その番への求婚、法令を遵守していますか? ~ハイファンタジー版~
同タイトルのハイファンタジー版です。
こちらは馬鹿になるんじゃなくて、野蛮(婉曲表現)になります。
はいはい。
お話聞いてくださいねぇ、誰だ人族の話なんぞ聞かんというヤツ、かえれー! 講習受けないと人族の国に出入り禁止されてる身の上、理解しやがれ!
あ”? やんのかこら……あら、旦那様、いけませんわ、わたくしとしたことが。
あー、こほん。
巷では伝説のお嫁様などという名で呼ばれることもありますが、わたくし、ユーリヤと申します。
夫の頼みで、番を持つ一族の皆様にお話しさせていただいておりますの。あ、わたくしの夫はレッドドラゴンの血を引いておりまして、手合わせ相手はいつでも歓迎と。
あら、ずいぶん静かになりましたわね。よろしいことですわ。
違法行為をしないで番に求婚する方法、という話をいたしますね。
残念ながら求婚前に問題が発生しがちです。
まず、番、勝手に攫ってこない! これは国家間での決め事になります。どうしてこうなるのかというと相互で問題が発生するからです。
税制上の問題、相続の問題、人権的問題。どれも軽くありません。ほんとこんなところから説明しなければならないなんて。
税金がどうしたって、あなた、成人したら税金払うんですよ。ご存じない? ああ、こちらでは部族ごとで集計されていると。
近隣国家では成人すると人頭税をとられます。個人資産が多い場合、別の課税もありますけど、基本的にはお一人様いくらの課税ということですね。子供などは成人まで非課税です。これは労働人口が減らないための策でしょうけど。
この人頭税、村と町では課税額がちがいます。町のほうが防衛機構がちゃんとしていますし、何かあったときの対処をしてくれる役所もあります。その維持費に税金がつかわれておりますわね。
ただ、これもきちんとした町人ではなく、勝手に住みついた奴らの課税はどうするのだという問題はありますけど。
で、勝手に一人減ったら、困ります。住んでいるところで、人を管理しているんです。ほかの町にいくならそれで異動届とかを出さないと役人が発狂します。それなのに、人が忽然と一人消えた、ありえません。
税金というのは執念深いので、追徴課税してきますので、攫ったのを知られたらすげぇ金額請求されます。実例としては、5年前のクリス伯が、やらかして、城一個売りましたね。
税金、こわいですよ。
さて、相続、こちらも税が関わったりしていますが、どちらかというと領土分割で揉めます。番の方が貴族の生まれでなければあまり関係ないことですが、そうであった場合深刻です。
近隣国家は男女差なく領土を相続することになっています。でも、普通は長子あるいは後継者として指名されたものに譲渡する書類を書いて終わるものです。
ところが、その書類を書く前にいなくなった場合、譲渡できません。さらにその方が婚姻して子もいたら、その子も相続人となり、さらにその子にもと複雑怪奇に分割されていきます。
わりとそのあたり相続の時に見なかったことにすることもあるんですが、後の代で誰の所有なのかきちんと調べたときに阿鼻叫喚になります。
実例としては10年前のレーリー領が30に分割された件、そう、あれです。該当の番の方は100年も前の方なので、ほんっとに書類をかき集めるのが大変だったそうです。
あれをきっかけに相続を調べなおしたと各国家大変でしたね。役人の皆様が。
こちらも問題があるというのはお判りいただけましたね。
さて、ここからが、一番重要です。
求婚大事ですよね! わかります。
でも、人権! 守って!
君が運命感じちゃった番。わかる、すぐに連れて帰って愛でたいよねっ!
でも、番から見れば初対面、攫ってくる怖いやつです! 微笑んでいるかもしれない番は実は恐怖に震えているのかもしれません。でも、そういう機微わかんないですよねぇ?
番見つけた途端見境ないんですから。
そんなことはない? ちゃんとわかると?
3年前に、護衛を全部殺して、お姫様をさらったやつがいます。今でも指名手配です。お姫様10歳ですよ。恋する何かの前に恐怖の対象にしかならんでしょうに。
そうならないために、こうやって講習を開けって話になったんですから。
まあ、それでもながーい時間をかければ愛はあるかもしれませんが、その前に壊れちゃうかもしれません! メンタル強い男女が番になるわけではありません!
まずは、番の人権を守りましょう!
いきなり攫わない。
監禁もしない。
ストーキングもしない。
全部、怖いです。
それから、好きのあまり、すべてを知ろうと密偵とか雇わないように。
あと、ごみあさりとかはさすがにしない、ですよね? 髪の毛落ちてるのはすはすとかしない、ですよね!?
いいお返事ですね……。さすがにそういうの変態と思える理性があってよろしいことです。
あと、ほんとうにこれは大事なんですが、番のことを孤立させない。自分に依存させようと他に頼る人いないように全部遠ざけようとすること時々あるんですが、バレたときに損害はでかいです。
信用信頼愛情。全部ゼロどころかマイナスです。
よぉく考えてください。
番との楽しい愛ある生活と死んだ目の番に罵倒される生活、どちらがよろしいでしょうか?
わたくしは、出来れば皆さまに番との快適ライフを送っていただきたいと思っていますの。
夫とも紆余曲折ございましたことから申し上げますと、知り合いから始めてください。押して何とかなる人なら、押してもよろしいと思いますが、それもご自身の番という性質をきちんと説明しての話です。
信頼関係大事です。ねぇ、旦那様。
なんでむせるんです。まあ、わたくしたち、色々ございましたものねぇ。
性質上、抑えきれないというときはこの護符! 護符をお守りと思って持ってください。今回の講習ではこちらを一点無料配布しております。いざというときに卒倒できます。
なぜ卒倒かって、理性ぶん投げた獣人たちに同族すら敵わないんですから、ほかに対処法が? もっと強い獣人連れてきて拘束して帰国コースのほうがよろしい?
まあ、過酷なお仕事しそうですわね。旦那様。
え? 手加減? やだぁ、冗談ですわよね?
まあ、命が惜しければ身に着けておいてくださいまし。
獣人たちの性質上、番発見の時が一番まずい状況になることが多いためこれで時間稼ぎをし、ちょっと落ち着いてから相手の方を調べて、接触、口説く、それが良いと思いますよ。
まちがっても! 番だから仕方なくという態度はしないように! お互い不利益です。諦めて番を大事にすることだけを考えましょう。
そもそも相手の方も番を得るタイプならいいんですけどね……。そういうのでも三角関係で揉めたことがあると聞いたことが、あ、あるんですね。三人で暮らすことになったと……。まあ、そういう穏便な、穏便じゃなかった……。
皆様は、そう言うのじゃないことを祈っております。
さて、休憩にいたしますが、質疑応答がありましたらメモしておくようにお願いいたします。
指名してからアレ?なんだっけ?というのが、以前から続出しておりまして……。
どこかの男爵領に過去いた伝説のお嫁様にご出張いただきました。
王家の忌み子でガラの悪い番様と育ちがよくガタイが良い竜系獣人で、「さらってくんな、元に戻せ」というのが番様の最初の言葉でございましたことを記載しておきます。