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みかの場合 前編

「よしよしよしよし!」


 リビングのソファーに寝転がり、夫となる彼は大きな声を上げていた。


 スマホの画面には盗賊のような姿をした、彼によく似たキャラが木の上から、ナイフ片手に飛び降りる。

 するとナイフは真下にいた、血みどろのゾンビの首にそのナイフは突き刺さった。


 うめき声を上げながら倒れるゾンビを見て、彼はまた大声を上げる。


「よっしゃー!」

「もぅ。ゲームばっかりしてないで、結婚式のプラン考えてよ」


 私は一人テーブルに並べられたたくさんのパンフレットたちを見ながら、頬を膨らませる。

 結婚式までもうさほど猶予(ゆうよ)はない。

 ちゃんと決めないと、間に合わなくなるのに。


「みかに任せた!」


 寝転がりながらパンフレットには目もくれず、彼は満面の笑みで親指を立てる。


「任せたって…一人じゃ無理だよ」

「みかは考えすぎなんだって。そんなのテキトーでいいじゃん。オレこだわりもないし。それより、一緒にゲームしよって」

「テキトーって」


 私のため息など気にすることもなく、彼はただゲームに夢中だ。

 ゾンビを倒すたびに、歓喜(かんき)を上げている。

 最近流行っているオンラインゲームらしいけど、何がいいのか私にはさっぱり分からない。


 ソファーの上で寝転んだまま大興奮(だいこうふん)の夫

 それをややあきれた目でみかは見る


「絶対みかもハマるって」

「嫌だよ。そんなに怖いゲームよくやれるわね」

「しゃーねーな。じゃあ、こっちしよ」


 彼は私の腕を掴むと、やや強引に引き寄せた。

 そして私はそのままソファーの上に倒される。


「ゲームしてたら興奮しちゃった。いいだろ?

「もぅ、ダメだってば。今日こそ決めないと間に合わないし」

「人生、楽しいこと優先だろ」

「もぅ……」


 私はやや諦めながら、そのまま体をゆだねた。



   ◇   ◇   ◇



 結婚式場の控室(ひかえしつ)で私は鏡を見た。

 今日のために選び抜いたドレス。

 ふんだんに使われたレースに私はうっとりする。


 大変だったけど、幸せね。


 何度も自分の姿をチェックしていると、控室(ひかえしつ)にノックの音が響いた。


「はい。どうぞ」

「おーーー、綺麗じゃん、みか」

「ありがとう」

「いやぁ、めちゃくちゃ待ったよ」


 タキシードに身を包んだ夫は、スマホ片手に部屋にやって来た。


「またゲームしてたの?」

「まーな」

「式始まったらソレ持ってっちゃダメだよ?」


 私がスマホを指させば、夫は目を丸くさせた。

 待ち時間はいいけど、さすがに式の最中(さいちゅう)はダメでしょう。


 もー。持っていく気満々だったのかな。

 いくらゲームが好きだからって、今日という日は一日しかないのに。


「えー。嘘だろう。スマホダメなんだっけ?」

「そーだよ? 入場の時とか持って入ったら変じゃない。挙式中は無理だよ」

「ん-。一通り挨拶が済めば、披露宴(ひろうえん)は座れるからその時誰かに持ってきてもらえば?」


 こんな日に喧嘩なんてしたくないし。

 これが最大限の譲歩(じょうほ)ね。


「おー、そうだな。あそこ花とかあってスマホ隠せるもんな。ちょうどいいじゃん。さすが、みか」

「……もぅ」


 ホント、仕方のない人。

 でも悪い人ではないのよね。

 私と真逆っていうか、いつも明るい気持ちにさせてくれる。


 ニコニコした彼はそのまま私を抱き寄せた。

 彼がキスをしようと顔をゆっくりと近づけてくる。

 目を閉じ柔らかな唇を感じる前に、部屋をノックする音が聞こえてくる。


 そしてノックの主は、私たちが許可する前に部屋に入ってきた。


 やや明るい色の短めのパーティドレスに、結い上げた髪。

 少しどこか私に似た女性は、にこりと微笑む。


「失礼しまぁーす。わー、お姉ちゃん久しぶり! ドレスすごいね」

「……とも」


 屈託なく笑う妹に、私は顔を引きつらせた。

 まさかこの子が控室にまで乗り込んでくるとは思ってもみなかった。

 

「どうしたの、こんなとこまで」


 思わず本音が漏れる。


「お姉ちゃんのドレスを見に来たに決まってるじゃーん。すごく高そうなドレスだね」


 綺麗だとか、似合ってるとか言うわけでもない。

 ただドレスが高そうって。

 

 そういうの、全然褒めてなんていないんだけど。


「あ! お姉ちゃんの旦那さん?」 

「えーっと、君はともちゃんだっけ。みか妹の」

「ともです。わー、やだ、お姉ちゃんの旦那さん、写真よりカッコいいしー。タキシードも似合ってます」

「ホント? ありがとう」


 そのままの勢いで夫に触れようとするともの間に私は割って入った。

 ホント、冗談じゃない。


「ちょっと、触った汚れるでしょう」

「きゃぁ」

「そんなに怒んなくてもいいだろ。姉妹なんだし、仲良くしないと」

「だってもう式が始まるんだよ」


 私は壁にかけられた時計を見た。

 もう入場まで時間はない。」


 もっともあったとしても、ともの相手をするなんてごめんよ。


「14時入場の時間だから、ともは席に戻って

「え、マジで?」


 ともよりも夫の方が慌てたように、スマホを見る。

 もー。何度も説明したのに、まったく聞いてなかったのね。


「ヤベっ。ちょうどイベント開始時間じゃん。オレ14時半から式開始だと思ってたわ」

「え?」

「またゲーム?」

「あーー。もしかして、LSゾンビランドですか? アタシも最近始めたんですぅ」


 ともはスマホの画面を夫に見せた。

 すると今まで以上に嬉しそうな顔を夫はともに向ける。


「おーーーー。仲間! みかやってくんなくて寂しかったんだよ」

「まだ始めたばっかりなんで、全然なんですけどぉ。フレ申請しますね」

「やっと同じゲームで話できる人できたわー」

「お姉ちゃんって、つまんないですよね~。ゲームもしないし、ノリ悪いし。昔から、ああなんですよ」


 ともは私をを馬鹿にするようにニタリと笑った。

 ああこの感じ、よく知ってる。


 まさか、またなの?

 私は思わずともを睨みつながら、拳に力を入れた。

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