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成島シリーズ

成島くん日常譚 天才少女とナルシスト

作者: ヤマスマン

学園青春コメディです、お気軽にどうぞ。


「成島ー! 帰るぞー!」

「ハッ、俺を呼んだかい?」


俺の名前は成島愛己なるしま まなき

クラスのムードメーカーなイケメンで高校二年生だ。


「どこだ成島!見えないけど声だけ聞こえる!!」

「そうか、俺のあまりの透明感に、お前には見えなくなってしまったのか……」

「いや、小さくて見えなかったわ」

「嘘つけ! バッチリ目が合ってましたー! 成島アイに反応ありましたー!!」


クラスメイトの呼びかけに、俺は軽く肩をすくめつつ答える。


「これが何気ない俺の日常ってやつだな。」

「成島は今日もナルシスト全開で楽しそうだなー。置いていくぞー?」


こうして俺たちは帰路に着いた。



改札前で友人に手を振り、俺は駅裏のマンションへ向かって歩き出す。

夕暮れの風が制服を揺らし、街の喧騒が小さく混ざる。

――その時、足を止めた。


「なぁー、そこのお嬢さんちょっとお茶しない?」

「いや、結構です」


二人組のナンパ男に囲まれているのは、音羽美玲おとわ みれい

全校集会でたびたび表彰されるほどの天才美少女。

遅刻や欠席が多く、変わり者だと言う噂も絶えない。


「おいおい、無視すんなよー!」


片方の男が腕を伸ばす。


「……音羽さん、迎えに来てくれたんだ? ありがとう。」


音羽の隣に割り込み声をかけると、男たちは鳩が豆鉄砲を食ったような顔でこちらを見ている。


「君たち、僕の彼女に何か用かな?」

「はぁ? 何だチビ、彼氏ヅラしてんのか?」

「あはっ、マジだ!中坊かと思ったわ!」


二人は腹を抱えて大笑いする。

もし身長が高ければ俺の美しさで人死にが出かねないことがわからないらしい。


「あーもう、うるさい」


音羽がイラついたように一言呟いた瞬間――。


「ぎゃあああっ!?」


一人が股間を押さえて倒れ込む。


「な、何してるの、音羽さん!!?」


俺は絶叫しつつ隣の美少女と目の前の男を交互に見る。


「おい、大丈夫か!!?」


金的された方のナンパ男を心配そうにもう一人が支えていて、こちらを見てはいない。


「お、お音羽さんッ!逃げるぞ!!」


俺は音羽の手を強く握り、駅前の交番を目指して全力疾走する。


「……いや私は別に」

「いいから!交番まで走る!」


駅前の交番の灯りが見えたとき、俺は心底安堵した。


「ふぅ……大丈夫?」

「ええ、助かったわ……あなた、クラスの……えっと……」


顔は知っているが、名前が出てこないらしく、音羽は言い淀んでいる。


「あ、成島愛己です……名前を知らなかったとはいえ、この美しさは忘れられなかったみたいだね。困っている人を助けるのはイケメンの定め。いつだって君を助けるよ!」


音羽は少し逡巡し、こちらを見て微かに笑う。


「……ふーん、じゃあ、頼みたいことがあるんだけど、とりあえずうちに来てもらおうかな」



音羽に促され、俺たちは駅に直結したタワーマンションのエレベーターに乗り込んだ。


「えっと、何階?」

「最上階」

「おお、なるほど……」


もはや何も言えなかった。


エレベーターを出て、玄関を開けると、広々としたリビングに目を奪われる。

しかしそこかしこに散らかった服や書類、なんらかのパッケージ、段ボールが山積みになり足の踏み場は少ない。


「ここを掃除してくれたら、最高に美味しい料理を作るわ」


音羽は自信に満ちた笑顔でそう告げた。

音羽の料理の腕は知っている。プロが参加するような料理コンクールで優勝チームの一員として活躍したと、全校集会で表彰されていた。

だが、この部屋の惨状を作り出した本人でもある。衛生的に大丈夫なのか?


俺の心配が顔に出ていたのだろうか、音羽は眉を顰めて告げた。


「料理にこだわりを持つ人間として、キッチンは清潔を保っているわよ。それと、アレルギーなんかはないわよね?」


キッチンだけはプロ仕様で清潔。譲れない場所らしい。


「何でも食べられるよ! 掃除は任せろ!!」


俺はわざとらしく胸を張って掃除の準備を始めた。


「よし、まずは落ちてるものの分類からだな!」


俺が宣言すると、音羽はキッチンから顔を出した。


「私は食材の仕込みがあるから、任せるわ」

「いやいや! ここだけはせめて手伝って!? 持ち主がいなきゃ無理だって!」

「……仕方ないわね」


渋々リビングに戻ってきた音羽と一緒に、山積みの服や書類、段ボールを分けていく。


「これは洗濯。これは必要な書類。こっちは捨てて……」


音羽が淡々と指示を出す中――


「あっ……」


俺の手に、明らかに女性ものの下着が。


「~~~っ!? お、音羽さん!? こういうのはちょっと、その……」

「何? 洗濯に回すのよ。早く分けて」

「……ふっ。俺は動じない。イケメンは常に冷静だからな」

「顔、真っ赤よ」

「ち、違う! これは運動したせいでだな!」


動じていないふりを必死に繕う俺をよそに、音羽は何事もなかったかのように仕分けを続ける。

やがて洗濯物の山ができあがり、俺は洗濯機の前で唸った。


「え、これ……白シャツと黒服、一緒に突っ込んで大丈夫か? いやダメだろ……。これは弱運転じゃないとダメ……うわ、何でこんなにタオルあるんだよ! これはネット入れないと痛むだろ……」


ぶつぶつ文句を言いながらも、仕方なく分けて洗濯を回す。


「文句ばっかり」

「違う違う! 僕の冷静な分析術なんだよ!」

「……まあ、いいわ。私は料理に戻るから」


そう言って音羽はキッチンへ引っ込んでいった。

残された俺は、洗濯を干して掃除機をかけ、また洗濯を干す――孤軍奮闘を強いられるのだった。


かなり時間はかかったが、拭き掃除まで終え、俺は大きく息をついた。


「よし、終わったぞ!」


音羽はキッチンから顔を出してリビングを一瞥すると満足そうに一言。


「こっちも仕上げるわ。手を洗って座ってて」


俺は言われた通りにリビングのソファに腰を下ろすと、音羽は手際よく配膳を始めた。

目の前には、ふんわりとした黄金色のデミオムライスが現れた。


「おお、オムライスか!」


つい反応してしまう俺に、音羽はくすりと笑った。


「頑張った時のご飯はこれってお決まりなの」

「いただきます!」


二人同時に手を合わせ、食事が始まる。


「めちゃくちゃ美味い。デミグラスソースがかかってるのに全然くどくない」


思わず口に出すと、音羽は嬉しそうに頷き、どんな工夫をしたか簡単に説明してくれた。


「えぇ、その為に手作りのデミグラスソースにしたもの。チキンライスも、ケチャップを減らしてフレッシュトマトとホールトマトを合わせたの。甘みと酸味がちょうど良く出るのよ」

「なるほど……なんか優しい味だな」


一口ごとに、作り手の気持ちが伝わってくるようだ。

食べ終わると、音羽は食器を片付けつつ、俺に向かって微笑む。


「今日はありがとう、成島くん」


俺も胸を張って答えた。


「また明日な」

「ええ、また明日」


そう言い残し、音羽の家を後にした。

明るい夜空と夜景が、今日の疲れと達成感をやわらかく包み込んでいた。



新しい1日が始まり、教室の扉を開けた俺はいつもの調子で声を張る。


「おはよう、みんな! 今日もみんなを照らす太陽、成島愛己が登校したよ」


教室に入ると、ざわざわとした視線が集まる。まばらな挨拶が返ってくる中、音羽が微笑んだ。


「おはよう、成島くん」


俺は目を丸くして驚く。


「おお、音羽さん! 今日は早いんだね?」


すると、クラスの数人が口々に詰め寄る。


「ちょ、ちょっと待て! 成島ぁ! 音羽様が笑顔で挨拶してるってどういうことだよ!」

「そうだそうだ! ずるいぞ!?」


俺は胸を張り、ちょっとカッコつけて答える。


「え? ああ、昨日ナンパ男から音羽さんを守ったからさ。まぁ、俺ってみんなの太陽だから?」


しかし、音羽があっさり訂正する。


「助けに来たのはいいけど、馬鹿にされて私を連れて交番まで逃げただけよ」


教室中が笑いに包まれ、クラスメイトたちが慰めの言葉をかける。


「よくやった成島! それでも音羽様を無事連れてきたんだ、偉いぞ!」

「音羽さんも成島くんも無事で良かったぁ」


その流れのまま、音羽が真顔で言った。


「で、掃除のことだけど……今日もお願いね」


俺は思わず椅子にもたれ、声にならない声を出す。


「え、まだあるの!? 昨日で終わったんじゃ……」


音羽は涼しい顔で返す。


「他の部屋もあるし、また明日って言ったじゃない」


俺は両手を広げてへたり込み、完全に力尽きた。


「……うわぁ……もう無理……俺、美少年なのに……」


するとクラスメイトが大慌てで駆け寄る。


「成島! しっかりしろ! 美少年ってほどでもないぞ! あと部屋ってどういうことだ!」


へたり込んだ拍子に頭を打ったらしく目の前がぐるっと回る感覚を覚えながら、俺の意識は薄れていく。


「成島マジで気絶してるぞ!! 保健室!!!」


……追求と掃除は回避できそうだ。


最後までお読みいただきありがとうございました。


成島くんは保健室から念の為病院に行って昼休みの前には学校に帰ってきてクラスメイトからの追求をしっかり受けて部屋の掃除もしっかりしました。

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