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会津遊一 ホラー短編集

美しい姉と私

作者: 会津遊一
掲載日:2009/10/03

 私の姉は、美しかった。


熟れた果実のように艶やかな肌。


誰でも受け入れてくれそうな、柔らかい物腰。


香水を付けていないのに、果実を連想させる香り。


リンゴを半分に切ったぐらいの揉みやすそうな胸。


日本人形のように清楚な顔つき。


だが、それでいて相手を誘い込もうとする妖艶な下半身。


相反する美しさ。


全てが男性にモテる美しさだった。


 私とは、違う。


私は。


老婆のように醜い。


私が一緒にいても、男性に声をかけられるのは姉だけ。


お店に入っても、見られているのは姉だけ。


私を見て、姉のお母さんですか、と尋ねてくる奴もいた。


それが、たまらなく嫌だった。


 子供の時は、姉と違いすぎる外見を嫉ましくも思っていた。


憎みもした。


つい、八つ当たりしてしまう時も合った。


物を投げつけ、服の裾をハサミで切ったりもした。


 けど、姉は。


そんな私でも、受け入れてくれた。


親に見付かった後、問い詰められる私を助けてくれた。


一緒に謝ってくれた。


私はごめんなさい、と心から姉に謝った。




 そんな姉が、この春に結婚する事になったのだ。


私はおめでとう、と言いたかった。


けど、後で言おうと、考えていたら言いそびれてしまった。


 私は姉の旦那となる人が、なんだか嫌いだった。


何時もだらしなく、ヘラヘラと笑い、誰に対してもため口だった。


姉に、タバコもってこいよ、とか命令している姿を見掛けると。


私の胸は悔しさで苦しくなった。


姉は素晴らしいのに、その旦那は最低の人だと思った。


 私は姉に尋ねた。


何故、あんな男と結婚するのかと。


姉は、あれでも可愛い所があるのよ、と頬を染めて話していた。


恋は盲目なんて聞こえは良いが。


それに振り回される家族は、嫌な思いしかしない。


私は、姉に近寄らなくなっていたのだ。




 こうなる、予感は合った。


何時か、こうなるんじゃないかという予感。


突然、姉とあの男の結婚が、取りやめになったのだ。


理由は知らない。


大人達は黙っているし、姉に聞く事は出来なくなっていたから。


いや。


聞く事だけではなく、話す事も出来なくなっていたのだ。


 破談になった後。


姉の豹変ぶりは凄かった。


以前の美しさは欠片もない。


ボサボサとなった髪に、痴呆症患者のように口を開き続けている。


常に口元が涎で濡れるので、よだれかけは外せない。


瞬きをしないから眼球がカサカサに乾き、目の中が赤く変色していた。


人並みの体型だったのに、今では枯れ木のように細ってしまっていた。


 姉は。


何も食べす、一日中座り続けているのである。


ボーッと一点だけを見詰めて、動かない。


 これでは体裁が悪いだろうと、両親が姉を何もない屋根裏に閉じ込めてしまう。


それでも糞尿だけは出し続けるので、私が姉のおしめを取り替えてあげる事になった。


もう。


姉に対する劣等感は、完全になくなっていた。


それよりも私の中で、姉を元に戻したいという気持ちがわき上がっていた。


もう一度、姉と外を一緒に歩きたかった。




 それからというもの。


私は出来る事を、精一杯やった。


反応はなかったが、学校で何をしてたのか話し続けた。


毎日、肌も拭いてあげたし、髪にブラシを入れてあげた。


部屋にいるだけでは気分が滅入るだろうと、美しい風景写真を差し入れしてあげた。


点滴だけで栄養を取っていたので、工夫して食事を食べさせるようにした。


 やがて離乳食から病人食へ、そして普通の食事に変わっていった。


その頃になると。


姉は少し話すぐらいまで、戻っていた。


ぽつりぽつり、とだが、私の言葉に返答してくれた。


姉は俯いて、私の顔は見ようとしなかったが、それでも良かった。


目の前に、姉の顔があるのだから。




 そして。


姉を自室に戻す日が来た。


私は大いに喜んだ。


早く、元気になった姉の姿を沢山の人に見てもらいたかったのだ。


 だが。


姉が部屋に入った瞬間。


わめきだしたのである。


狂った牛のように鼻息を荒くし、涎をまき散らしている。


言葉にならない言語を叫び、ここまで運んできた私をツメで引っ掻いた。


ぷつっと。


私の腕から、赤い血が滴り落ちる。


それでも姉は、狂乱したように腕と足をばたつかせ、興奮し続けていた。


 何が、どうしたというのだろう。


私が混乱していると、姉がある場所を指さした。


そして、それを壊せと、泣き出したのである。


 鏡だ。


「それを壊して、壊してっ! 嫌だ! その顔は嫌だ! 嫌だ! その顔になるなんて、死んだ方がマシだ! どうしてお前なんかと同じに!」


そこには私の顔が2つ、映っていた。


笑っている私の顔と、泣いている私の顔が。




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― 新着の感想 ―
[良い点] すげー怖いっす。 [気になる点] すげー怖いっす(笑) [一言] この一つ前の作品、カセットテープの方もかなり感心したのですが、相変わらず上手いなーと溜め息を吐いております。どうしてとか何…
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