むかしむかしあるところに
むかしむかしあるところに若い夫婦がおりました。
夫婦はある事情から、人里離れた山奥に住んでいました。
しかし、そんな場所でも2人は仲良く楽しく暮らしていました。
ただ、2人には1つだけ悩み事がありました。
それは、2人はなかなか子どもを授かる事ができない事でした。
そんなある日、2人はいつものように朝御飯を食べて、それぞれの用事をする為、神棚に手を合わせた後、出掛けていきました。
男は竹藪に竹切りに、女は川へ洗濯に行きました。
男が竹藪に入り、腰の刀を抜いてパカンパカンと竹を切っていると、竹藪の奥に不思議な光る竹を見つけました。
男は恐る恐る近づいて見ると、その光る竹は斜めに切られており、その竹の中には小さな女の赤ん坊が入っていました。
「!!」
それを見て驚く男。
周囲を確認しましたが、赤ん坊の親は見つかりません。
「うわぁ~ん、うわぁ~ん」
泣き止まぬ赤ん坊を、男は手拭いでくるみ大切に抱き上げました。
するとどうでしょう。
先ほどまで泣いていた赤ん坊はぴたりと泣き止みました。
「あ、あぁ」
小さな両手を男に向けて伸ばし笑う赤ん坊。
男はその赤ん坊がとても愛らしくなり、家に連れて帰る事にしました。
さてその頃、女は川に来て洗濯を始めていました。
2人分の洗濯物です。
春先とはいえ、汗をかいて喉が渇いてきました。
そんな時、川上から桃が流れて来るのが見えました。
女はその美味しそうな桃が欲しくなり、桃に向かって言いました。
「美味しい桃ならこっちにおいで。
美味しくないなら、あっちにいって。
なんて、桃に言っても仕方ないか」
女はそう言った後くすりと笑ってまた洗濯を始めました。
すると、洗濯している女の手元に桃が流れてきたではありませんか。
「え?」
女は驚いて手元の桃を拾い上げました。
「美味しいのかな?」
女は桃の皮を剥いて、恐る恐るひと齧り。
口の中にとても甘い味が広がります。
「美味しい…」
女はあっという間に桃を食べてしまいました。
「あ」
食べた後に女はこんな美味しい桃を男にもあげればよかったと後悔しました。
「ふぅ」
ため息をついた後、女は残りの洗濯物に取りかかろうとしました。
すると、そこに川上から今度は一抱え程の桃が流れてきていました。
女は先程と同じように桃に向かって言いました。
すると、その桃は不思議な事に女の方へと流れてきたではありませんか。
女は不思議に思いながらその桃を優しく抱えあげます。
思ったより重くはありませんでした。
女は洗濯物を急いで済ませて、桃を洗濯樽に入れると家へと帰りました。
女が庭で洗濯物を干していると男が帰ってきました。
「ただいま」
「お帰りなさい」
女は庭から家へと入ります。
「お、おい、ちょっとこっちに来てくれ」
玄関で男は女を呼びました。
「どうしたの?」
女は玄関に向かいます。
そこで女は男の腕の中で寝息をたててる赤ん坊を見ました。
「え?
なんで?」
困惑する女。
男は慌てて女に事の顛末を話しました。
「まさかそんな事が…」
女と男は家に入り、果物籠の中にその赤ん坊を入れました。
「本当に小さいね」
果物籠で寝息をたてる赤ん坊を、女は愛らしく感じました。
「あ、そうだ」
女は思い出したように男に、今日あった不思議な事を話しました。
「へぇ、そんな事が…」
男は女が体験した話に驚きます。
今日は2人とも不思議な出来事にあったからです。
「桃、食べてみる?」
「ああ、いただこう」
女は男の返事を聞いた後、台所から桃を持ってきました。
「確かに立派な桃だな」
男は女が持ってきた包丁で桃を切ろうと刃を近づけました。
すると不思議な事に桃が真っ二つに割れたではありませんか。
そして、中には小さな男の赤ん坊がおりました。
2人はびっくりして目を丸くしました。
赤ん坊は突然の明るさにびっくりしたのか、大きな声で泣きました。
それを聞いて慌てる2人。
すると、その鳴き声につられてか果物籠の赤ん坊も泣き出します。
男はどうするか迷った後に、目の前の桃が目に入りました。
男は素早く桃を食べやすい大きさに切った後、2人の赤ん坊に咥えさせました。
すると、不思議な事に赤ん坊達は泣き止み、ちゅちゅと桃を吸い始めました。
「いきなり2人の親になっちゃったね」
女は男の赤ん坊を抱きながら言いました。
「ああ、不思議な事もあるもんだな」
女の赤ん坊を抱いた男は優しい笑みをうかべて答えました。
「名前、何にしようか?」
「そうだな…」
女に聞かれて男は女の赤ん坊を見ました。
「光輝く竹から見つかったから、かぐやなんてどうだ?」
「うん、それいいね」
女は男の腕の中で桃を吸う女の子見て微笑みます。
「そっちの男の赤ん坊はどうする?」
男に聞かれて女は腕の中の男の赤ん坊を見ました。
「そうね…
やっぱり、桃から生まれたから桃太郎かな」
女の言葉に「おまえらしいな」と答え男は笑いました。
「いいじゃない。
桃太郎」
少し頬を膨らませる女。
「ああ、悪いとは言ってない。
その子は桃太郎だ。
そして、この子はかぐや」
「うん、今日から私達の子どもだよ」
そう言って2人は2人の赤ん坊を見て優しく微笑みました。
それから2人の慌ただしい子育てが始まりました。
子育てが始めての2人は、山奥で相談する相手もおりませんでしたが、2人協力しながら赤ん坊の面倒を見ました。
子育ての中、一番困るのは赤ん坊の食べる物でした。
しかし、それは桃太郎が生まれた桃を切って与える事でなんとかなりました。
その桃は何日たっても腐らず、みずみずしいままの不思議な桃でした。
そして、その桃を飲む2人の赤ん坊はみるみるうちに大きくなりました。
1ヶ月が過ぎた頃。
2人の赤ん坊は赤ん坊ではありませんでした。
かぐやは拾われた時は果物籠に入る程の大きさでしたが、今やすっかり大きくなって父親の腰ほどまでになっていました。
また、桃太郎も同じ程になっておりました。
2人はたどたどしくはありましたが、言葉も喋りました。
「ちち、はは」と2人が言った時、夫婦の感激した顔は、お互い忘れられないものとなりました。
それから数ヶ月。
すっかり大きくなった桃太郎とかぐや。
夫婦と4人幸せに生活をしていました。
そんなある日、いつもの日課に桃太郎は父親と一緒に竹藪へと竹切りに向かいます。
「母上、行ってきます」
桃太郎は元気よく玄関から家の中へ声をかけます。
「は~い、いってらっしゃい」
家の中から母親の元気な声が聞こえてきました。
2人が家を出るとちょうど庭で鶏に餌をあげていたかぐやが顔を出しました。
「いってらっしゃい、桃、お父さん」
「ああ、いってくるよ」
「いってきます、かぐや」
2人はかぐやにそう答えて出掛けていきました。
2人が着いたのは父親がいつも訪れる竹藪。
2人は鉈を持ってパカンパカンと竹を切りました。
そんな時、桃太郎が不思議な竹を見つけました。
それはある部分が光る竹でした。
「父上、なんか変な竹がある」
桃太郎の声に父親が側にやって来ました。
桃太郎は竹を指差します。
「あ、また、あったのか」
父親は苦笑しました。
「何ですか、あの竹は?」
桃太郎の疑問に父親はその竹を切ってみるように言いました。
「あの光る竹の上側にある節の少し下側を、横一文字で切るんだよ」
父親に言われて、桃太郎は光る竹に近づきました。
ぐっと鉈を構える桃太郎。
そして
「やぁ!」
気合い一閃、桃太郎の横一文字が竹を切りました。
しかし、竹は倒れる事なく切られた事さえなかったように立っていました。
「腕をあげたな」
父親はそんな桃太郎を見て嬉しそうです。
そして、竹に近づき節の上を掴んで横にずらしました。
トスン
竹は切られた事に気付いたように綺麗に横へとずれました。
「え!?」
桃太郎は切った竹の断面を見て驚きました。
普通は中が空洞の竹に金がいっぱいに詰まっていたからです。
「初めは分からず真ん中を切ってしまってな。
少し手応えがあってびっくりしたんだよ」
パカンと父親は輝く竹の下側の節を切って、中の金を取り出しました。
「どうして金が?」
「さぁな、かぐやをここで見つけてから、たまにあるんだよ、この不思議な竹」
桃太郎の疑問に父親が答えます。
父親はこの金を売り、そのお金を生活資金として使っていた事を桃太郎に伝えました。
「かぐやを授けてくれた神様の施しだと思ってるよ。」
父親はそういって袋に金を入れて、桃太郎と2人切った竹を背負って家へと帰りました。
平和な日常が続くなか、今日も桃太郎は竹切りに出掛けます。
その日、父親は屋根の調子が悪いからと家に残る事になりました。
桃太郎1人の竹切り作業。
それは生まれて始めての体験でした。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
元気よく3人に送り出された桃太郎。
しかし、この元気な声を聞けるのが今日で最後になるかもしれない事を、その時、桃太郎は夢にも思っていませんでした。
始まりました桃竹伝。
学生時代から書いてみたいと思っていたお話です。
楽しく読めるそんな作品にしていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
また、感想がいただけたら励みにもなりますのでよろしくお願いします。
不定期掲載となりますが、頑張って書いていきますので見捨てないでくださいませ。
ではでは、また次回に