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馬鹿王子一代記

作者: 山田 勝

「ルドホルト殿下、陛下がお呼びです」


「分かった。今行くよ」


 私はルドホルト、この王国の第1王子だ。

 母上は伯爵家出身の側姫。中々男子に恵まれないから迎え入れられたが、私が誕生してから、男児が生まれた。


 そしたら、法律を変えやがった。正妃から生まれた男子でなければ即位は出来ないと。


 母上の実家は憤慨した。そりゃ、出産は難事業だ。命の危険もある。王国のために娘を差し出したのに、これじゃ愛妾ではないかと抗議したが、せいぜい娘を実家に戻す事しかできなかった。


 私は担ぎ上げる勢力が出たら厄介ということで王宮に止められたのだ。

 側近候補もなし。婚約者もいない状態だ。

 さて、学園を卒業して18歳、政務でも任されるかなと予想しながら執務室に行く。


「ルドホルト、お前に政務を任せる」

「はい、陛下畏まりました」


 陛下の横には腹違いの弟のコンラントがいる。まだ、学生なのにもう政策を立てている。

 その隣には婚約者の侯爵令嬢マリーナと正妃がいるな。因みに王妃殿下は私の義母になるのを拒否した。


 腹違いの弟だが、便宜上、義弟と呼び義兄と呼ばれる。そんな程度の間柄だ。


「コンラントが政策を作った。ルドホルトには義兄として手助けをして欲しい」

「陛下、仰せのままに」


 義弟は学園の成績が良く政務研究会を主催している。そこで作った政策らしい。


「我国も富国強兵を目指すべきです!それには平民女に出産を促します。そのためには結婚です。平民達は夜、閨で励むでしょう。自然と人口は増えるのです。しかし、平民男たちは金がないと言い訳を言ってしなくなる傾向が強いです。

 だから独身税を導入します」


「さすがだわ。コンラント!」


「ほお、さすがだ。マリーナ嬢も英明なコンラントと婚約できて誇らしいだろう」

「ええ、まあ・・・」


「で、陛下、何故、私を呼んでのですか?」

「それでだ。コンラントの案を実行して欲しい」

「ええ、そうよ。伯爵家あたりに実務を担当してもらうのが丁度よいわ」


 丸投げかよ。

 母上の実家の伯爵家とは連絡を取ってないよ。誕生日にお祝いの手紙がくるぐらいだ。母上は再婚をされている。


 つまりだ。王権の偉光をかり人を動かせということだ。


 私には無理だ。放っておこう。


 しばらくしたら、また、用事を言いつかった。



「ルドホルト、コンラントは卒業と同時に外遊に出る。そのために下準備をしておけ」


「畏まりました」


 金貨の入った箱を渡された。大金だ。


「いいか、訪問する国の孤児院リストを渡す。その国々の孤児院に寄付してくるのだ。コンラントとマリーナ嬢が訪問するからな」

「畏まりました」



 コンラントとマリーナ嬢は執務室にいないな。まあ、いいかと思ったら、コンラントは王宮にいた。

 側にいるのはマリーナではない。ピンク髪、ピンクのヒラヒラのドレスの美人と言うよりも可愛い令嬢だ。


「キャア、コン様!王宮ってこんなに広いのね」

「だろう?僕の部屋も見てみるか?」

「キャアー!あれは誰ですかぁ?」

「義兄上だよ。側妃出身の・・・」


 バタバタとピンク髪の令嬢が向かってきた。


「初めましてなのだからねっ!あたち、サリー!ダン男爵の娘なんだからねっ!」

「ルドホルトだ」


 キャア、キャアと手を握られてピョンピョン飛び跳ねている。


「ルド様と呼んでいい?」

「ダメ」

「じゃあ、(陛下・・)」


 小声で何か言った。何だろう?


「じゃあ、また、会うのだからね。今日は猫ちゃんの出産の日だから帰るのだからね。コン様、さようならだからねっ」


「サリサリー、待てよ。ここまで来て」

「明日も学園で会えるのだからね!」


 コンラントを袖にして帰った。飼い猫の出産か。優しい子なのかもしれないが不穏な子だな。コンラントの浮気か?マリーナは?

 まあ、私には関係のないことだ。


 それよりも仕事だ。各国を訪問だ。



 と思ったが、王都を出る前にボロボロの孤児院が目に入った。


 訪問したら老シスターが出むかえてくれた。


「王族の方が何故?」

「この金で雨漏りでも直しなさい」

「ウウウウ、有難うございます」


 孤児院に寄付だから別に良いだろう。と父上から渡された金貨の一部を寄付した。


 また、似たような孤児院を見つけた。


「何だ。壁が壊れている。寄付するから直しなさい」

「いいのですか?」


 他にも救貧院では、庭で食事をしている始末だ。それもパンと水みたいなスープだ。建物が天幕だ。


「ほい、この金で建物を建てなさい・・・て、寝具もないのか?」

「はい、ここは戦争で腕や足をなくして働けない者たちの最後の砦です・・・のハズですが、予算を削られました。兵は野戦で天幕で寝泊まりし寝具もないからから・・・と、グスン」


「分かった。雨風ぐらいしのげなければな。丁度良い。父上から金をもらったのだ。これをあげよう。他にも私が寄付を促すように手紙も書くよ。商業ギルドに提出してくれ。後はこれで何とかやってくれ」


「有難うございます」

「ハハハ、私の金じゃないけどね」


 とやっていたら、


「金が大分少なくなったが、良いだろう。同じく貧しい人達への寄付だからな」



 馬車を進めると

 今度は孤児達が広場でたむろっている姿が目に入った。


 馬車を止めておりた。


 よく見るとボロボロの布を持っている。


「君たち何をしているの?」


「ヒィ、お貴族様、僕たちは靴磨きをしています。教会から認められた孤児の仕事です!」


「ほお、私の靴を磨いてみろ」


 慣れない手つきだ。それに汚れまくった布だから革靴がよけいに汚れる。


「けしからん!靴磨きがなってない!少し待っていろ」


 私は商会に行き。靴磨きセットを買った。


「いいか!こうやるのだ!まず。靴紐をほどいてから、布で汚れを落としてから、保皮材を塗る!」


 王宮では侍従がつかなくて自分で靴を磨いていたな。


「分かったか!全員分買ってやる!」

「「「「有難うございます」」」」


 これで父上から渡された金貨は全て使った。王宮に帰るか。

 その前に、腹が減った。串焼き屋がある。


 と買おうとしたが、買い方が分からない。


「あ~、殿下、あたちが買ってあげますぅ~」

「ピンク?誰だっけ!」

「サリサリ~ですよ!おっちゃん。串焼き一つと銅貨を渡して串焼きをもらいます、・・・熱いからフーフーしてあげますね」

「助かる。有難う」

「ところで殿下は何をやっていますか?」


 私は今までの経緯を話した。

「さて、王宮に帰るか」


 すると、サリーは私の首根っこを掴んで止めた。


「実は~、とっても良い金儲けの方法があるんですよー」

「何?」



 ペンと多量の紙を渡された。


「エへへへ、殿下は達筆だから、文字は売れるのですよ」

「何だって?」


 市場の一角を借りて、何だか商売を始めた。


「みなさーん!教訓売りですよ!」


 サリーが客引きを始めた。


 俺は適当に教訓を書けばいいのか?


『今度が口から出たら次はない。今度という化け物を退治せよbyロドホルト』


「まあ、ありがとうございます!」


『つもり、つもりは積もらないbyロドホルト』


「ほお、中々だ」


『取らぬ火トカゲの皮算用byロドホルト』


「これ、あっしだ!」


『自分がやれば真実の愛、他人がやれば浮気なbyロドホルト』


 楽しいな。王宮では家庭教師はつかなかった。古の賢者の筆跡を真似したのだ。

 ロドホルトはペンネームだ。

 しかし、サリー嬢、よく達筆だと知っていたな。



「はあ!しまった。日が暮れた」


「これから、オルグなんだからね」


「何だ。オルグって?」


 酒場に連れて行かれた。この国では18歳から酒を飲んで良かったのだな。


「飲むのだからねっ!」

「おう」


 初めて自分で稼いで使う新鮮かもしれない。


 客達とも会話をした。


「殿下は王政をどう思いますか?」

「どうも思わん」

「なるほど、雌伏せよということですね」

「まあ、何だ。私は日陰の身、一生雌伏かもな」


 ドンチャン!と楽しく飲んで、宿に戻る。


「明日も迎えに行くのだからね!」


 また、同じ毎日だ。靴磨きを教えた孤児隊の様子を見に行き。


「おう、やっているか?」

「「「はい!」」」

 指導をして、教訓売りをする。


 夜は酒場だ。


 やけに眼光の鋭い親父から人生相談を持ちかけられた。


「・・・村長の親子、3人がいます。彼らは税金・・・村の共益費を集めて、村の外にばらまくことしかしません。良い顔をするためです。どうしたら良いでしょうか?」


「そんな親子は追い出せば?」


「村長に妾腹の息子がいます。彼を村長に推薦をしたら、受けるでしょうか?」

「さあな。天と地、人が決めるのじゃないかな」

「な、なるほど」




 そんな毎日を過ごしていたら、ある日、サリーは演説をした。


「同志たち!刻が来たのだからね!天地動転は明日起こるのだからね!」

「「「オオオオー!」」」


「今夜は早く寝るのだからね!」


 皆は帰った。


「さあ、殿下もだからねっ!服はアイロンかけた?」

「明日やるよ」

「今夜だからね」


 何だ。真剣だな。言われた通り衣服を整えた。


 早朝、馬車が迎えに来た。


 はっ!そう言えば、外国に行っていることになっている。御者と従者は三ヶ月前の彼らだ。

「君たち、今までどこに行っていたの?」

「地に伏し機をうかがっていました」

「ほお、そうか」


 大げさだな。


 馬車に乗せられて学園に向かう。そうか、今日は卒業式でそのままコンラントとマリーナは外遊に向かうのだっけ。


 卒業式会場に案内されたら目に入った。

 父上と正妃が賓客席にいる。


「ルドホルト、首尾は上々か?」

「全く、連絡ぐらい寄越しなさい」

「バッチリです」

 あれ、賓客席に私の席がない。


「ルドホルトは今日からコンラントの使用人になりなさい」

「ええ、そうよ。王族籍剥奪よ。私達の後ろに立ちなさい」


 別に良いけど、このまま王都で教訓売りで暮らしたいな。役人として働くのは嫌だな。


 と思って、父上に話そうとしたが。


「陛下、お考え直し下さい」

「ほお、ルドホルトよ。さすがに王族の地位が欲しいか。そのような不届き者は反逆罪として処刑することもできるのだぞ」

「いえ、王族籍離脱は別に良いのですが・・・」



 その時、コンラントの大声が聞こえた。


「マリーナ!真実の愛を邪魔したな。僕はサリーと婚約を結ぶ。運命の出会いだ。よって。婚約破棄だ!」

「キャア!コン様、素敵!真実の愛を邪魔したマリーナ様は追放ね。コン様」

「サリー、そうだな。マリーナは真実の愛を邪魔した罪で北の修道院に追放とする。全く面白みのない女だったよ」


 はあ、義弟の隣にサリーがいる。

 対面してマリーナ嬢がいるぞ。

 何をやっているのだ。サリーよ。


 私は前に出て思わず言い放った。


「おい、サリー!何をやっている。真実の愛を邪魔した?2人は婚約を結んでいたのだぞ。なら、婚約を結ばせた父上と王妃殿も戦犯じゃないか?

 別に真実の愛もいいけど、立場と手順を考えて行動しろよ。コンラントもだ!」


 始めて義弟に意見をしたかもしれない。


 義弟は手のひらを上に向けてヤレヤレとしている。


「義兄上は、今日から平民じゃないですか?プゥ、真実の愛は刻を遡る運命なのですよ。な、サリー・・・おい、どうした」


 サリーは膝から崩れて床に座り込んだぞ。


「・・・はっ、ルドホルト殿下の仰る通りだわ。そうね。真実の愛はいいけども、立場と手順を考えなければならなかったわ。グスン、グスン」


 すると、マリーナが、私の胸に飛び込んで来た。


「ルドホルト殿下、お慕い申し上げていましたわ・・・」

「えっ」



「ジーク、ルド!」

「「「ジーク、ルド!」」」

「「「「「「ジーク、ルド!」」」」」


 あれ、会場にいた生徒と親たちが合唱し始めた。私の名を叫んでいるぞ。


「ヒィ、兵達よ。ルドホルトとマリーナを拘束せよ」

「そうよ。反逆罪よ!」


「どうした騎士団長よ!」

「耳が聞こえないのかしら!私達を守りなさい!」


「元陛下とその奥様に申し上げます。救貧院の予算を削られましたが、そこは戦地で負傷した兵達の最後の行き場なのにです。

 ルドホルト殿下は・・・・寄付をされ。商会にも寄付をするように手紙を書かれました。その話を聞いたときは心が震えました」


「何だと!」

「そんな話は聞いていないわ。侍従長!」


「元陛下の奥様、ご自分達の王族費は増やされました。孤児が街にあふれているのにです。そればかりか外国の孤児院に寄付しようとする始末、ルドホルト殿下は我国の孤児院の建物を直し、孤児に職を教えました」



「誰でも良いわ!私達を守りなさい!」


 もう、誰も王妃の言葉に耳を傾ける者はいなかった。



 ルドホルトは狼狽をするが、事態は着々と進む。


 男爵令嬢は、マリーナとルドホルトの前で平伏をして謝罪をした。


「マリーナ様!私は間違ったことをして追放をしようとしました。罰をうけます。どうか、処罰を言って下さい」


「いいわ。私は真実の愛の相手、ルド様と結ばれるわ・・・だから、恩赦よ!ねえ、ルド様、宜しいですね」


「はあ、いいけど、何これ?」


「お父様!」


 侯爵が来たが、ありゃ、酒場で人生相談をした親父じゃないか?

「陛下、人生相談の続きです。村長一家を追放いたします。その後は如何しましょうか?村人たちは浮かれております」


「別に・・・普通で良いのではないですか?」


「な、何と・・・・そうか」


 と法律を改正されて側妃腹の私が即位をした。


 特に父上と王妃・・・いや、父の妻とコンラントは処罰されずに、地方に追放されて年金暮らしだ。


 故に、革命ではなく禅譲になり。我国の貨幣の価値は暴落せずに平穏無事にすんだ。


 もし、処刑をしたら、王国全土で革命騒ぎ、前政権下で甘い汁を吸っていた階層の者が襲撃されていたであろうと賢者の意見だ。


 ゆっくりといらない変な役所は潰していくと侯爵の施策だ。


「娘をよろしくお願いしますぞ」

「はい、義父上」


 そして、サリーはまだ王宮にいる。

 あんな馬鹿な言動で女官を務めていやがる。


「ニャー!ニャー!」

「マリーナ様、うちで生まれた猫ちゃんです」

「まあ、可愛らしい」


 妻とは・・・グルだったのかと訝しむがまあ良い。

 流される生活、これも良いだろう。


「キャアー!木に登っただめだからねっ」




 ・・・時に最高の教育を受けた者でも奇妙な計画、政策を掲げるものだ。

 それを見抜くのは普通の人だったりもする。

 ルドホルト王は実務には不向き。しかし、王には最適な人物だったと後世の賢者たちは評価をした。
















最後までお読み頂き有難うございました。

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サリー好きです! やはりサリーはこうでなくては、なのだからね!(^o^)/ “大令嬢峠”の時には、何か訳があったのだろうと信じています。
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