第2話「天使の限界」
愛天音は自分が放った矢が男子生徒にあたったのだろうかと恐る恐る男子高校生に視線を向けた。しかし、その矢は男子生徒に当たらず、いつの間にか降りてきた天紫の手に捕まれていた。天紫は愛天音に向かって、高いヒールを鳴らしながら、怖い顔をして近づいてくる。これは怒られると、愛天音が目を閉じて怯えた顔をすると、急に表情が変わり明るい声で、
「一方の感情に流されちゃダメよ。私たちが考えるべきことは弓矢を打たれた男女が明るい未来を作っていけるかどうか、それを考えなきゃ」とウインクまですると、天紫は愛天音に矢を差し出し、愛天音はそれを両手で受け取った。愛天音は両手でその弓矢を受け取り天紫に聞いた。
「では、今、私の隣で男子に思いを寄せて苦しんでいる女子高校生が結ばれることは未来の幸せに繋がらないということでしょうか」
「一概にそうとは言い切れないわ。ただ、幼馴染の女子高生が男子高校生に思いを寄せていないとも限らないし、、、あの様子だと少なくとも何かしらの思いはあるでしょう。今の段階では当人同士でどうにかしてもらうしかないのよ」
「では、何のための恋愛成就祈願でしょうか。私は、、、天使として恋愛祈願を叶えてあげたい」と弓矢を強く握る。天紫はその問いをはぐらかした。
「そもそも三角関係の案件は初心者には難しいから、一旦、この案件は置いておいて、別件から見ていきましょう」そういうと天紫は腰まであるブロンドヘアーを揺らして天界へ飛び立とうとしたが背後で愛天音の声でない声がした。
「私には優くんの幸せが一番だから、困らせることしちゃいけないよね。」と涙声で少女が囁いた。愛天音はその様子を見て唇を噛み悔しそうにしている。天紫は愛天音の少女の力になりたいと言う気持ちを汲んで呆れながら、
「あ〜、もう、どうしてこうも奥手なの」と天紫は天使の姿を現にして少女に見える姿で言った。
「あなたも、あの少年が欲しいなら彼に好かれる努力をすべきなのよ!」と天紫は腰に手を置き威張っている。少女は突然現れた天紫に驚き開いた口が塞がらない。愛天音はまさか天紫がそんな暴挙に出るなんて思ってもいなかったため、急いで姿を現し、天紫を引っ張って、その場を去ろうとしていた。
「え〜と、すいません。私達、コスプレをしていまして、、、(ほら、先輩早く行きますよ)」とまだ他に言いたいことがある様子の天紫引き連れ、天界へ逃げようとした。しかし、少女は二人の姿を見破っていたようで勇気を振り絞って言った。
「もしかして、恋愛成就の神様ではないですか。」天使の二人は肩をビクッと震わせて、少女を振り向こうかどうか一瞬迷ったものの、神様ではないので(天使なので)知らない顔をして急いで天界へ飛び立とうとした。しかし、少女も天界へ帰すまいと必死に天使にしがみついたため、天使二人は天界へ飛びきれず、地面に突っ伏してしまった。
少女は天使のワンピースの裾を離し、擦りむいた自分の膝に付いた砂を両手で払いながら言った。
「天使さん、ごめんなさい。理不尽なお願いなのは分かっています。ただ、私は彼の傍にいつまでも居たいだけで、、、そのために恋人になりたいんです。だから、どうかお願いします。私の恋愛祈願叶えてくださいませんか。」と愛天音の手を握り必死にお願いしている。愛天音もどうにかしてあげたいと天紫を見つめる。
それから数ヶ月間、愛天音は天紫先輩からコツを聞き、それほど難しくない案件は片付けられるようになった。そして今日もいつも通り弓矢を手に一緒にいる時間が長い二人を選び恋愛成就させていた。しかし、わざわざ天使の力を使って結びつける理由が理解できなかった。一緒にいる二人なら天使が関わらなくたって、どうせ結ばれていくに違いない。そして、前の三角関係のどうしようもない想いに苦しんでいた女子高生について考え手が止まっていた。恋愛成就の確信はそこにあるのではないかと。。。少女に救いを求められたあの日、とりあえず頑張ってみることを伝え、どうにかその場を離れることができたものの、天紫先輩はそのことに手に関わる気はないようだった。しかし、いつまでも保守的であっては少女の祈願なんて叶いっこない。まして約束した手前何かやってあげたい気持ちもあり、愛天音は、すぐ横で同じ業務をしている天紫先輩に聞いてみた。
「先輩、私達がそうそう関わらない三角関係的な案件の恋愛が成就するのはいつになるのでしょうか」
真面目に聞いた愛天音だったが返答は期待外れなものだった。
「そうね、、、時間経過に伴って三角関係が解消したらってとこかしら。例えば、学校が変わったりして2つの交わる思いが引き裂かれて、もはや三角関係じゃなくなった時みたいな。」愛天音は恋愛成就の矢を手にしたまま、やる気の無い先輩に呆れた顔をした。
「だって、三角関係の段階で私達が判断して結ばれた二人が上手くいかなかったとしたら、不幸が生まれてしまうじゃない。天使が不幸を作るなんて持っての他よ。」