表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/18

みかの場合 後編

 あれから数日経った。

 夫は何もなかったかのように、この家で平気で暮らしている。

 あんなことをリビングでしていたというのに。


「みかー、今日もまだ寝ないのか?」

「うん……まだ結構仕事残ってて。時間かかると思うから、先に寝てて」

「ふーん。おやすみー」


 夫に迫られるのも嫌で。

 ましてや一緒のベッドで時間を過ごすことも嫌で、私は出来るだけ夫との距離を開けるようになっていた。


 そして夫が寝室へ向かったのを確認すると、開いていたノートパソコンを閉じ、スマホに切り替える。

 そう、あのゲームをやるために。


 あれからかなり上達したと思う。

 いくらでも湧いて出るゾンビたちを、私はただ無心(むしん)に殺していく。


 何体も、何体も、何体も、何体も……。


 スリルを楽しめなきゃ、人生損してるですって?

 こんなのがスリル? 全然……足りない。ゲームなんかじゃ。


 ゲームの手を止め寝室を睨みつけると、閉まったドアの向こうから、イビキだけが響いていた。



     ◇     ◇     ◇



 翌々週末、またいつものようにともが家にやってきた。


「お、ともちゃんだ」


 部屋の隅で私はお香を焚きながら、その煙が上がるのをたたジッと見ている。

 

「おっじゃましまーす」

「いらっしゃい。今日はびっくりしたでしょ」

「ホントですよー。まさかお姉ちゃんからゲームの誘いがあるなんて」


 私は上機嫌で部屋に入ってきたともに、笑顔を向けた。


「あれからハマっちゃって」

「あれ、なんか今日いい匂いする? お香?」

「そう、知り合いにもらったの」

「へー」


 ともは一瞬、私が焚くお香に興味を示したものの、すぐに定位置である夫のすぐ隣に座った。

 

 そしてタイミングよく、私のスマホが鳴る。


「あ、会社からの呼び出しだわ」

「こんな時間に?」

「ごめん、ちょっと行ってくる。戻るの今からだと10時過ぎるかも」

「えー。残念。大変だねー」


 残念だなんて言いつつも、とものはいつもの笑みを浮かべていた。


「今日はどこでやります?」

「廃校とか?」


 ゲームのコントローラーを持ち、どこまでも楽しそうな二人。

 私は何も知らないフリをして、そっと家を出た。

 最後にお香の煙をもう一度だけ見て。


 そして私は外から様子が(うかが)える位置にまで移動する。

 中の様子なんて、カメラなど仕掛けなくともすぐに想像はついた。


 私がいなくなったあと、嬉々(きき)として絡み合う二人。

 お香の煙が強くなっていくことなど、二人は見えていない。


 きっといつもより興奮して、激しく運動をしてくれているだろう。

 問題はその先だというのに。


 私は暗くなった道路で、時計を見た。

 部屋を出てからちょうど一時間ほど。


 私はオンラインゲームの戦闘シーンを思い浮かべながら、思わず笑みがこぼれる。


「すごい、本当だったんだ。あのお香に使われてるハーブの話。効果絶大(こうかぜつだい)ね」


 揺れるカーテン越しに、二人が殺し合う姿が見えた。

 そして暴れまわる大きな音も響いている。


 海外でハーブを使用したお香が、幻覚作用(げんかくさよう)を伴うため発売中止とスマホにも書かれていた。


「特に激しい運動の後は幻覚作用が強まるんだって。これかぁ、ともが言ってたスリルってやつ」


 月だけが私を見ていた。

 私は第一発見者となるために、ゆっくりと家に戻る。


「ふふっ。ハマっちゃいそう」


 リビングにはいつか見たゲームの世界のような、二人の死体が転がっている。

 そしてテレビの画面には大きくゲームオーバーと映し出されていた――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
カドコミから読みにきました。 かなりのサイコパスホラーだけど、 浮気旦那とその相手に対する復讐が残酷すぎてすごくスッキリしました。 私が前の夫の浮気で離婚してるのですが、当時、何度「仕事中とか帰りに事…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ