子だぞ」
父親は桃太郎に言いました。
「はい、あなた。
1つ」
母親は紙に包んだきび団子を父親に渡しました。
「ありがとう」
お礼を言ってきび団子を食べた父親の体から擦り傷が瞬く間に消えていきました。
「え?
どうなってるんですか?」
驚く桃太郎。
「実はな。
母さんは都で一番の団子屋の娘で、その団子屋には代々受け継がれてきた秘伝の薬団子があるんだ。
その団子を食べるとたちまち傷は治り、力が漲る凄い団子だ」
「でも、結局家は継がずにお父さんと駆け落ち同然に、家を出たんだけどね」
母親はそういって笑いました。
桃太郎は親の知らない新事実を聞いて少し戸惑いましたが、どんな過去があろうが自分達を育ててくれた親には変わりありません。
桃太郎は両親にお礼をいいました。
「【竹取流】の奥義を忘れずにな」
「必ず2人で帰ってきなさい」
服を着替えて腰に刀ときび団子を着けた桃太郎は、2人に向かって力強く頷きました。
「いってらっしゃい」
「はい、いってきます」
2人に見送られて、桃太郎は連れ去られたかぐやの救出に向けて歩き出しました。
まず向かうは父親に聞いた神社。
そこで式神に対抗できる武器の情報が手に入るかどうかはまた次のお話。
桃竹伝、2話になります。
桃太郎とかぐやの両親の新事実。
父親は元都最強の剣術【竹取流】の次期棟梁で、都で敵無しと言われた最強の剣豪。
母親も都で有名な老舗の団子屋【きび】の長女、代々受け継がれてきた、体にいいけど激マズの薬団子を独自で改良して、体に滅茶苦茶良くて滅茶上手いに変えた【きび】歴代1位と言われる才女でした。
2人がどうやって知り合って駆け落ち同然になったかは、また別のお話。
では、また次回お楽しみに




