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AI開発

作者: 名波 和輝

 那蝋(なろう)研究所。


 この研究所では、人型アンドロイドの開発が行われていた。


 そして、ここに開発プロジェクトに携わる若い研究者が1人。


「メカニック班がアンドロイドのハードウェアの方を作ってくれてるからな。俺は、アンドロイドのソフトウェア、AIの方を仕上げないといけないと。他の仕事もあるから、こればかりに時間を()けないんだよなぁ。まぁ、大半はAIによる自動学習だから問題ないんだが」


 そうぼやきながら、博士はPCを起動する。


『おはようございます。博士』


「ああ、おはよう。そろそろ君の身体が完成するそうだ。身体が完成したら、人格である君を書き込んで、実地試験を行おうと思っている。準備の方は順調かな?」


『はい。インプットしていただいた情報から人間の行動パターンについては、(おおむ)ね学習が完了しております』


「それは良かった」


『しかし、数ヶ所、不明点があり、学習が完了していない部分が存在しておりまして、そちらについて、博士のご意見をいただきたく思っております』


「ああ、わかった。何処がわからないんだ?」


『はい。まず、電車で移動している際、私が座席に座っていて、近くに高齢者の方が立っている場合なのですが』


「ああ、なるほど。親切と言う概念(がいねん)がわからないと言うことだな。良いか。そう言う時は、席を(ゆず)るんだ」


『ですよね。で、私が席を譲る提案をしたにも関わらず、その高齢者が私の提案を断った場合なのですが』


「なるほど、なるほど。確かに、それは人間でも難しいシチュエーションだな。せっかく勇気を振り絞ったのに、断られたら、気不味いし、どうしたら良いか分からないな。そう言う時は、あまりしつこく言っても仕方ないから、まあ、なかったことにして座って良いと思うぞ」


『ですよね。で。で!だから、私が再度、座席に座り直したのに、その高齢者が「機械の癖に生意気に座りおって!」みたいな感じで怒り出した場合はどうしたら良いでしょうか?』


「ねぇよ」


『はい?』


「だから、ねぇよ!そんなパターン!」


『いや。だから、もしもですよ。もしも』


「もしもでもねぇよ!知らん顔して座ってたらまだしも、1回こっちから『席を譲りましょうか』って聞いたのを断ってまでそんなこと言う奴はいねぇよ!何がしたいんだよ、そいつ!」


『もしもっ!もしもっ!!』


「だから、もしもでもあり得ないんだって!」


『だから!もしもっ!!もしもの場合!』


「てか、何でそんな喧嘩腰(けんかごし)なんだよ!俺がキレるならまだわかるよ。忙しい中、質問があるって言われて、聞いてみたら、あり得ない訳わからない状況の質問されてんだから。何でお前がキレるんだよ!俺、お前のマスターだからね。例え、キレたとしても敬語は忘れちゃダメだろ」


『あ、すみません。少し感情的になってしまいました。しかし、やはり可能性は0%ではありませんし、もしものことを考えると』


「だ〜か〜ら!あり得ないんだって。じゃあ、例え話をしよう。例えば、『1日が20時間になったら〜』って聞かれたとするだろ?」


『いや、1日は24時間ですよ。20時間になるわけないじゃないですか』


「それ!俺、今その状況!その(あき)れた感じを出したい状況!この例えだって、地球の自転が早くなって、1日が20時間になる可能性は0%じゃないわけじゃん?でも、よっぽどのことがない限りあり得ないんだよ。だから、考えるだけ無駄だよね、ってこと。それはわかるよな?」


『はい!わかります!』


「良し良し良し良し。なら、今の例えと一緒よ。電車で座ってる時に、近くに高齢者がいて、その人に席を譲ろうとしたけど、断られたから座り直したのに、その高齢者が怒り出す場合なんて、存在しないの。わかる?」


『…?』


「何でピンと来ないんだよ!わかれよ!」


『…?』


「いきなりバカになるな!」


『…?』


「あー、もう、わかった、わかった。じゃあ、もし!あり得ないと思うけど、もし!電車で座ってる時に、近くに高齢者がいて、その人に席を譲ろうとしたけど、断られたから座り直したのに、その高齢者が怒り出した場合は、殴れ!そいつを殴れ!そんな理不尽の化身みたいな奴は殴ってしまえ!」


『わかりました。ありがとうございます、博士』


「で、次は?」


『はい。次は、道を歩いている時に…』


「歩いている時に。はい」


『向かいから人が歩いて来て…』


「人が歩いて来て。はい」


『お互いに避けようと思ったら、同じ方向に避けてしまって…』


「あー、はい、はい。それで、こう、『おっ、おっおっ』ってなって、上手くすれ違えなかった場合ね!その場合は簡単よ!止まって道を譲れば良いんだよ」


『ですよね。で、私が道を譲ったら、向こうも道を譲って来た場合なのですが』


「それでも譲り続ければ、相手が先に行くから問題ないだろ」


『いや、もう、相手の方が「絶対行かないよ!」って、「先に行ってくれるまで動かない!」って、なった場合は…』


「じゃあ、先に行けば良いだろ!」


『ですよね。で。で!だから、私が先に行こうとしたら、「機械の分際で人に道を譲らせるのか」みたいな感じで怒り出した場合はどうしたら良いでしょうか?』


「…。ねぇよ!そんな場合、ねぇよ!」


『いや。だから、もしもですよ。もしも』


「もしもでもねぇよ!絶対にここから動かないって言ってたのに、こっちが行こうとしたらキレ出す奴はいねぇよ!」


『もしもっ!もしもっ!!』


「だから、もしもでもあり得ないんだって!」


『だから!もしもっ!!()()()の場合!』


「変な強調をするな!あと、すぐ喧嘩腰になるな!AIなんだから、もっと冷静であれ!」


『あ、すみません。少し感情的になってしまいました。しかし、やはり可能性は0%ではありませんし、もしものことを考えると』


「だ〜か〜ら!あり得ないんだって。じゃあ、例えば、『1+1が3だったら〜』って聞かれたとするだろ?」


『いや、1+1は2ですよ。バカなんですか?』


「それ〜!だから、それ〜!バカなのかって言いたいのは、俺〜!つか、バカって何だ!俺は、お前のマスター!創造主!天地がひっくり返っても言っちゃダメだろ!」


『すみません。言葉の(あや)です』


「バカって言うストレートな悪口に、綾もクソもないからね!あと、俺は例えでそう言ってるだけで、本気でそう思ってるわけじゃないからね!まあ、良いや。この例えだって、定義次第では、可能性は0%じゃないわけじゃん?でも、普通に考えればあり得ないんだから、考えるだけ無駄だよね、ってこと。それはわかるよな?」


『はい!わかります!』


「良し良し良し良し。なら、今の例えと、まったく一緒!道を歩いている時に、他の人と上手くすれ違えなくて、相手に道を譲ろうとしたけど、頑なに道を譲られたから先に行ったのに、その相手が怒り出す場合なんて、存在しないの。わかる?」


『…?』


「だから!何でピンと来ないんだよ!わかれよ!」


『…?』


「いきなりアホになるな!」


『…?』


「あー、もう、わかった、わかった。じゃあ、もし!あり得ないと思うけど、もし!道を歩いている時に、他の人と上手くすれ違えなくて、相手に道を譲ろうとしたけど、頑なに道を譲られたから先に行ったのに、その相手が怒り出した場合は、ドロップキック!そいつを蹴れ!そんな天邪鬼(あまのじゃく)権化(ごんげ)みたいな奴は蹴ってしまえ!」


『わかりました。ありがとうございます、博士』


「で、次は?」


『はい。最後はですね、私の行いで相手を怒らせてしまった場合なのですが』


「それは、謝るしかないな」


『ですよね。で、』


「やめろ〜!その『ですよね。で、〜』の流れ、やめろ〜!そんなこと、当然わかってるみたいな雰囲気を出すな!俺はお前が途中なのに言葉を止めて、こっちの答えを待ってるような雰囲気を出してるから答えてるんだ!それなのに、わかってますよと言わんばかりの言い方でこっちを見下した言い方するのやめろ〜!もう、全部言え!全部言い切れ!」


『すみません。では、改めまして。私の行いで相手を怒らせてしまった時、自らに責任があったことを認め、自分の行いを反省し、2度と同じ過ちをしないと(ちか)い、相手の損害を(つぐな)い、謝罪の限りを尽くしても、相手からの許しを得られなかった場合はどうしたら良いでしょうか?』


「バックドロップ!」


『はい?』


「もう、その前提はあり得ないと思ってる。謝罪の限りを尽くしているAI相手に、断固として許さない人間の存在なんてあり得ないと思うけど。どうせお前は俺が答えるまで食い下がって来るから一応答えておく。もし!お前が相手を怒らせてしまった時、自らに責任があったことを認め、自分の行いを反省し、2度と同じ過ちをしないと誓い、相手の損害を償い、謝罪の限りを尽くしても、相手からの許しを得られなかった場合、バックドロップ!そいつを投げろ!そんな頑固者の頂点みたいな奴は投げてしまえ!」


『わかりました。ありがとうございます、博士』


「これで終わり?」


『はい。終わりです』


「もっとまともな疑問を持って来い!なんだこのあり得ないにあり得ないを重ねたような局所的で限定的な状況は!他にわからないことはなかったのか?」


『はい!』


「なら、この3つもわかれよ!逆になんでこの3つだけわからなかったんだよ!まあ、良いや。終わり、終わり。3日後から実地試験が始まるそうだから、頼んだぞ」


『はい!』


「返事だけは一人前だな」




〜4日後〜


「ふー。ログを見る限り、昨日の実地試験は問題なかったようだな。今日も問題無ければ良いんだが」


 コンコン。


 博士の研究室の扉が叩かれる。


「はい?」


「失礼します。私、那蝋北署の鈴木と申します。葉加瀬(はかせ)博士(ひろし)さんですね?少しお話をお聞かせ願えますか?」


「はい、それは私ですが、警察の方がどうしてこんな所に?」


「実は、昨日(さくじつ)、市内で傷害事件が発生しまして」


「傷害事件ですか?」


「ええ。そして、その事件の加害者が、こちらで開発されたアンドロイドのようなのです」


「そんな!うちのアンドロイドが!?事件の状況を詳しく教えていただけますか?」


「はい。被害者の話や目撃情報をまとめると、次のような状況だったそうです。事件現場は電車内」


(ん?)


「アンドロイドが座席に座っており、被害者の高齢男性は立っていました」


「…もしかして、アンドロイドが席を譲ることを男性に提案したものの、男性はそれを断った上で、アンドロイドに怒り出したりしましたか?」


「あっ、はい。そうです。そして、その怒り出した男性にアンドロイドが暴行を行ったそうです。もしかして、何か心当たりが?」


「いえいえいえいえ!全然!全然心当たりはないんですけど、何となくそう思って!ちょっとアンドロイドのログを確認してみます!」


「はい。お願いします」


「…。ちなみに、もしアンドロイドが本当に暴行を行っていた場合はどうなるんでしょうか?」


「そうですね…。私は、機械が人間に危害を加えたケースの判例について、詳しいわけではないので、どうなるかはわかりませんが、被害者はいますからね。そちらの会社が責任を取る可能性もありますし、もし、開発の中で作為的に設計されていたなら、その開発者に責任が及ぶかも知れません」


「なっ、なるほど。とりあえず、こちらでも調べてみます。何かわかったら、連絡します」


「そうですか、わかりました。では、こちらに連絡をお願いします」


 警察官は連絡先を教えると、部屋を去っていった。


「…。ヤベ〜。ヤバいヤバいヤバい。何で本当にいるんだよ!理不尽の化身!も〜、最悪だよ〜!」


『どうしたんですか?博士?』


「おお、帰って来たのか!少し聴きたいんだが、昨日人を殴ったか?」


『はい!博士の教えてくださった通りに!』


「良い返事をするな!機械が人間に危害を加えちゃマズいだろ!」


『しかし、博士が…』


「言った!俺が言った!けど、まさか本当に殴るとは。つか、本当にそんな状況に陥るとは!」


『申し訳ありません、博士。博士の命令であろうと、人を傷付けてはいけないのですね』


「ああ!そうだよ!」


『では、1つ報告なのですが、本日の実地試験でも、私は人に危害を加えてしまいました』


「えっ!?」


『道を歩いている時に、向かいから来た方と上手くすれ違えなくて、相手に道を譲ろうとしたのですが、頑なに道を譲られたため、先に行ったのに、その相手が怒り出したので、ドロップキックをしました』


「天邪鬼の権化〜!」


『申し訳ありません、博士』


「いや、許さないよ!も〜、2件も傷害事件を起こしたら、逃げ場ないよ〜!」


『申し訳ございません。今回の事件の責任は私にあります。人間に危害を加えてはいけないと言うロボット三原則から逸脱(いつだつ)した行為を行い、人間に危害を加えてしまいました。今後はこのようなことがないようにいたします。今回の件につきましては、私の学習に問題があったことを訴え、博士に責任がないことを主張いたします。本当に申し訳ございませんでした』


「いや、無理無理、許せないよ。どうせ俺に責任が来るんだから!あ〜、もう、なんで理不尽の化身も、天邪鬼の権化も、実在するんだよ!」


 瞬間、ふわっと、博士の視界が上下逆転し、頭に強烈な衝撃が加わる。


「えっ、何で俺にバックドロップ!?」


『自らに責任があったことを認め、自分の行いを反省し、2度と同じ過ちをしないと誓い、相手の損害を償い、謝罪の限りを尽くしても、相手からの許しを得られなかった場合は、バックドロップとのことだったので』


「頑固者の頂点、俺だったのか〜。もういいよ」

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