2-17 憧れの処刑人レイカ
後日、僕とミヤタ、それにぶたにくは、新しくメンバーに加入したハナコを連れて商店街エリアで待ち合わせをしていたわけなんだけど。
「あの、ハナコさん?」
「わんわんわん!」
と、僕が彼女に声をかけるたびにこうして威嚇してくるのでまともなコミュニケーションをとる事すら出来なかった。
「しょぼーん。嫌われちゃったよ。ママー、僕を慰めて!」
「よしよし。わたしはヨシノくんのことだいすきだよー?」
「ばぶばぶー!」
僕はわざとらしくへこんで退行化しミヤタに甘え頭を撫でてもらう。なんか周囲の人に汚物を見る目で見られているけど気にするもんかい。
「ふーん。やっぱり噂に違わぬロリコンだったんですね」
特にハナコが。僕のロリコン疑惑は見ず知らずの人にも伝わっていたのかな。いやロリコンじゃないけど。
「それにしても随分と復興が進んでいるんですね」
「そう? まだまだだと思うけどね」
ハナコは商店街を見渡し僕にそんな質問をした。僕はそうは思わないけど、会話の糸口になりそうだし話題を広げる事にする。
「ただ東京オリンピックが中止になったから用意していた人や資材が割安で手に入ったっていうのは聞いたよ。そのせいじゃないかな。他にもいろいろ要因はあるけど」
「え? オリンピックが?」
「うん、ニュースでもやってたじゃない。絶妙なタイミングで都知事がやらかして」
ハナコはその説明にギョッとしているようだった。裏金騒動による誘致失敗のニュースは連日ワイドショーを賑わせていたから日本に住んでいれば嫌でも知っているだろうに。テレビを見ない人なのかな。
「でも普通に話してくれて嬉しいよ」
「そ、そうでした! がるる!」
あー、やっぱり失敗。ハナコは敵対していた事を思い出しまたワンちゃんモードになってしまった。年頃の女の子は扱いが難しいなあ。
(ん?)
その時ふとどこからか視線を感じる。僕はあたりを見渡したけど特に何があるわけでもなかった。
「ぷひ?」
「何でもないよ」
ま、いっか。殺気は感じられないし。僕は不思議そうな顔をしたぶたにくにそう告げた。
キコキコキコ。聞き慣れた車椅子の車輪の音が聞こえ、視線を戻し前方を確認すると目当ての人物の姿を確認する。
レイカとナバタメ、それに彼女の車椅子を押しているヤオだ。ヤオとは約束してないけどうちの団体の準レギュラーだから別にいいだろう。
「ありゃ、またなんか女の子が増えてる」
「僕も好きで増やしているわけじゃないけどね」
レイカはからかうような、あるいは呆れたような視線を僕に向けた。実際周りが女の子ばかりだという自覚はあるしこのままいけばきっと僕はハーレム系ラノベの主人公になるんだろうね。
「はて、そちらの方は?」
「えーと、新しく加入した人です」
「あ、どうも。ア……ハナコって言います」
ハナコは何かを言おうとして慌ててハナコという名前を言った。ナバタメは特に気にせず上品に会釈する。
「初めまして、ナバタメです」
「どもー。ヤオだよ」
「レイカよ。これからよろしくね」
そして最後にレイカがそう親し気に挨拶した時、ハナコはあからさまに嬉しそうな表情に変化した。
「は、はい。その真っ赤な髪で遠くから見て薄々そうじゃないかと思っていましたけど、ふわー、あなたがレイカさんですか!」
「ええ、レイカだけど」
その純粋な憧れの眼差しにレイカはたじろいで照れてしまう。彼女は有名な不良だし名前くらい知っていても不思議ではないだろう。
「大方盛りに盛った伝説を聞いたのね。不良に夢を見るものじゃないわよ」
「あ、いえ、そういうわけでは。うぅ、でも本当の事を言うわけにはいかないし」
「?」
ハナコはもじもじしたあとボソッと何かを言った。僕は本当の事、がどういう意味なのか分からなかったけど話を進めるためナバタメに尋ねる。
「それで話していた物件は?」
「ええ、すぐそこですわ」
ナバタメは建物のほうに視線を向け、ニコリと微笑む。
そこにあったのはこの街じゃ珍しくもなんともないボロボロになった廃墟のビルだった。そのあまりのオンボロさにヤオは笑ってしまったようだ。
「わーお、オバケが出そう」
「ゾンビならいるよー」
「ぷひ」
「ささ、まずは中に入りましょう」
ミヤタの冗談にナバタメは思わずククっと笑う。そして僕らは早速廃墟のビル内部へと突入する事にした。




